幕間
とある放課後。学校の下らない授業も面倒な人間関係も、一時忘れることの出来る金曜日。
彼は普段通り、自転車で下校していた。まだ日が残っているため明るいが、しばらくすると薄暗くなる時間帯。たいぶ家に近づきつつあるなか、彼はキョロキョロしている小さな人影を視界にとらえた。
中学生らしく制服を着ているが、その挙動は不審そのものである。いったいなにをしているのか、と思ったところでその顔が目に入る。
ぱっちりした目に気の強そうな顔つき。ポニーテールにした髪。
しかしその目には、涙がこぼれんばかりにたまっていた。
そこでようやく彼は気付く。
…もしかしたら、迷子かもな。
別に特別なことではない。暗くなれば道を間違えることもあるだろう。普段の彼なら気にすることなどない程度の出来事。
しかし彼は明日から休日とあり、少し浮かれていた。
だからこそ、柄にもなく思ってしまった。
---交番に届けるくらいならしてやるか。
彼はその少女の手前に自転車を停めて声をかけた。
「…なぁ、」
少女は少しビクッとしたが、彼の顔を見る。
見覚えのない顔で少し怪訝な顔をしていた。
「迷子か?」
気にせず彼は少女に聞く。
しかし少女は俯いて、それきり黙ってしまった。
(…失敗したか…)
もう少し優しく声をかければ良かったのかもしれないが、彼は基本的に無愛想なのだ。
無論、学校ではちゃんと仮面をかぶり愛想よくしているが。
いっこうに話す気配のない少女の頭に、彼は手をぽんとのせて言った。
「別に迷子じゃないならいい。けど、もし迷子なら俺の後をついてきな。大通りにでてやるから。
それでも帰り道がわからないなら交番までは連れてってやる」
少女は何も言わなかった。
そのため、彼は自転車をひいて歩く。
その後ろからは、鼻をすする音が聞こえてきた。
その音は大通りに出るまで続いた。
「…………あ……とう……ました…。」
泣きながらお礼を言う少女に彼は一言、
「…ああ」
そう返してから自転車に乗り、帰路についた。