それが私達の日常
五月病というものがある。
気だるい、やる気が出ないなどの一過性の精神的なものを主に指す。
私、竹森 美夏はその五月病そのものの状態であった。ゴールデンウィークもとうに過ぎ、そろそろ授業の復習をしないといけないと感じつつ、やる気が出ない。
さらに言うなら、人の顔と名前を覚えるのが苦手なため、入学して既に一ヶ月。
いまだに友達の一人も出来ていなかったりする。
結局、生徒会室に彼を引っ張りこんだ後に生徒会役員の前田さん(男)に話を聞いた。
どうも生徒会に立候補できるのは後期からであり、生徒会と運動系部活動の両立は難しいためおすすめしないとのこと。
私は弓道部に入るつもりでいたので現在入部をしようか悩んでいるのである。
また、一緒に話を聞いていた彼は部活動に入っていないらしいし、入るつもりもないと言っていた。
前田先輩がイイ笑顔で
「うち(生徒会)においでよ!いや、ほんとに来てくれない?引き継ぎのメンバー足りないかも知れないから」
と誘っていたが、のらりくらりとかわしていたので彼がどうするのかは全く読めない。
ちなみにその彼は普段、教室内では静かにしている。
別に私と違って(・・・)ぼっちという訳ではなく、話し相手は何人もいる。
話しかけられたら丁寧に応対するし、何より話し方が上手で面白いため、彼といると退屈しないのだ。
しかしどこか人と関わるのを避けている節があるので、クラスの中でもよく話しかけるのは数人しかいない。
一人は廣瀬君。この子については…よく知らない。
バレー部に正式に入部して練習が大変だと言っていたことくらいだろうか。
もう一人は天草くん。小動物みたいというか、守ってあげたくなる感じの男の子。礼儀正しくて女子の中でもかなりの人気を誇る。既に「陰から見守り隊」というファンクラブが入学一ヶ月にしてあるらしい。
天草くんは彼の前の席なので、休み時間はよく話をしている。
以前は何人もの女子がハイエナのごとく、休み時間のたびに天草くんのもとへ押し掛けていたが、天草くんが困っている時にさりげなく何度も彼がフォローしているのを見かけたいいんちょが、天草くんに過剰に関わることを禁止したため平和な日々を送れている。
困っている天草くんも可愛らしいが、少しやり過ぎだと思っていたので、いいんちょの判断はナイスだと思う。
ちなみにその頃から、彼に対するイメージは少しずつ変わっていった。無愛想ないけ好かない奴から、不器用だけど面倒見の良い奴へと。
無論、本人はそんなこと知らないだろうが。
というより興味がなさそうだと思う。
彼はなかなかの変わり者で、男子の会話の大半に興味を示さない。そのくせ、クラス内で「番長」と呼ばれている美濃さんに初めて話しかけた人である。
それまで美濃さんは誰にも話しかけられなかった。いじめなどではなく、純粋に皆、本能的に避けたのだろう。
ちなみにその時既に天草くんと彼はよく話をする間柄だったが、天草くんは番長に話しかける彼をそわそわして見ていた。
…よほど心配だったのだろう。なにせ番長である。
喧嘩したとか、そういう話はまったく聞かないがなんというか、オーラがヤバい。まさに番長なのだ。
美濃 雪穂。通称、番長。一部にはゆきぽんと呼ばれているらしいが…。命知らずなのはどこにでもいるのだろう。
その美濃さんは、皆にハブられていて割とショックだった、と彼にこぼしていたが、彼が話をしてからクラスに溶け込めたようで、いまだ扱いはライオンのようだが馴染めてはいるようだ。
そんな彼や番長、天草くんといった濃い人が多い私達のクラスだが、私にはあまり関係ない話でもある。
なぜなら私はぼっちだからだ!
…。
……。
………。わかっている。わかっているんだ、これでは駄目だと。
このままではまるで、私が残念な子のようになってしまう。事実は違うということを証明せねば!
私は決意を新たに、彼らの輪に歩を進めた…。
竹森さんは疑う余地のない残念な子ですが、自覚はありません。(笑)