接触
無事に入学式を終えた彼は、自分の教室に向かっていた。
新しい環境に変わって、それに慣れるまでは疲れるだろうが、まぁ問題はない。作ろうと思えば友達は作れるし、授業もしばらくは中学の復習だろう。
そんな益体もないことを考えているうちに教室に着く。
黒板に席が書かれており、やはり出席番号順なので彼の席は後ろから二番目だった。
することもないため、自分の席に着き担任が来るのを待つことにする。
と、同じクラスになった生徒がちらほらと来はじめたようだ。
少しばかり緊張しているように見える同級生を眺めつつ、
あぁ、この初々しさもすぐになくなるんだな、などと他人事のように思う。
しばらくすると担任が来て、かんたんなHRをして本日は終了となった。
放課後、部活を見学しに行く人が多く、それ以外は大半が帰路につくなか、彼ともう一人だけ教室に残っていた。
彼は親の車に乗って帰るつもりだったため、教室に残っていた。
暇だったため、彼女の様子を何とはなしに眺めていたのだが、見られていることが気になったのか。
彼女が話かけてきた。
「私の顔に、何かついているか?」
ただ見ているだけだ、と言おうとして気付く。理由もなく見ていたと言われるよりも、なにかしら理由があった方が納得しやすいだろう、と。
「いや、何もしていないみたいだったからね。
誰かを待っているのか、少し気になっただけだよ」
そういうと彼女は納得したのか、その理由を教えてくれた。
「いや、私の友人に連絡したのだが、いかんせんまだ終わっていないみたいでな。
動きまわっているより、同じ場所に居た方が分かりやすいだろう?
だからまぁ、待っているというのは間違っていないな。
そう言うあなたは?」
自分は親待ちだと伝わると、そうか。と返された。
沈黙が降りるかと思ったが、彼の携帯が鳴る。
連絡は親からで、どうやら終わったから駐車場に先に行ってほしいとのことだ。
彼女にこれから一年よろしく、と言って彼は駐車場へ向かった。
教室に残っていた彼女は友人が来るまでの間、先ほどまで会話していた男のことを考えていた。
彼のもつ雰囲気は表面上は普通だが、まるで―――――
過去の自分の眼のようだ、と。