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彼は、受験結果の確認に高校に来ていた。
自分の学力に合ったところではなく、交通の便が良くプールがある学校、という他の受験生をばかにするかのような基準で選んだ高校だ。
無論、彼はいたって真面目に選んだつもりである。
自分が納得した学校でなければ、いかに良い環境でも頑張り続けられないと思ったのだ。
とは言っても、やはり学力レベルは合っていなかったため、合格はしているだろうと予想していた。
というより、試験が時間内に解き終わり、見直しも二回して、それでも時間が余ったため寝ていたりしたので、落ちていたらきっと名前を書き忘れたのだろう、くらいにしか考えていなかった。
アホである。
ともかく試験の結果を確認しようと、人の流れについていく。
すると、まだ発表時刻までそこそこ時間があるというのに、彼と同じように受験生が大勢いた。
しばらく待っていると、大きな紙に合格者の受験番号がはりだされ、受験生たちが群がっていく。
慌てたところで結果は変わらない、そう思い人だかりを眺めていた。
そんな時だった。
「キミ、自分の結果は確認したのかい?」
聞き覚えのない声のした方にゆっくりと顔を向ける。
ショートの髪に小柄な身長。
彼とは違う中学であろう、見知らぬの女の子がコートに両手を突っ込んで彼女はこちらを見ていた。
ちなみに違う中学だと思ったのは、彼女の制服のスカートにラインが入っていたからだ(彼の学校の女子制服にはない)。
「すまないが…」
だが、彼にはこの少女が声をかけてきた理由がわからない。もしかすると、自分を友人誰かと間違えたねかもしれない。
多くの受験生が結果を見に行っており、彼の周りに人はまばらにしか居なかった。
彼は周囲を見回した後、確認する。
「俺はあんたと初対面だと思うんだが…」
「そうだよ。」
彼女は当然のように言った。
「なら、何の用だ?」
ただ純粋に疑問だった。
「だって、結果がはりだされたのに一人で動かないで居るからね。
もう結果を確認したのなら教科書を買いに移動するか、とぼとぼ帰るかだろうけど、結果がはりだされた方は向いてるのに見に行かないキミを見つけて、なんとなく気になったから声をかけてみただけだよ。」
なるほど、言われてみれば納得できる。
明らかに受験生なのに、他の受験生が動いても、何の行動も起こさない。
それならば何をしているのだろう、と思うのは自然なことだろう。
もっとも、彼はただ人が少なくなってから確認すればいいと思っていただけだが。
「なるほどな。そういうあんたはもう結果を確認してきたのか?」
「ほら、私はあんまり背が高くないから。
遠くからだと他の人の頭で見えないから、人が少なくなってから見に行こうと思ってね。」
彼女も同じ考えだったようだ。よく見ると、数人ではあるが同じように動いていない受験生が居た。
無論、彼のように一人でいる者はなく、友達と話をしながら待っているようであったが。
まぁ、人の考えることなど同じようなものであるということだ。
「奇遇だな。俺も似たようなものだ。どうせなら後で一緒に見に行くか?」
「そうだね。ところで、キミの名前を聞いてもいいかい?」
…普通は相手も自分も受かっていることが分かってから聞くのではないだろうか。
「あんたも変わってるな。結果が分かる前に聞くか、フツー?」
「んー、だってキミ受かってそうだしね。それに、もしどっちか落ちてても別にあんまり気にしないでしょ?」
たしかに、元々他人なのだから片方が落ちていても気になるはずがない。ただ、彼は思った。
…変わったやつだ。
彼は黙って肩をすくめた。