初め
彼は歪んでいた。
自らが歪であることを自覚する程度には。
彼は嘘つきだった。
自らの気持ちすらも偽って生きるほどに。
彼は独りだった。
確かに友人も、恋人も居たのに。
彼は分からなかった。
自分が求めるものが、一体何であるのか。
彼は苦しんだ。
何に苦しんでいるのかすらもわからないことにまで。
そして、彼はなにもかもどうでもよくなった。
これは、そんな彼の物語。
小学生だったころ。掃除をさぼる他の子を視界の端に、彼は黙々と掃除をしていた。
別に押し付けられたりした訳ではない。
彼にとって、自分に当てられたことをしっかりと行うことは当たり前だったからだ。
もちろんさぼる同級生に対して、思うところがないわけではない。
だが、そんなことを言ったところで彼らが変わるとは思えなかったし、自らのやらなければならない分を終わらせるのが先だと思っていた。掃除自体は苦ではなかった。
とは言っても、彼に押しつけようとする者が居なかった訳ではない。
だが、彼は自分の分は責任をもって行うが、それ以外のことには興味すら抱かなかった。ゆえに、押しつけようとした者は、誰も彼に自らの役割を押しつけることはできなかった。
中学生。最も平穏であった時期である。
部活動もそこそこに、趣味の読書も満喫した。
勉学でも成績が悪かったわけではなく、むしろ優秀な部類であった。
友人も順調に増え、少し見栄をはって話を大きくしたらそのことがばれたため、若干ばつが悪かったことがあったが、この年代では日常茶飯事な程度であった。
友人を増やそうとした訳ではなかったが、自然に増えていった。彼は、意味もなく罵倒したり、短慮な物言いもしなかった。
それに、彼の周りに居たのが比較的良い人が多かったというのもあるだろう。
中学時代には、さして大きな問題が起きることはなかった。