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ループ状になっている繋目にある魔力を逆読みしてから、呪文で解くことにする。
呪文を唱えるのは、私自身の魔法の痕跡を残させないため。
だけど、それだけでは、解けないため、少しだけ増幅魔法を上乗せする。
元が、私の魔法ではないため、増幅魔法が使えるのが幸いした。
私は、ループが解けると同時に、傍観者に向けて矢を同時に2本放った。
「先手必勝って、言うでしょう?」
「ルナ……人相、悪いですよ……まるで、悪巧みをする魔女みたいです!」
ニヤリという表現が正しい笑みを浮かべている私に向かって、ミーナが放った言葉は容赦がない。
「えー!? 酷いなぁ、ミーナは……。それより、どこから弓を出したの? ハヤワザ? っていうくらい驚いてよ」
「……驚きませんよ、そんなことくらいで」
「ちょっと、ちょっと! こっちはムシなわけぇ? 酷いじゃないのぉ! 二人で楽しく会話なんてしてないで、ここは、私に対してツッコむところでしょう! そんなことより、早く、この弓矢、どうにかしなさいよ!」
私たちは、会話に強引に割り込んできた人物へ目を向ける。
見事な桃色の髪に瞳の色まで桃色!?
綺麗なドレスに包まれている肢体は、女の私から見ても眼福な姿。出るところは出ていて……ボン・キュンボン?
思わず見惚れていたが、何やら美女が喚き散らしている。
ようやく、耳に入ってきた言葉は、耳汚く……。要するに、服と一緒に木に縫いとめられている矢をどうにかしろ……ということらしい。
あー、嫌だなぁ……。だって、力がいるんだよね……。
木に突き刺さっている矢を引き抜こうと思ったら、結構大変なんだよね。
面倒だなぁ……なんて思っていたら、声にまで出ていたようで、美女の顔が険しくなっていた。
ふぅっ! と溜息を吐いた後、ミーナが弓矢を剣で切り自由にしたのは、美女の隣の木に縫いとめられていた男だった。
「ちょっとぉ! どぉして私より先にアリを自由にするわけぇ? あんまりじゃないっ!」
唾を飛ばしながら激昂する美女を横目に、ミーナは私の隣へと戻ってきた。
「その弓矢は、私の力では抜けない。だが、一本くらいは無事に手元へ戻して欲しい」
ミーナは、美女を完全に無視して男へ告げた。
男はミーナに向かって頷くと、横の木へ縫いとめられている美女へ手を伸ばし……やはり無言で矢を引き抜いた。
男の手に握られていた筈の矢は、突然消えていた。
「へぇ……イレイズの魔法? 初めて見たわ……って感心するとでも思った? そんなもの使えるなら、最初っから使いなさいよっ!」
「イレイズは、物理的にこの世の物に囚われていれば、使えない。知らない……の?」
「キーッ、嫌味な女ね! キャァー、穴が……穴が空いている……」
自分の服、矢が突き刺さっていた場所を睨み喚く。
「そのくらいの穴なら、繕えば何とかなるわよ!」
あまりの煩さに、先に根を上げたのは、ミーナだった。
「いったい、誰が繕うっていうのよっ! それに、継ぎはぎしたものを私に着ろっていうの!?」
放っておけば、ずっと、喋り続けていそうな雰囲気だった為、途中で遮らせて貰うことにした。
「それで傍観者殿は、何故、こんなことをしたのかしら? 惚けても無駄ですから! 私はしつこいですよ? 根掘り葉掘り聞き出しますよ? そう……誰も近づかない筈の森の中で、わざわざループ魔法を作り発動させたのは、何故です?」
私の声が後半に従って、底冷えしたものになってしまったのは、仕方がないことだろう。
何せ、“わざわざ”ループ魔法を作ったのだから。そう、ループ魔法は面倒くさいのだ。他の魔法とは異なって、ちまちまとした作業がいる。魔法を使えるほとんどの者は、面倒なことを嫌がる傾向にある。
それなのに……だからだ。
その上、ループ魔法を作ってから発動するまで、かなりの時間が経っていた。
このことは、魔法を解除する際に気が付いたことだった。
普通は、自分が作り出した魔法をすぐに試したいものではないのか?
それなのに、それをせず、時間を置いたのは何故だ?
この目の前にいる美女は、不審するぎる!
いったい、何者で、何の目的で……?
「……の趣味です」
「はっ?」
始めの言葉が聞こえなかった。
しかし、趣味……と言わなかっただろうか、この男は?
「だからぁ、私の趣味なのよぉ~!」
「…………あくまで、私に嘘を吐くと……?」
「違うわよぉ。ここまできて、嘘はつかないわよぉ! そうそう、私の名前はライラよ。で、アリは、私の従者よ。そぉんな怖い顔して睨まないでよぉ! ちょっとした悪戯じゃないの」
「ちょっとした悪戯?…………」
私のこめかみがピクピク痙攣しそう……。
言いたいことを無理やり飲み込んで、やり過ごすことにする。
「ミーナ、先を急ごう」
森の奥深くへと進むためにミーナへ声をかけた。
「ルナっ、危ないっ!」
ミーナの声と同時に、ドンッ! という衝撃が身体に走った。
ミーナの声に振り返った私は地面に倒れながら、彼女が私の代わりに割れた地面に落ちていく姿を目にしてしまった。
「……っミーナ!」
咄嗟に手を伸ばしたが、彼女に届くことなく、空を掴むばかりだった。