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謎の王子視点→ライ視点になります。
「王子、ちょっと本気ですか?」
「お前に嘘をついてどうする? それに、ここまで来ておいて、本気も何もないだろう!」
ルナは、俺の花嫁だ! 何故、了承の返事が来ないのか………?
国同士の婚姻としては、決して悪い話ではないはず。特に、ルナの国にとっては……。
なのに……何故、無視される?
ルナとの政略結婚ではなく、他の貢物で済ませようと小賢しい真似をするのは、誰の考えなのか?
ルナ自身が嫌がっているのか? だから、父王が結婚を認めないのか?
それならそれで、構わない。
例え、ルナに幼いころの約束事と一笑に伏されたとしても……。
思わず、ニヤリと片方の口角が上がる。
強引に奪うのも一興か……。
調査報告によると、幼い頃のまま、お転婆に育っているらしいが……?
女だてらに、魔法だけでなく、馬も剣も弓も扱えるらしい。
魔法ばかりに頼るのは、頂けないからな。
今日は、双子の王子と王女の誕生日祝いのための舞踏会。
その混雑に紛れ、王女を攫う。
それにしても、この警備の甘さは……?
思わず、罠か? と思うほどなのだが……。
後方から話し声が聞こえてきたため、柱の影に隠れる。
『おい、聞いたか? 姫様に婚姻の話があるって!』
『いや、知らない。だが、姫様も16歳になられるのだから、おかしくはないだろう?』
『いや、今まで、婚約話すらなかったのがおかしいだろう? それが、突然、結婚だぜ? しかも、一か月後!』
『急だな? で、どなたと結婚されるんだ?』
『それが、ヴァンデル国のレオンハート王子らしい』
『……!?』
思わず、舌打ちしそうになるのを堪え、場所を移す。
騎士たちが遠くへ行ったのを確認してから、従者へ合図する。
「急ぐぞ! どうやら、猶予はないようだ。……は、今夜だ!」
俺の低い声は、勿論、相手に届いている。
目を合わせ、頷いて確認する。
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時は、舞踏会の真盛り。
一部の衛兵たちが、慌ただしく城内を駆け回っていた。
そして、その嵐は城下町にまで飛び火していた。
城下町へ派遣された兵は、世継ぎの王子の近衛騎士たち。
その指揮をとっていたのは、勿論、主であるライオネル・ソール・ラインストーン王子。
「絶対に僕の妹、ルナ・ミラージュ・ラインストーン王女を連れもどせ! 彼女の髪の毛一筋でも傷がついていたら……」
王子はわざと、言葉を濁す。
『御意!』
騎士たちが敬礼し、それぞれの持ち場へと散っていく。
暗闇の中、王子は呟く。
「……ルナ……絶対に連れ戻すからね……」
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ライへ
私のことは、探さないで下さい。
ライのことは大好きだけど、このお城は大嫌いだったの。
だから、家出することにしました。
王女として、政略結婚は仕方ないと思っていたけど、国王様の選んだ国はないと思うの。
私は、人様の家庭をぶち壊すなんて嫌なの。
今までお父様に気に入って貰えるように努力してきたけれど、どうやら、無駄に終わったみたいなので、素に戻ることにします。
今まで、いっぱい猫被ってました。ごめんなさい。
ライは、気が付いていたかもしれないけどね。
追撃魔法対策はしているから、無駄なので、あしからず!
勿論、辺境候に戻るなんて……すぐにアシがつきそうなところになんて行かないわ!
だから、辺境候に対して、変なことしないでね?
下手な手出ししたら、この国の方が手痛いしっぺ返しされるからね?
それでは、元気で。
立派な王様になって下さい。
ルナより
追伸
私の初恋が実るように祈っていて下さい。
初恋の王子様と結ばれて(きゃっ)、子どもが無事に生まれた時には、連絡できるかも?
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手紙の宛名主であるライは、ワナワナと震えていた。
「……お兄ちゃんは、絶対に許しません! ……子ども? そんな既成事実作ってしまう前に、絶対に握り潰してやる――」
謎の王子、誰だかわかりました?
謎でも何でもなかったですね。