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神官より、転移魔法で神殿へ招かれた。
神官は、巫女姫のたった一人の後継者たる私の身を案じていた。
できることならば、私を新たな巫女として立てたいと思っていたが、フィリップス王子と婚約したと聞き、それが叶わなくなった……と。
大国、ヴィルヘルム王国を怒らせることなどできないからだ。
神官は、私の母の幼少時代のことをよく知っていた。
母を育てたといっても過言ではないのだろう。
だからこそ、私の身の上のことも案じていてくれたのだろう。
彼は、母が私に遺したメッセージがあると言って、視せてくれたのだ。
こちらへ……と通された部屋は、母ミーシャが最後に使った、大広間という。
ここで、守護魔法をかけて倒れた後は、部屋から出ることは、できなかったらしい。
その大掛かりな魔法を使う前に、お腹にいる私へメッセージを水晶球へ込めたのだと云う。
私が、その水晶球へ手をかざすと、その球の上にボウッと自身に酷似した女性が現れた。
直観で母、ミーシャだと分かった。
投影された女性は、私とよく似ているようでいて、どこか違っていた。
妖艶とでもいうのだろうか……?
その女性が私に向かって、ニッコリと微笑んだ。
彼女にも私が視えているかのように……!
そんなはずはないと、これは、過去に録画されているとわかっていても……驚くほど、私の動作を目で追っているように見えたのだった。
『ルナ・ミラージュ・ラインストーン……私の娘……。
私の息のあるうちに貴女をこの腕に抱くことは、できないでしょう……。
ですが私は、貴女の成長した姿を視ることができました。
ただ、その姿は、とても靄がかかっていて、はっきりとは視えなかったのです。
それは、変幻自在の夢見だったから。
夢見は、変化する可能性のある未来です。
だから、変わることもあるのです。
でも、私が先日視た予知夢は、これから起こること……現実です。
これを成さないようにするためには、代償が必要となります。
それが、私の命だとしても!
それをやり遂げるために、貴女の命まで一緒に奪うわけにはいかなかった……。
私と愛する男との娘なのですもの……。
ふふっ……。なぜ、娘だと分かったか知りたい? それは……ヒミツよ……。
あっ! こんなことより……。
んっん……! とにかく、私の持てる魔力全てを、この国へ防御魔法を掛けます。
ただ、貴女を産み落とす力だけは残すけれどね。
だから、そのために、貴女の魔力まで奪ってしまうかもしれない……。
ごめんなさい……。
でも、お腹の中にいる、まだ幼い貴女から、かなりの魔力を感じる……。
もしかしたら、貴女なら命まで掛けなくても、この国へ防御魔法を掛けられるのかもしれないわね。
でも、貴女が生まれて、魔法をうまくコントロールできるほど育つまで、この国は待てない。
それに、貴女には、巫女姫としてではなく、普通の女の子として恋をして、愛する人と結ばれて欲しい……。
これは、勝手な母としての想い……。
ルナ……、ここ数十年単位で、魔法の力は弱まって行っています。
近隣諸国でも、魔法を使える者は激減してきていると聞いています。
実際、この国の王族も魔力を持って生まれる者は、少なくなってしまいました。
あっ、でも、貴女は、一応、王族になるのかしら……?
……あの方は、認めてくれていないけれど……。
私のことは、関係なく貴女を愛してくれたら……と思うけれど……。
ふうっ! ……きっと、無理よね……?
ごめんなさいね……?
せめて、貴女の周りに誰か、愛する人がいてくれたら……それを祈ることしかできません……。
あぁぁっ! また、話が脱線してしまったわね……。
ルナ、貴女は、誰が何と言おうと、王族でもあり、次代巫女姫のある者として生まれます。
でも、巫女姫は、私の代で終わらせます。
王族でも、貴女は、これまでにない魔力の持ち主となる……。
ただ、これからこの国へ防御魔法を掛けるので、貴女の魔力を奪ってしまうことになるかもしれないわね。
とにかく、魔法は、消えていく運命にあります。
私の魔法が効く間は、ほぼ永遠に等しいと言いたいけれど、そうではない筈です。
だから、魔法に頼らず、人の力だけで国を守れるようにしていく必要があるのです。
あの方は、そう、努力しています。
そこに惹かれてしまったのかもしれませんね?
でも、人の力だけでは、無理な時もあります……。
今回の侵攻がそうだと思うのです。
私は、あの方とあの方との娘であるルナ、そして、あの方が全力で守って下さっているこの国を守りたい。
ルナ、貴女を一人にしてしまうことを許して欲しい……とは言いません。
これは、生まれたばかりの貴女を残す母の罪だと思うから。
でも、ルナ、貴女の幸せだけは、母にも祈らせてほしい……。
勝手な願いでごめんなさい』
映像が消えた……。
視界が霞んで見える……。
ああ、泣いているのか、私は?
神官が何か言っているが、暫くの間、耳に入ってこなかった。
やっと、耳に入ってきた時には、『銀狼』という言葉だった。




