22
合流してすぐに、銀狼の手の者に見つかり、私たちは二手に分かれることにした。
ライはごねていたが、私は、フィリップス王子と共に逃げることを選んだ。
ミーナは、私と一緒に行きたかっただろうが、私の気持ちを優先してくれ、何も言わず、私の剣を渡してくれた。
銀狼の仲間たちは、手練れだったが、私たちも3人で何とか応戦した。
始めのうちは、フィリップス王子も私の剣の腕を信じてくれてなかったが、一緒に戦ううちに、庇うだけでなく、任せてくれるようになった。
とにかく、銀狼自身が来るまでには、逃げたい一心だった。
何とか巻いて、ライたちと落ち合う宿へ辿り着くことができた。
ライたちは、まだ着いておらず、彼らの方も追っ手がきたのだろうと、推察された。
どうか、無事でありますように……。
祈らずにはいられない。
「ルナ姫……」
私が、ライたちのことを考えていた時に、フィリップス王子から名前を呼ばれた。
私は、王子の方へ顔を向けた。
「どうして……髪の色が違うんだ?」
「えっ?」
髪の色? 変わってないけど?
「いや、今じゃなく、昔と……子どもの頃は、赤かっただろう? 今は、金色がかかった赤だ! こんなに綺麗な色じゃなかったはずだ。染めたのか?」
私は、王子の言葉に吃驚して、暫くの間、ポカンと口を開けていたかもしれない。
「あの、つまり……どういうことですか?」
やっと、声を発することができた。
王子は、言葉にするのが難しいのか、なかなか口を開こうとしない。
「いや、だから……別人かと思っていたんだ。私の知っていたルナ姫は、とてもお転婆だったし……。まさか、こんなに変わるはずがないと思って、替え玉かと……」
王子の言っている意味が分からない。
いや、理解しようとしても、頭がついていけない。
つまり……お城で、あんなに冷たかったのは全て、私が『ルナ(本人)』の替え玉だと思っていたから?
ひどすぎる!
「子どもの頃は確かに、赤毛だったけど、王子と会った時にはもう、今の色に近い赤金だったじゃないの!
それに私は、お転婆と言われるほど、王子と一緒に、いなかったし!」
だから、知らない筈でしょ!
やっと、口から出てきた言葉は、ミーナといる時の私……素になっていた。
しかも、自分で暴露しているし!
あんなに、王子の前だと言葉が出てこなくて苦労していたのに……。
人間、ショックが強いと素に戻るって、本当だったのね!
「いや、ルナは十分お転婆だったさ! おまけに、頑固?」
「勝手に誤解していたくせに!」
「それは……すまない。許して欲しい。
もう一度始めから、やり直して欲しいのだが……? その……一緒に国へ戻ってくれるか?」
王子は、本当にすまなさそうな顔をして、自信なさげに言葉を紡いだ。
「……仕方ないので、許してあげます。ただし、時々、私に剣の稽古をつけてくれるなら!」
「稽古?」
「はいっ! 稽古です。殿下の剣の腕は凄かったです! 是非、お願いします」
ペコリと頭を下げて、お願いした。
「……これが、許してもらえる条件なら、呑まないわけにはいかないな」
王子の了承の言葉に、笑顔になる。
そこで、続きの言葉が王子の口から発せられる。
「ルナ、俺のことは殿下ではなく、名前で呼んでくれ! 他人行儀すぎるだろう、婚約者なのに?」
……婚約者?
名前?
そういえば、先程から、姫はなく、ただルナと呼ばれていたような……?
フィリップス王子?
ボンッ! と音がしたに違いない。そう思うほど一息に、頬が熱くなった。
きっと、真っ赤になっているに違いない。
真っ赤になった顔を見られたくなくて、俯いていると、上の方から催促の言葉をかけられる。
ほらっ……!
あまり待たせるのも良くないよね?
「……フィリップス王子……」
「王子はいらない!」
「……フィリップス?」
名前を呼ぶと同時にギュッと抱きしめられた。
「よくできました」
との言葉と共に……。




