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「ルナ、16歳の誕生日おめでとう! 愛しているよ! ぼくの可愛いルナ!」
「ライも誕生日おめでとう」
「ルナ、素気ない! お兄ちゃんは悲しいよ。こんなに妹を愛しているのに!」
「はいはい。わかっているから、そろそろ離れて。それにライが愛している半分は、自分に顔がそっくりだからでしょう?」
私に暑苦しく抱き付いてきた金髪琥珀色の眼をした美男子の腕を、素気なく外す。
「あはははははっ、三分の二かな……って、そんなわけない! ちゃんとルナ自身をあいして……」
と、ごねまくる男の名は、私の双子の兄、ライオネル・ソール・ラインストーン。この国、ラインストーン公国の第一王子で世継ぎの王子でもある。
ルナは、ライの側近へ眼で合図を送り、双子の兄へ諭すように声をかける。
「ライ、こんなところで油を売っていないで、することがあるでしょう? 今は執務室へ行く時間では?」
「えー、ルナも一緒にお仕事しよ?」
男のくせに、テヘッて何?
絶対に――
「イヤッ! 書類の仕事を丸々私に投げるつもりでしょう! ライとは、一緒に仕事しない。それに私は、お父様に呼ばれているの。だから無理です。 あー残念だわぁ」
心にもないことを付け足す。
「ルナ・ミラージュ・ラインストーン! そんなに、お兄ちゃんと離れるのを寂しがってくれるなんて! 何て、お兄ちゃんっ子なんだ!」
感嘆符の台詞ばかりで、鬱陶しい……。
「では、お兄様、ごきげんよう」
私は、一礼して足早にその場を去ることにする。
ライと私は、双子の兄妹なだけあって、仲はいい方だと思う。
思うけど、年頃の兄妹があんなに、ベタベタするのはおかしいと思う。
いい加減、妹離れして欲しいと思うのは、私の我儘なのだろうか?
とにかく、ライの私の異性関係に対する敵愾心は、半端ない。
歳の近い貴公子が近くに寄ろうものなら、兄である自分に勝たなければ、妹姫との付き合いは認めないと、片っ端から潰しにかかるのだ。
私の専属騎士も女性で固められている徹底さである。
まあ、女性騎士らのおかげで、自分の好きな剣や弓、馬に乗ることさえ王女でありながらも許可されている部分が否めないため、その点については、構わないのだけど……。
考え事をしていたこともあり、気が付くと、父の執務室は目の前だった。
これからの謁見を思うと、溜息を噛み殺す。
既に先触れを出していたため、滞りなく部屋の中へ案内される。
父と云えど、国王だ。二人きりではないため、私は、臣下の礼をとり頭を下げ、国王から声がかかるのを待つ。
宰相である、グリンラス卿が国王へ耳打ちする。
暫くした後にやっと、私へ声をかけた。
「顔を上げよ。ああ、挨拶はよい。時間がない」
本来ならば、国王へ顔をみせた後は、挨拶の言葉を臣下の方から申し上げることが慣例となっている。
しかし、それすらも許さず、要件を告げる。
「そなたの婚礼の日取りが決まった」
誰と?
王が話してもよいと許可を出さない限り、私から尋ねることはできない。
グッと息を呑んで、次の言葉を待つ。
「南の国のヴァンデル王国のレオンハート王子のところへ、一月後に嫁ぐことになった」
父王の言葉にハッとして、声を出していた。
「ヴァンデル国のレオンハート王子には、既に正妃様とお子様がいらっしゃいます。しかも、ご夫婦はとても政略結婚とは思えないほどの仲の良さと伺っています。その様なところへ私などがっ……」
「黙れっ! 私は、そなたに意見など求めてなどおらぬ。これは決定事項だ。要件はこれだけだ。下がれ!」
私の言葉は、父王に遮られた。そのまま、礼をとり退室した。
「ルナ様、ルナ様、お待ちください! どちらに行かれるのですか?」
「…………」
私の専従騎士であるミーナが心配して追いかけて来ているのはわかっていたが、涙を見られたくなくて、立ち止まらずに先を急ぐ。
「……ミーナ、お願い。今は、一人にして……」
何とか、声に出す。
ミーナは、私の言葉を聞き、納得はしていないのだろうが、尊重して距離を取ってくれた。