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ルナ姫の受難  作者: 東吉
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 フィリップス王子……こんな……格好いいなんて……!


 やっと辺境区から戻った王子を遠目から見ただけだったが、王子様然とした姿に私は、見惚れてしまった。


 「ルナ様……お口が開いていますよ?」

 ミーナの指摘にハッとして、慌てて口を閉じたが、目は王子に釘付けのままだった。


 幼い頃と変わらず、金色の髪が輝いて見える。

 瞳の色は、生憎、遠すぎて確認できないが、碧の綺麗な色を纏っていることだろう。


 腰に剣を下げて、騎士の格好をしているが、鎧までは着ていない。

 戦に行くわけではないから、軽装の部類なのだろう。


 甲冑がないため、筋骨逞しい身体の線が露わに見える。

 ガン見していると、フィリップス王子もこちらの方を見て……る?


 「ミ……ィナ! 今、私を見たわ! 目が合ったわよね? ねっ! ああ、何て思われたかしら? ガン見していたのに……。はしたないと思われていたらどうしよう? キャー、恥ずかしい!」

 王子が自分を見ているかと思うと、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

 王子の視界に入らないように、窓の下枠までしゃがみ込んだ。


 「ふうっ! 何を今更……。遅いですよ。それだけ、王子のことを見つめ続けていたくせに!」

 「うっ……ミーナやけに冷たい!」

 「そりゃあ私も、冷たくなりますよ? ここの部屋には、私だけじゃないんですよ? 他の侍女もいることをお忘れなく!」


 そうだった……。

 道理で、ミーナが私のことを様づけして呼んでいたはず……。


 でも、仕方ないじゃない!

 フィリップス王子が、あんなに格好いいなんて!


 絵姿でも見て、免疫をつけておくんだった!

 そう思っても、後の祭り。


 そりゃあ、初めて会った6年前も、格好いいな……とは思ったけど、何せその時はまだ、色気より食い気というか、まだ10歳だったのだし!


 あんなに、素敵になっているなんて!


 「あぁ、どうしよう……?」

 「何が?」

 「もうっ! ミーナったら、しっかりしてよ! 殿下とは、久し振りにお会いするのよ? 私、可笑しくない? 変じゃないかしら? ドレスは……やっぱり、藤色のにした方が良かったかしら?」


 私は、窓から離れて、部屋の中央部分を行ったり来たりし始めた。

 とても、ジッとなんてしていられない!


 「そのドレスを脱いだら、間に合わないわよ? 殿下は、王城へ入られた様だもの」

 「ああ、そう……そうよね! なら、このままでいかしら……。ハッ! ミーナ、やっぱり侍女にお化粧を任せた方が良かったのかしら? 今まで舞踏会とかでなければ、きちんとしたことなんてなかったけど……? 髪もちゃんとした方がっ!」

 ミーナの目が天井を向く。


 「ルナ! 落ち着いて! 貴女は、そのままで綺麗だから!」

 「でも……」


 その時、扉をノックする音が響いた。

 私は、ミーナの顔を見て、一つ頷いた。


 ミーナが扉へ向かって、返事をする。

 『フィリップス王子殿下がお会いしたいと申しております。薔薇の間にお越し下さい』

 近衛騎士が伝えてくれた。


 私は、息を大きく吸って、吐く。

 気分を落ち着かせるためだ。

 よし、大丈夫……。


 ミーナへ合図を送り、先導の侍女に続き、部屋を出た。


 緊張して、右手と右足が一緒に出て、無様に転んでしまうことは避けたい。

 お姫様らしく……。ちゃんとできるはずよ、今までだって、できていたのだから……。

 自分に言い聞かせる。




 **********



 薔薇の間につき、先触れの侍女に続いて、私も入室する。


 部屋の中には、既に、国王夫妻と王子が座って話をしていた。

 私は、すぐに礼をとり、頭を下げ、陛下からの言葉を待つ。


 しかし、陛下は、

 「そんな水臭いことをするでない。家族になるのではないか! 頭を上げよ」

 と、上機嫌な様子で話しかけてきた。


 すると、王妃様も

 「そうですよ、ルナ様。わたくしたち、もう、本当の親子のように打ち解けてお話ししたではないですか?」

 と声をかけて下さった。


 打ち解けて……というところで、『いつ!?』と、ツッコミを入れたいところだが、空気を読んで、聞き流すことにした。


 「はい、ありがとうございます。陛下と妃殿下におかれましては、ご機」

 「いいのよっ! そんな堅苦しい挨拶なんて! 本当にもう、ルナ姫ったら! そうそう、フィリップスを紹介するわね。でも、紹介なんてしなくても、お互い会ったことがあるのよね? もう、今更って感じかしら……ねぇ!」

 王妃は、『ご機嫌麗しく……』と続くはずだった私の言葉を途中で遮り、片手を振り振り、そして、その手をウフフと口許へ持っていっていた。


 私は、恥ずかしさを堪えて、王子の方へ顔を向けた。

 王子は、私に興味がないかのように、視線を合わせようとしない。


 だが、言葉だけは丁寧だった。

 「ようこそ、お越し下さいました、ルナ姫。初日から留守にしてしまったこと、お詫び致します」

 口許は、笑みの形を作っているのに、眼が笑っていない?


 でも綺麗な碧色だ……。見惚れるほどに。

 「はい、いいえ、そんな……。あの……こちらこそ、勝手に押しかけて来てしまって、すみません」

 しどろもどろになりながら、何とか答える。


 あぁ、挨拶もろくにできない娘だと思われた!

 穴があったら、入りたい!

 自分の頬が熱くなってきたのがわかり、きっと、真っ赤になっていることだろう。


 『くすっ』

 頭上で、聞こえた声は、殿下の……?


 そうっと見上げると、今度は、ちゃんと私を見てくれている。何より、目も笑っている!


 良かった! 嫌われていない?


 あっ! でも、笑われたってこと?

 恥ずかしい!

 頬だけに感じていた熱が、顔全体に広がっていく。

 いや、身体中が熱いような?


 「ルナ様、熱がっ!」

 そう叫んだ、ミーナの声を聞いたような、聞かなかったような……よくわからない。

 そこで、私の意識が落ちたから。

 

今月中には、完結する予定です。

王と王妃との馬車の中での出来事(秘め事)は、ムーンで書こうかと思っています。

(気が向けば?)


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