プロローグ
今回は、趣向(作風)を変えています。
拙い文章表現かもしれませんが、宜しくお願いします。
「何で泣いているの?」
「な……泣いてないもん! これは、これは、涙じゃなくて、汗だもの」
「寒そうに震えているのに?」
「違う! 寒くなんてないもの。これは、えっと……むしゃぶるいよ!」
王宮の中庭の一角にある東屋で繰り広げられていた。
泣いていないと虚勢を張っているのは、10歳になったばかりのラインストーン公国の第一王女だった。
「そう、でも……はい、これ……」
自分のコートをそっと少女の肩にかけ、ハンカチを手に持たせる。
少女は、ポカーンと自分よりかなり背の高い、細身の少年を見上げる。
少年は、ニコリと笑って、言葉を続ける。
「汗を拭くのに必要でしょう? それに、僕、走ってきたから、今は暑いんだ。だから、そのコートは君が持っていてくれると嬉しいな」
少女は、金髪碧眼の見目麗しい少年に見惚れてしまった。
しかし、すぐにハッと我にかえる。
「私……キミなんて名前じゃないわ。ルナっていうちゃんとした名前があるんだから」
幼さの残る口調で告げる。
少年は、少女の背伸びした可愛らしい仕草に、クスリと笑いそうになるのを堪える。
「そうだね。ごめんね、ルナ。ルナって、呼んでもいい? 僕の名前はフィッリプス・ヴァンガード。隣の国から来たんだよ」
少年の言葉に、
そういえば、お父様がおとなりの国から王様と世継ぎの王子様が来られるようなことを言ってらしたような……?
少年は、今度こそ、笑いを堪えきれず、クスッと漏らしてしまった。
「そうだよ。隣の国の王子が僕だよ」
少女は、自分が声に出してしまっていたことに気づき赤面する。
あわあわと、どの様にして失態を取り繕うかと知恵を絞るが、思い浮かぶ筈もなく……
少女の真っ赤な顔を眺めていた少年は、目を見開く。
少女の色白の肌が一瞬で染まり、幼さの中にもわずかな艶をみせつけられ、少年に女を意識させた。
少女は、自分をジッと見つめる少年に向かって叫んだ。
「あんまり、見ないで! 私の顔はあなたみたいにきれいじゃないもの」
少年は、少女の言葉に驚いたものの、身をかがめて少女と同じ目の高さを合わせ、わざと顔を覗き込む。
「誰がそんな事を言ったの?」
少年の顔の近さに少女はドキドキしていた。
「そ、そんなこと、誰でも知っているわ! 私のお顔はおにい様に似ているただの醜悪品なんだって! この髪は汚い色だし、この目だって、気味が悪いって……」
少女は、自分の言葉でさらに傷ついたようにくしゃりと表情を歪ませる。
少女の髪は赤毛であるが、日の光に晒されて、キラキラと光っている。ともすれば、自分と同じ金の髪色に見えなくもない。そして、少女の瞳には、本当に魅せられてしまう。今まで見たこともない珍しい色あい、銀色だった。
「この国の者は、王女であるルナのことが大事じゃないの? じゃあ、僕の国に来る? 僕のお妃になる? 僕ならルナのことを大事にするよ」
「本当? 私のこと、気持ち悪くない? 一緒にいてくれる? ずっと、ずーーっと!」
「もちろん。もう少し大きくなったら……ね? そうだな、ルナが僕の今の歳、16歳になったらね」
瞳を潤ませ、本当に信じてもいいのか考えている少女に向かって、少年が行動を起こす。
「じゃあ、誓いのキスをしよう」
そう言って、少女の額にチュッとキスを落とす。
少女は、始めこそ吃驚して、固まったものの、すぐに自分を取り返し、少年へ告げる。
「じゃあ、私も」
少年の胸のシャツを引っ張り、自分に近づけさせる。
少女は背伸びして、チュッと少年の顎先へキスをした。
そこまでしか届かなかったから。
「これで、誓いのキスを交わせたのよね?」
「ああ、そうだね」
少年は優しく微笑んだ。