それゆけ!ふんどしマン!!
最高にふざけた物語です。
それはとある月曜日の夜のこと。
事件は起こった。
「キャーーーー!!!!!」
もうすぐ日付が変わる頃、女性の甲高い悲鳴が辺りに響きわたった。
「ひったくりーーーー!!」
どうやらバッグか何かを引ったくられたようだ。
見ると、人気のない路地裏で女性がへたりこんでいる。20代前半くらいのOLっぽい女性。仕事の帰りだろうかスーツを着ている。
うむ、なかなかの美人だ。
視線の先には女性の持ち物を引ったくったらしい男性。
ずんずんずんずん離れていく。
なんて足の速い奴だ。
引ったくられたものの中には大切なものも入っていたのだろう
可哀想に。
この女性は大切なものを失ってしまった今、この先どんな人生を歩んでいくのだろう。
犯人はこの後遅い時間ながらもそこそこ人通りのある大通りに出て人の中に紛れ込むのであろう。
そうなればもう追跡する術はない。
所詮この世にこの状況を打破してくれる救世主、ヒーローなど存在しないのか。
女性が絶望しかけたそのときだった。
手を出せば遠近法で手乗りサイズになるほど小さくなっていた男の背中が突如消えた。
代わりに男がいたところには何やら黒っぽいものが。
それはちまちま動いている。
何だろう。
遠くてよく見えない。
しばらくそれはこちゃこちゃやっていたが次の瞬間、猛スピードでこちらへやってきた。
「HAHAHA!お困りのようだねお姉さん!しかぁーし!悪はこの私が成敗した!!さあ、もう大丈夫!涙を拭いて。涙の数だけ強くなれるよ!!おっと紹介が遅れたね。我が名は…!」
そこまで一息に喋り、そいつは一際大きく息を吸い…噎せた。
そして、噎せながら右手で空を、左手でアスファルトを指差す。
「ゴッ…ゴホッゴホッゴッホ…て…天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!世の為人の為自分の為!愛と正義の戦士!ふんどしマン!!!!」
すらすら言えたらカッコいいのだろうが最初に噎せてしまったので全て台無しだ。
しかもコイツ、言い終えた後にグ〇コのような両手左足を挙げたポースをとりやがった。
一方、目の前にいきなり現れたイカれた奴に対し、お姉さんは―
「キャーーーー!!!!変態!!!!変質者!!露出狂ーーー!!!!」
本日二度目の悲鳴をあげ、ものすごいスピードで走っていった。
可哀想に。
「あっれー?おかしいなー?普通ここはさー、『あなたが助けてくれたのですね…』的なノリで感謝されたりほっぺたにチューされたり婿に来てくれとか言われたりするパターンじゃないの?」
後者二つはともかく、前者は人として当然のことだ。では何も言わずに恩人(?)に対して逃げたお姉さんは普通ではないのか?
否―少年よ、普通でないのはそなたの方なのだ。
見たところ、14~15歳くらいの少年である。
顔は白ぶちの大きなサングラスで隠していて、黒いマントを羽織っている。
そして、何よりもお姉さんが絶叫した理由。
ふ ん ど し
この男、サングラスとマントとふんどし以外は何も身につけていないのだ。
つまりほぼ全裸。
ぽかぽかしてきたとはいえまだ肌寒さの残るこの季節。
風邪ひくぞ。
「ふっ。私はいつも温かい心と火照った体を持っているため、風邪などとは無縁なのだ」
あ、そうですか。
さりなげなく気持ち悪いワードが混じってたがスルー、スルー。
馬鹿は風邪ひかないというし心配するだけ無駄か。
「ところでコレ、どうしよう?」
そいつ―ふんどしマンというらしい―はそう言い、自分の足下を指差した。
そこにはロープでがんじがらめにされ、ハンカチで猿ぐつわをされ気絶した男が転がっていた。
どうやらひったくり犯らしい。
「警察に届けた方がいいかな?」
その格好で交番行ったら捕まるのはお前だからな。
それに自分でやったことだろ。自分で考えろ。
自分の行動には責任を持とうね☆
「あと、このひったくられたお姉さんのバックも」
男を縛っているロープに挟まっていた茶色の肩掛けバッグを取り出して言うふんどしマン。
今すぐ持ち主に返して来い。
「でもこれ、すごくいい匂いするよ?」
バックを開け、匂いを嗅いでいるふんどしマン。
その姿は変態以外の何者でもない。
お前に預けていると不安だ。
ここは私が責任を持って返そう。
「やだ、ここは責任を持って私が返すべきだ。自分の行動には責任を持っているからね☆」
何だと・・・!?そもそもお前は返すべき相手の家を知っているのか・・・!?
「もちろん!!住所から家の鍵の開け方まで調べ済みだ」
な・・・いつのまに・・・!?
「ふふふ・・・それは企業秘密だ」
企業も何もないだろ。
「とりあえず、私はこれらの情報を存分に活用して家に忍び込み、お姉さんにバッグを返すから☆」
ちょっと待て、それは不法侵入だ。
「それでは―とうっ!!」
掛け声と共に飛び上がるふんどしマン。
そのまま近くの家の屋根のヘリにつかまり、屋根の上に這い上がる。
ふむ、身体能力はあるようだ。
ただ這い上がるときにふんどしの後ろの紐がお尻に食い込んでいることがとても残念なのだが。
そして、そのまま屋根の上を駆けていこうとしたが、ふと立ち止まった。
「ところで、今までスルーしてきたけど、さっきから偉そうにいろいろ言っているお前は誰だ?」
なんてベタな質問の仕方だ。もっと工夫をしないと。
「いいから質問に答えろ」
―さて、誰でしょうな。
いずれ君にもわかることだろう。
だが、今はまだそのときではない。
「じゃあ、時が来たら教えてくれるのか?」
そうだな、いずれ・・・な。
「わかった。それでは私はそのときが来るのを楽しみに待っているよ」
ああ、待っていてくれ。
「それじゃあ、私はこのバッグを返してくるよ」
いってらっしゃい。お姉さんが喜ぶぞ。
お姉さんの家があるらしき方向へ屋根を伝って駆けていくふんどしマン。
さらばふんどしマン。
できればもう二度と会いたくない。
屋根から落ちるなよ。
―さて、ではそろそろこの物語も幕を閉じるとしようか。
私も帰って寝ようかな。
それでは、またの機会に。
―それはとある初夏の月曜日の出来事だった―
*ちなみに
ふんどしマンに成敗されたひったくり犯はあの後、明け方にパトロールをしていた警官に偶然見つけられ、いろいろ面倒くさいことになるのだが―
それはまた、別のお話(笑)
伏線を貼りましたが短編です(笑)
続編は読みたいとの声があれば書くかもしれません。