シンデレラの権利
シンデレラって、”灰被り姫”って意味なのよ。
「・・・いきなり、何?」
嫌々、と言うほどでもないが緩慢な動作で、悠斗は振り返る。
背後で雑誌を広げる少女は先程の呟きなど無かった様に、目を紙面に釘付けにしていた。
嘆息し再び机に向かおうとしたとき、幼馴染は再び、言を紡いだ。
「優しい魔女に出会って、王子様を玉の輿してなければ、彼女は一生名前の通りだったのね」
「・・・玉の輿って、夢の無い言い様だな」
「だってそうじゃない。実際問題、平民以下の生活をさせられていた彼女が、一国の王女の座を射止めたのよ?」
悠斗の言葉に、辛辣に返す少女。
というか、童話にそういうリアルな解釈を求めるのはどうかと言うことに、今更ながらに彼は気付く。
「てゆーか、だ。人が必死こいて課題片付けてる隣で、いきなりなんでそう言う話題になるワケ?」
夏休みも始まり、ほとんど誰もいない校舎の自習室。
家のクーラーが壊れた上に、近所の図書館が休館でなければこんなところには来ないのだ、と内心で呟く。
「灰を被ってまで何故、彼女は生きたのかしら」
それは返答ではなく、かといって疑問でもない。ただの、戯言。
「生き延びた先に、幸せがあるなんて、判るはずが無いのに」
義理の母姉に虐げられ、使われていたシンデレラ。
名前の通り、みすぼらしい格好で、惨めな思いばかりだったはずの”灰被り姫”――。
「生きなければ、分からないじゃないか」
唐突な返答に少女は、息を、呑む。
「”王子様が助けてくれる”、”魔女が私をお姫様に変えてくれる”、なんて。幻想趣味があっただけかもしれないけどよ。理由はともかく、シンデレラは諦めず、状況に抗って、生きて、生きて。そうやって王女の座を射止めたんだろ?」
それって、すげえ強くてイイ女じゃん。
軽く、あまりに軽く答えを出した幼馴染に少女は、灰姫は。
「じゃあ、生きていれば、シンデレラの様に、幸せをつかめるの?」
「さーな。でも、諦めたらそこで終いだろ?」
「――――そう、だったのね」
答えは、あまりにも簡単だった。
「じゃあ、生きるわ、私」
「おう、そうしとけ」
誰もがシンデレラの様に、幸せを掴めるとは限らない。
けれど。諦めなければ。
灰まみれになっても、生きてさえいれば、幸せが巡る可能性は、終えない。
灰被りに成ることを、恐れるな。