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紅月は女神の祈り  作者: 中原まなみ
第三章:『It is a wish to a star――願いかけた短冊』
19/76

2

 雨音がする。

 安い乗り合い馬車は、振動をほとんど直接体に伝えてきていた。ゴトゴトと耳障りな音の合間に、静かな雨の囁きが聞こえる。

 古城街道を一本それ、街道とも呼べない道に入って、もうどれくらい過ぎたのだろうか。それほど長くはないはずだが、沈黙が時間を停滞させていた。窓から空を見る。天頂近い太陽からすると、そろそろ昼だろうか。朝から乗っていたわけだから、少なくとも三時間程度は経過しているということになる。さすがに、座りっぱなしの姿勢には疲れてきた。座りなおして、伸びをする。

「――で?」

 唐突な、ひどく冷たい声に、そのままエリスは動きを止めた。知らずに冷や汗が浮かぶ。顔をぎこちなくそちらに向けた。

「……なに、アンジェラ」

「……」

 無理やり笑いながら問うと、アンジェラはきついアメジストの目で一度こちらを睨んできた。視線が、普段では到底考えられないほどひややかだ。

「いいかげん話せば? 何馬鹿しでかしてそんな馬鹿な怪我を馬鹿みたいにこさえてるわけ?」

「……いや」

 返答に窮して、うめく。手のひらの包帯を見下ろして、軽くため息が漏れた。馬鹿馬鹿と連呼されていい気がするはずもないが、認めざるをえなかった。確かに、馬鹿だろう。

 二日前につくってしまったこの怪我は、アンジェラの心をささくれだたせるのに充分だったらしい。

 あの夜、ダリードとのことがあってから、まる一日がすぎていた。

 足の怪我は、その日の早朝、ジークが起きると同時に癒してもらった。神官としての祈りは、神聖法技――癒しの法技となる。それはいい。ジークも、苦笑だけで理由を問うてはこなかった。

 だが、アンジェラの機嫌は完全に損ねてしまったようだ。

 昨日も、一言も口をきいてくれなかった。今日も、この馬車に乗っている三時間、一言も漏らさず、ただただ腕くみをして睨みつけるように外の景色を眺めていた。そして、ようやっと口を開いたかと思えば、この台詞だ。

 無論エリスとて、アンジェラの気持ちはわかる。もしも立場が逆なら、自分も同じ反応を示しただろう。

 ――朝起きて、隣のベッドに寝ていたはずの親友が、泥まみれ、怪我だらけ、だったら、さすがに驚くだろう。

 しかも理由を訊いても答えないで、なんでもない、などといわれれば、怒って当然だ。それは判る。理解はできる。だが――

(……だからって、どう言えばいいのか、判らないし)

 夜中に、眠れなかった。だから、起きて空気を吸いに外に出た。そして、崖から落ちた。そこまでなら、話そうと思えば話せる。思いっきり馬鹿にされて笑われるだろうが、それだけなら問題はない。だが――問題は、その後だ。

 そこまで話してしまうと、どうしたって『彼』のことに触れなければならなくなる。

 ――ダリード。

「……なんでも、ないから」

 口の中で呟いて、そっと足に触れた。痛みはない。ジーク曰く、一度に数箇所も法技をかけてしまうと、逆に体力的な問題が生ずるとのことで、手のひらの怪我はそのままだ。だからこそ、足に痛みはない。――ダリードの手当ては、もう必要ない。だが、どうしたって違和感が残った。胸に何かが詰まっているような、感覚。

「……あっそ」

 切り捨てるようなアンジェラの声に、どうしようもなくなって俯く。整備されていない街道の振動が、ひどく心地わるい。包帯の巻かれた手のひらを見下ろして、つめを弾く。ちっと小さな音が、逆に心地よくさえ思えた。

 ――ふと、気づく。雨はすでにやんだのだろうか。

 窓から見ると、鈍く重い灰色の空が、ゆっくりと切れ、蒼い色を覗かせ始めていた。

 と、タイミング良く、馬車が止まった。うつらうつらしていたゲイルが、目を覚ました。ドゥールが、髪をかきあげる。

「アレモド。到着だ」

 ジークが、苦笑を浮かべたまま言った。


 アレモドという名のその村に立ち寄ることを提案したのは、ジークだった。

 本音を言えば、エリスは暫く街やら村やらに立ち寄りたくはなかった。――ダリードの関係だ。最初にあったときに、あのレナード村の広場で何があったかを忘れたわけではないのだから。

 それに、実際ダリードはすぐ傍にいる。――本当に、すぐ傍に、だ。いつ襲ってくるか、判らない。――あの晩のことで全てが水に流れるなどといった甘い考えは、していない。

 だが、言えなかった。

 馬鹿なことをしている自覚はある。あるのだが、どうすればいいのか判らなかった。だいたいジークは、エリスたちとゲイルたちの『協定』を知らないのだ。

(……話したほうが、いいんだろうけどな)

 とりあえず、曖昧に濁して、人の多いところにはいきたくない、といったのだが――

『アレモドは、一応地図にはのってるが、小さな村だよ。あそこは俺も割と顔が利くし、人も多くない。そもそも街道ずれてるからな。この雨じゃ、アレモドの次の町まで行こうとすると、日没ぎりぎりだ。そっちのが、危険度は跳ね上がると思うんだがな』

 とのジークの弁で、ほとんど流されるがままにきてしまった。

 しかし、ジークの考えの中に、エリス自身を気遣ってくれているというのは、読み取れた。だからこそ、反対も強くは出来なかったのだ。

 それに、エリスとしても、アンジェラをきちんとした村か街かで休ませたかったのも、あった。

 ジークの提案は、そう考えるとあながち悪い話でもなかったのだ。

 乗り合い馬車から降りて、長時間の疲れをほぐすために伸びをする。体の大きいジークは余計疲れたらしく、いきなりストレッチをし始めていたが。

 林――だった。目の前にあるのは、そうとしか言えなかった。

 雨上がりの林は、湿気が肌にまとわりついて、小さな羽虫が低く飛んでいてあまり心地よくはなかった。

 ふと見ると、馬車もすでに出発してしまっている。

 ちちち、と鳥が鳴いた。

 ゲイルが、呟く。

「……村はどこだい?」

 目の前にあるのはただただ、林だった。


「そもそも、アレモドは何もないって意味なんだよ」

「はい?」

 ジークの言葉に、エリスは首を傾げた。ずんずんと進んでいく巨大な背中を追いかけながら、林の中を進む。

「なんとかってー、古い民族の言葉だったかな。ア・レモド? レモドが有るって意味で、アが打消しの言葉。だから、ないって意味で」

「……や、そんなウンチクはともかく。なんでそれが、村?」

「元々何もない林だけどな。ここ通ると、グレイージュの近道でな、つっても、割と危険度は高かった。だから、普通の商人は寄り付かんかった。が、昔々のその昔、非合法な物品を取り扱ってる商人――闇関係のディーラーだな――やら、好奇心旺盛な巡業カーニバルの連中らが、中継地点となるような小屋をいっこ立てた。それらが徐々に集まって、この村になったんだよ。何もないところから派生した村。だから、ア・レモドの村。アレモドだ」

 すらすらとよどみなく言うジークに、さらに違和感が募る。このあたりのことに詳しい割に、その訛りは――と思うのだ。

「やたら詳しいわね、ジークって」

「俺は物知りなのさ、アンジェラのお嬢ちゃん」

「じゃあおたずねするわ、物知りのお兄さん。――肝心の村はどこよ」

 アンジェラの普段以上に冷たい言葉に、ジークがくつくつと笑いを漏らす。

「ご機嫌斜めだなぁ、お嬢ちゃん」

「うるさいわねっ! 村はどこよ村は! まさか林を全部指差して、はい、ア・レモド、何もない村です、とか言うんじゃないでしょうね!」

「あ。そういうこともありえるのか」

「あるわけないでしょ! 黙ってなさいよゲイル!」

 子犬のように甲高い声で喚くアンジェラに、ゲイルが戸惑った笑みをこちらに向けてきた。

「……ずいぶん、ささくれだっているね、アンジェラちゃん」

「……まぁ、ね」

「――付き合ってられん……」

 ドゥールが小さく呟いて頭を振るのを見て、エリスは無理やり笑みを浮かべてみせた。二人とも、アンジェラのこの異様な不機嫌の原因がエリスにあるのは、判っているだろうから。

「――と、はいはい。見えましたぜ、アレモドの村」

 ジークの言葉に顔を上げると、ふいに林の中に、小さな広場が見えた。


「ジークか! よく来たな!」

 無意味に大きな声だ――と、エリスはどこかぼんやりした思いでその小柄な男性をみていた。

「よう、久しぶりだな、じいさん」

 ジークがしゃがみこみながら、グローブに包まれた右手でその男性の頭を軽く小突いた。

 男性――白髪に、柔和な笑み。鮮やかな青い瞳。このアレモドの村長だというその男性は、何の警戒心もなくエリスたちを迎え入れてくれた。

 アレモドの村は、村というよりはキャンプ地のようなイメージすらあった。

 おそらく巡業カーニバルがそのまま使用するのであろう、大きな馬車や、造りの粗い小屋。あるいはそのものずばり、テント。そう言ったものが、秩序とは無縁の様子で点在しているのだ。即席の十字架――木切れを無理やり結んだような――を掲げた教会もあったが、あまり宗教的にしっかりしているとは言いがたい。なにせ、その教会らしき建物のすぐ裏に馬が数頭結び付けられており、汚い話だが排泄物の処理もまともにされていなかったのだ。

 不浄なるものは、普通教会からは離す。それが常識だ。そう考えると、さすがにあまりに適当すぎるだろう。信仰心などほとんど皆無のエリスにしても、呆れるよりほかなかった。

 だがそんなことは、些細な問題なのかもしれない。

 たとえ住居が掘建て小屋だろうが、テントだろうが、村の景観に秩序がなかろうが、整備がされていなかろうが、宗教がどうだろうが、この村の人々は関係がないらしい。

 セイドゥールに住んでいる民にはみられないような、明るい表情をどの村人も浮かべていたのだから。

 どことなく、羨ましくさえあった。

「ジーク、よく来た。歓迎するぞ。今宵はちょうど良い。星祭じゃ」

「……また祭かよ!?」

 ジークが小さく声をあげた。その男性は、すっかり晴れた青空の下、同じ色の瞳を笑みの形にゆがめた。

「……またって?」

 なんとなく気になって訊ねる。ジークは苦笑のまま、何もつけていない左手でこちらの頭をなでてきた。

「――この村、一年三百六十二日のうち、多分三百五十日は祭やってる」

「はぁ?」

 素っ頓狂な声をあげたのは、アンジェラだ。エリスもぽかんと口を開けてジークをみた。祭――フェスティバルは、セイドゥールも割と多い。月平均で一度はあるだろうか。だが、非常識にもほどがある。

「……何故そんな阿呆な真似をしている?」

 ドゥールが呆れた口調で問うが、その真横でゲイルが子供のようにわくわくした表情を浮かべていた。

 だがジークは、二人を一瞥すると、簡素な声で告げた。

「阿呆はお前さんがたには負けると思うがな」

「ジーク」

 非難をこめて名を呼ぶと、ジークはがしがしと頭をかいた。グローブをはめた右手で、胸元に下がっている木彫りのネックレスを撫でる。

「――ドゥール。お前はルナ大陸に宗教がいくつあるか知っているか?」

「……何の話だ」

「答えられねぇんなら黙って聞きな。――つっても、俺も実際には知らん。数えられるようなもんでもねぇしな。わかりやすくでけぇのは、創造主ディスティを崇める創神教。あるいは女神ルナを崇めるルナ神教。グレイージュは精霊信仰だっけか。東部は数多神――万物すべてに神が宿るって奴だ。そういうのもある。聖人信仰やら、邪教やら、各宗派を含めれば莫大な数になるわな」

 いかにも神官らしく、すらすらとジークが述べる。

(……で、あんたは何神教の神官なの、って感じはするけどね)

 内心で、エリスは思う。ジークが述べたどれもが、どこか他人行儀な気がするのだ。胡散臭いことこの上ない。

「で。元々このアレモドは何もないところに生まれた村だ。宗教観やらなんやらが、ばらばらの連中が集まった。それこそ、プトネッド――この世界におけるあちこちの地からな」

「大げさね。ルナ大陸のっていいなさいよ」

「まぁ、話と男のシンボルはでけぇほうが楽しいだろーが。で、だ。そういうやつらが集まっちまったもんだから、当然宗教観の違いが生まれる。だからっていちいち張り合ってたんじゃあ阿呆みたいに騒ぎが絶えない。ルナ大陸東部なんてその典型だな。で、ここの人間はもう少し賢かった。とりあえず個々勝手にすりゃいいさ、っていうことになった。――ここの教会にいってみ? 教会っちゅーかむしろカオスだぞ。宗教のミックスジュースみてぇな……」

 苦笑を浮かべてはいるが、実際ジークは楽しんでいるようだった。それをにこにこと見ていた村長が、続けた。

「宗教、信じるもの、違えば、祭もまた違う。プトネッド中の祭、いつしかこの村やるようになった。信じるもの違う。けれど、楽しいもの、みな同じ」

「……面白いなぁ」

 感心したように、ゲイルが息を漏らした。

「面白いけれど……馬鹿みたいだけれど。でも、やっぱり、楽しいわね」

「ホントだね」

 アンジェラの言葉に、思わず頷く。と、アンジェラが驚いたようにこちらを向いてきた。――しまった、と一瞬思ったが、次の瞬間、何だか馬鹿馬鹿しくなって、エリスはアンジェラと一緒に軽く笑い声を上げていた。

「で、村長さん。星祭ってなんなんですか?」

 くすくす笑いながら、アンジェラが問い掛けた。

「遠き地のフェスティバル。愛する星ふたつ、今宵だけ出逢う出来る。星祭には短冊よ。星に願う想いを書きて、木々に吊るして祈ろうぞ。星ぼしよ、輝きて、光満ち行く世界を見やらん。さあ、祈られよ、祈られよ」

 妙に節のある言葉回しで、村長は胸元からいくつかのカードを出した。それを配られ、エリスはきょとんとしたまま受け取った。きょとんとしているうちに、なにやらうきうきとした足取りで村長は行ってしまい――エリスは呆然と呟いた。

「なに、これ?」

「短冊――だっけか。ウィッシュ・カードだ。願い事かいて吊るすんだと。愛の奇跡とやらで、叶うかも知れねぇっていう言い伝えさ。もらえるんならもらっとけ。祭は楽しんだもん勝ちだ」

 自らに渡されたぶんをもてあそびながら、ジークが豪快に笑った。

「さってと、そんじゃ俺様は一仕事すっか。どうせ星祭だってんだから、夜だろ」

「……仕事?」

「簡易結界を張るんだよ。低俗な魔物が入れないようにな。――ま、逆に言えば、この村の中では魔法も法技もつかえなくなるが」

 言って、ジークはちらりとゲイルとドゥールに視線をやる。つまりは、二人の力を抑える目的もあるらしい。アンジェラも複雑な表情をしていたが、エリスは少しだけ肩をすくめた。

「……ま、いいんじゃない? 助かるし」

「……助かる?」

 ジークがすと眉根を寄せた。

「どういう意味だい、お嬢ちゃん?」

「……えーと。狙われてるから、あたしたち。……言ってなかったっけ」

「初耳だ」

 口を滑らせただろうか、と思った。だがどちらにせよ隠しておけるものでもない。ゲイルとドゥール、二人に一度視線を投げる。だが、こちらを向いていなかったせいで、視線での答えも得られなかった。エリスは顎を上げ、青い空を見上げた。どう言おうか――と、思案する。

「……狙われているって、誰にだ」

 ジークが言いつつ、あからさまにゲイルたちを意識した様子を見せた。エリスは小さく頭を振り、

「……今は違う。今は――ダリードくん」

「名前いわれたってな……」

「おれたちの……弟だよ」

 ゲイルが、ポツリと声を漏らした。ジークがナイフのように鋭い視線を投げる。それを、しっかりと見据え、ゲイルはかわらぬ穏やかな表情で唇を開いた。

「ダリード。おれたちの、弟だ。エリスちゃんとアンジェラちゃんを、狙ってる」

「……ラボの人間か。はっ、何しでかすか判ったもんじゃねぇな」

「いや。……ダリードはもう、ラボとは関係ないよ。ラボは、おれとドゥールのほう。……仕事で、二人をラボに連れて行かなければならないから」

「――!」

 その瞬間だった。ふとエリスの視界を黒いものが横切った。と、思ったときにはすでに、鈍い音ともにゲイルが地面に転がっていた。

「っ、ジークッ!」

 声が裏返る。続けざまに殴ろうとしたジークの腕を、無理やりつかんで下ろさせた。ゲイルが、殴られた姿勢のまま目線を落としていた。ドゥールがとっさに横についている。

「ちょっ……いきなり何するのよ、ジーク!」

「っ……」

 振り返ったジークのワイン色の目は、ひどく哀しげに歪んでいた。

(え……?)

 ジークはぎゅっと唇を噛むと、こちらの手を解いた。ゲイルを殴ったグローブのある右手を、握り、またひらく。それを数度繰り返していた。

「ジーク……?」

「……わりぃな」

 アンジェラの心配そうな声にも、顔すら上げずにつぶやく。その向こうで、ドゥールがゲイルを立ち上がらせていた。

「……ゲイル、大丈夫か」

「殴られるのは、判らないでもないから。……ジーク。確かに、おれとドゥールの仕事は、二人をラボへ連れて行くことだよ。けれど……今の最優先事項は、ダリードを、弟を止めることなんだ。弟は……多分、暴走しているようなものだから。止めたいんだよ。あいつが、誰かを殺そうとするのなんて、見たくないから。……信じてくれ、とは言えない。だけど、信じては欲しい」

「……」

 無言のまま地面を睨みつけ、ジークは懐から紙煙草を取り出した。ほとんど噛むような状態でそれを咥え、火をつける。

「あ。あのさ、ジーク。……ゲイルの言ってることは、多分、嘘じゃない。そう思ったから、あたしとアンジェラは二人と提携を結んだの」

「……提携?」

 低い声。その声に含まれる苛立ちを感じ、エリスは早口で続けた。

「そう、提携。あの、ダリードくんに、狙われてるでしょ、あたしも、アンジェラも。でも、あたし達だけじゃ戦力が足りないから。だから……二人と一時的に手を組んで、ダリードをとめて……それで、二人を信じられるって思ったら、ついていくって、そういう」

「信じるんじゃねぇ」

 低い、だがはっきりとした声でジークが言った。

「――信じるんじゃ、ねぇよ。ラボに関わりのある人間を、信用するな。……俺とイヴは、ラボのせいで……人生狂わされちまったみてぇなもんだからな」

「……イヴ?」

 声を漏らすと、ジークは切なげな色をその瞳に浮かべた。

 ゲイルとドゥールは、何も言わずにジークをみていた。ジークもその二人を一度睨みつけ――煙草を口から離すと、告げた。

「俺は二人にラボのことを話す。――いいな?」

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