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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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悪魔の笑い

 携帯が鳴った。

 若者はベッドから慌てて飛び起き携帯をつかみ取った。


 『いやあ、元気かい』

 携帯からは、あいつの声が聞こえる。


 「あんたの言うとおり実行したよ。だから、早くこいつを解除してくれ」


 『もちろんさ、約束だからな。約束は守るよ、安心しろ』


 「だったら、今すぐ教えてくれ」


 『ああ、解除を知っている奴を教えるから、メモしろ』


 「解除を知っている奴って?あんた、知らないのか」


 『知ってるが、そいつに教えてもらえ。今から住所と名前を言う。一度しか言わないからよく覚えておけ』


 「待ってくれ、書くものを用意するから」


 『住所は東京都…』



 藤田と下田は監視カメラで記録された画像を再製し、爆破される前の黒ビルを眺めていた。

 しばらくの間、時間が止まったような画が流れるだけだった。

 撮られた時間が画面の右上に流れている。


 十二時十分の時点で

 岡持ちを持った白衣の男が自転車に乗って現れた。

 藤田と下田は体を乗り出し画面を見つめた。


 「あっ、来々軒の出前だ」

 後ろで見ていた老人の一人が言った。


 「来々軒ね」

 藤田は復唱しながら画面を眺めた


 数分後、出前持ちの店員が慌てた様子でドアから飛び出してきた。


 「何があったんだ」

 藤田は画面に食い入った。


 その後一分もたたないうちにビルの爆発が起こった。


 「そこで止めてくれ。さっきの出前持ちの男の顔がハッキリ見えるところまで戻し、止めてくれないか」藤田は下田に頼んだ。


 「分かりました」


 画像を早送りで元に戻し、慌ててドアから出る店員の画で止めた。


 「もう少しアップできないか。店員の顔を確認したい」


 「はい」

 下田は画像を拡大し店員の顔を大写しにした。


 「この出前持ちが何か知っているかもしれませんね」

 下田はそう言いながらタバコを咥え始めた。


 「ここは禁煙じゃけん」

 老人の一人が下田に注意した。


 「すみません」

 慌てて下田はタバコを戻した。


 「あの出前持ちの店員を洗い出そう。」

 藤田は手を顎に当て撫でながら椅子から立ち上がった。



 「あの店員は内田って名前だよ。確かそうだったよな」


 「そうだ、そうだあの男は内田って奴だ。間違いない」


 「知ってるんですか?」

 下田は二人の老人に尋ねた。



 「もちろんさ、わしら、よく出前を頼むんだよ。いつも、持って来てくれる来々軒の兄ちゃんだよ。来々軒の東京ラーメンをネ。

 あれが安くておいしいんだよな」

 「あれは値打ちだね、なんか、食べたくなったね。ちょっと、店に行こうかい。佐藤さん」

 「そうしよう、そうしよう。もう、見張りは必要ないからね」


 そう言いながら老人達はドアの方へ向かった。。


 藤田は老人の背を眺めながら言った。

 「来々軒の、内田って店員か。ヒョッとするとこの事件、案外解決が早いかもしれないな」

 藤田は、首を大きく回し、欠伸をした。





 『いいか、もうすぐ二十歳前後の男がお前の部屋を訪ねてくる。お前はそいつを黙って

 部屋に入れるんだ、無駄口は叩くなよ。そいつが、お前に解除ボタンの順番を教えてくれる。

 お互いに教えあって解除するんだ』

 携帯電話からあいつ声が聞こえてくる。


 「なんでそんなまどろっこしい事するんだ。直ぐ教えてくれたっていいじゃないか」


 『スリルを楽しめよ。生きるか死ぬかの瀬戸際を思う存分味わうのさ。二度とこんな経験することはないぜ』


 「…お願いだから助けてくれ」


 『時限装置は残りあと五分しかない。それまでに解除しないとドカンだ』


 ドアを叩く音がした。

 「畑山さん、開けてください。早く開けて」

 切羽詰まった、訴えるような叫びだった。


 『来たようだな。早く開けてやれ』

 ドアを開けると若い男が息を切らして入ってきた。

 ここまで、全速力で走ってきたのだろうか、水を被ったように額から汗を流していた。

 若者は挨拶することもなく告げた。

 「教えてください。解除ボタンの順番を」


 「教えてくれ?俺の方が聞きたい。俺の解除ボタンを教えてほしい」


 男は携帯から聞こえる二人の会話のやり取りを聞いて、机の上にあるもう一つの携帯を右手で掴みボタンを押した。

 そして二つの携帯を両耳に当てたのだった。


 携帯が鳴った。慌てて、二人の若者は携帯を取り出し叫んだ。

「話が違うじゃないか!この人は解除ボタンの順番を知らないと言ってる」


 『そう慌てるな。まだ三分ある。とりあえず、お互いに上着を脱いで上半身裸になれ』


 二人は玄関先で急いで服を脱ぎ始めた。

 上半身裸になった二人の胸には五、六センチ四方で厚さ一センチ程度の箱のような物が

 ガムテープで落ちないように、グルグル巻きに張り付けてあった。

 その箱から赤と青のリード線が出でいてその先端に細長いプラスチックの筒が体に止めてある。

 そのプラスチックの筒には小さな三つのボタンがあった。それぞれ赤、黄、青の色付けで区別してある。


 『脱いだか?』


 「脱いだ、次はどうすればいいんだ」


 『あと残り時間一分半だ。いいか、今から相手方のボタンを順番に言うからその通りに押すんだ。

分ったか?』


 「ああ、早く言ってくれ」


 『じゃあ、解除ボタンの順番を教える。まず赤のボタンを押せ』


 「赤のボタン」


 「赤のボタン」

 二人はそれぞれ告げられた色のボタンを相手方に言ってそれぞれ自分のプラスチックのボタンを押した。


 『次は黄色だ。間違えるな、間違えたらドカンだぞ』


 「黄色のボタン」


 「黄色のボタン」


 男は両手で携帯を持ちながらしばらく寡黙になった。

 残り時間が二十秒を切った。


 「最後を早く教えてくれ!」

 若者は泣きそうな声で訴えた。


 『分かった。最後の一つを教える。残り時間十秒だ。…赤だ』


 「赤!」


 「赤!」


 両手に持った携帯から突然激しい雑音が一瞬聞こえたかと思うとプツっと

音が止んだ。


 「すまん、間違えた…最後は青だった。だが、二人共、永遠に苦痛から解放されたようだな」

男はそう呟いた後、けたたましい声で笑い始めた。

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