私は何も持ってない
作者はコメディーのつもりで書きました。一部不謹慎な犯罪表現があります。ご注意ください。
「はじめまして、みなさん。」
私はスポットライトが照らされた舞台に立っている。細身の黒のパンツスーツに身を包み、ポケットに手を入れ、不敵に笑って立っている。私の目の前には漫才師が使用するようなサンパチマイク。舞台上にその他のものは何もない。ライトに照らされたマイク、自分の足元以外は何も見えない。観客の顔も気配もなく、目の前には闇と沈黙が広がっている。
私は自信にあふれた笑みのままマイクに向かって、先ほどのあいさつの後を続ける。
「私の名前は井伏駒子。現在中だるみの高校二年生。若干過保護な両親と愛おしいブス猫みーちゃんと一緒に住む一人っ子。風情がない中途半端な田舎に住んでいる。趣味は読書と音楽鑑賞。特技はトランプゲームの大富豪。これといった資格はなし。部活には入っていない。習い事もしていない。勉強は苦手で嫌い(特に数学)。さらにスポーツはもっと苦手で嫌い。友人はいるが、彼氏はいない。容姿は御覧の通り。」
ここまで一気にまくしたてて、私は目を閉じ、下を向く。観客からの反応は一切ない。私は下を向いたまま、ため息をつく。そして降参だ、とでもいうかのように、両手を挙げる。その姿勢でなかばやけになって、叫ぶ。
「わかってます。わかっていますとも!皆さんが求めているのはこんな小娘じゃあない。ここは才能ある人々のみが集う場所、立つことを許される場所!私は完全に場違いだ!」
未だに観客の反応はない。私は手を降ろし、一呼吸おいてまっすぐ前を見つめる。相変わらず闇しか見えない。私の顔から笑みが消える。しかし、闇を見つめる私の眼差しは強い。まだ話を続ける。
「しかし、しかしですよ、みなさん。逆に、逆に考えてみてください。新しくないですか、これは?特技が大富豪ですよ?しかも2、3回友人達相手に勝ったぐらいで特技にしてしまってるんですよ?それぐらい私は何も才能を持っていない!つまり丸腰で戦場にいるんですよ!根拠のない自信と傲慢さだけ持ってここに立っているんです!だが、そんな子が今までこの場所に立ちましたか?立っていないでしょう?前例がないでしょう?前例がないことって・・・すごいことでしょう・・・?」
ようやく観客から反応がある。とはいっても、客の顔も客席も闇に包まれたまま。私の耳には、前方の闇から私を嘲笑する無数の声が聞こえてくるだけだ。すると私の顔にさっと赤みがさす。私は恥ずかしさでうつむく。ところがすぐにその恥は消え去り、客への不満と怒りへ変わる。
「笑ったな?私を笑ったな?!私には根拠のない自信と傲慢さだけがあると言っただろ?!そんな私を笑うなんて、私は怒るに決まっているだろう?!!」
もはや何を言いたいのかも分からずに、マイクの前で地団太を踏む。嘲笑は止まない。涙が頬を伝って流れてくる。とにかく観客に何か復讐してやりたい。その思いだけが今の私の頭を支配している。
すると、私のスーツの右ポケットの中にずっしりとした重みが生まれる。ポケットには何も入れていなかったが、今は何かが入っている。私はポケットに手を突っ込んでみる。今まで触ったことはなかったが、すぐにそれが拳銃だと分かる。
私は勝ち誇った笑顔を浮かべる。復讐の手段を見つけたからだ。迷いも後ろめたさもない。私は慣れた手つきで銃を目の前の闇に向ける。嘲笑はそれでも止まない。だが私はもう気にしない。
私は銃の引き金を引く。その瞬間私は銃声と人々の悲鳴を期待するのだが、引き金を引いて鳴った音は穏やかな学校のチャイムだった。
「はい、やめー。一番後ろの人集めてー。」
試験監督の先生が教壇の前から呼び掛けた。私はハッとして先生を見つめ、すぐに自分の答案用紙に目を落とす。お粗末な数式がところどころ書いてはあるが、大部分を占めている空欄の白さが眼に痛かった。その白さがここは舞台の上ではなく、高校の教室であること、数学の中間テストがただ今終了したこと、自分は凶行に走っていないことを自覚させた。
テストから解放されたクラスメイトの様々な声が教室内を包む。そんな喧騒の中、机の間をぬって友人の栄子が私に向かってきた。
「お疲れー。今回やばくなかった?」
栄子は屈託のない笑顔で私の机に手をつく。私は苦笑いしながら答えた。
「やばかったー。全然分からなかったから、途中で寝ちゃって夢までみたよ。」
「えー、どんな夢だった?」
「いやー、その夢のことなんだけどさ・・・。・・・栄子・・・私将来ニートになって、社会を逆恨みして、都会で無差別殺人やらかすかも・・・。」
「大丈夫。もし本当にそうなったら、駒子が高校時代そうやって言ってたってマスコミにちくるから。」
「栄子のそういうところ、大好き。」
処女作です。初心者でまだまだ未熟ですので、感想・アドバイスいただけると嬉しいです。






