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世にも奇妙な小噺

作者: 千葉の古猫
掲載日:2026/06/13

 知人から聞いた話を元にアレンジしてショートストーリーにしてみました。

 この話を読んだ人が、おもしろいと感じるかどうかは自分では判断できません。

 男のメインバンクはあるネット銀行だった。

 その男のネット銀行の残高は3,624,877円。


 記憶力が悪いことを自覚していた男はその残高をキチンとメモしたが、翌日その紙を家に置き忘れたまま家を出てしまった。彼にとっての大金を早く安全な口座へ預け入れてしまおうと思っていたから失念してしまったのかも知れない。

 預金予定の金額はそこそこキリの良い数字で全て1万円札紙幣。ある出費予定があって別の口座から出金していたものだったが、予定が変わって必要がなくなってしまったのだ。まあ元の口座に戻すよりネット銀行の口座へ移しておいた方が便利だな、そんな風に男は考えていた。

 そのお金を封筒に入れて、近所のコンビニのATMに向かった。

 その日は土曜日だった。前の日にコンビニのATMで自分のネット銀行の口座へ土曜日に入金できるか確信が無かったので、男は用意周到にAIに質問して休みの日でも入金可能か確認していた。準備万端笑。


 男はコンビニに入店すると、何の買い物もせず目的のATMに直行した。

 幸いATMを使っている人は居なかった。このATMはネット銀行から定期的に生活費をおろしたり、スイカのチャージでもよく使っている。


 チャージの場合は取引の種類の中からチャージを選択し交通系カードを選び必要なお金を現金投入口に入れるのだが、その後はスイカの入った財布をそのまま左側のガラスの小窓の上に置くだけ。一連の作業がATMの中で行われるのを待ってから財布をポケットにしまい、必要ならチャージ後の残高が記載された明細発行ボタンを押して、出てきた紙片を受け取る。


 さて、その日は口座への入金だったので、財布から当該ネット銀行のカードを取り出してカード差込口に入れてお金を投入するという、男にとっては普段やらない作業だった。出金は定期的にしているがATMで口座へ入金することは何年ぶりか思い出せないくらいだ。

 カードを差し込んだ男は持ってきた紙幣を全部投入しようと思ったが、一回に預かることができる枚数は50枚までという注意文に気がついて、封筒のお札から10枚を抜き取ってから残り全部を投入した。

 画面の表示と音声は次の通り。

「枚数が制限を超えています」

 そしてお金の投入口には紙幣がまとまって返された。


『なんだよ、一枚多かったのか』

 そう思ってやり直そうと思った男は、プリントアウトされた利用明細を見て目を丸くした。


『あれ、50万円くらい増えてないか』

 男はこれをそのままにしたらどうなるだろうかと、その利用明細の取引後残高を見て考えた。あるいは口座残高の記憶違いかもと考えてみて、それならそれでしょうがないよなと思った。何がしょうがないんだか笑


 とりあえず残りのお金を預け入れてから、そのことについては改めて考えようと思った男は、ATMの様子を見るつもりで最初によけた10枚を預け入れた。

 今度は問題なく10万円の入金表示が出て、利用明細の取引後残高も10万円増えていた。


『うん、ATMはちゃんと動いているみたいだな』

 男はほくそ笑んだ。


 次に男は最初に返されたお金を投入したが入金額は30万円と表示された。

『あれ、50万円じゃないのかよ』

 頭の中でATMに対する不信感と怒りのようなものが同時に込み上げてきた。

 ここでやめても良かったのだが、男は何故かそのまま取引を続け終了した。


 その最後の取引を終えてしまってから、何だろうこのATM、やっぱりおかしくないかと考えた男は、ATMに設置された問い合わせ用のインタフォンを取って、オペレーターが出るのを待った。手元には3枚のご利用明細。

 オペレーターに事情を話して確認するも、ATMは正常に動作しておりますとの回答だった。男はインタフォンを元に戻した。

 俺はきちんと正直に経緯を説明したよな。最後の取引では20万円損した気もするが、最初の取引で50万円得しているから、ま、良いか。そんなことを思いながら男は帰途に着いた。


 帰宅した男はネット銀行のマイアカウントにアクセスしてみた。その数字を見て驚いた男は思わず声を上げてしまった。

「あれ、入金後の残高は4,524,877円になっている。一体どうしてこうなった?」


 男は自分がさっき行った取引を最初から思い出して考えた。

 あ、なるほど、そういうことかと腑に落ちた。

 男は、途中で喜んだり、そのままにして問題にならないかとか心配したりしていた自分がおかしくてたまらなかった。そして呟いた。

『そんなうまい話なんてある筈ないな』と。




 普段から紙幣をよく数える機会がある人達や、しっかり者なら、決して彼のような思考に陥ることは無かっただろう。

 彼の入金したかったお金は100万円には丁度10万円足りない額だった。それも10万円に絡む勘違いをした要因だったのかも知れない。

 預け入れに慣れてなかった彼は、ATMで一回の取引は50枚限度という注意を見て、最初の入金では持ってきた紙幣から10枚抜いた残り全部を投入していた。

 枚数が多すぎますとして戻されたのは30枚だったのだ。その時ちゃんと数えればすぐ自分の勘違いにすぐ気付いたのだろうが、ATMの近くに空くのを待っている人がいるような気配を感じて、投入額全部を戻されて始めからやり直しと思いこんでいたら、出てきた利用明細で50万円増えている気がして、頭の中が混乱してしまったという次第。




 どうでしたでしょうか。全くおもしろくないと思った人には、ごめんなさい。

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