提案
「ナディア様?
その異国の皇子様のお世話が、そんなに苦痛なのなら わたしが代わりましょうか?」
<ローズ>は、あまりに気の毒なような気がしてきて 提案した。
その発言に その場にいる面々は、呆気に取られてしまったらしい。
先ほどまで 心から嘆いているようにしか見えなかった女性も、目をパチクリ。
「<ローズ>………貴女、自分が何を言っているのかわかっていて?
その皇子が、どんな性格をしているのか 知らないでしょう?」
「話だけは、伺った事ががあります。
御年10歳の聡明な皇子なのでしょう?
とても礼儀正しいと小耳に挟みましたけど………」
<ローズ>の仕入れてきた内容に 皆は、困り顔。
それは、違った情報だったのだろうか?
「う~ん………そっちの情報は、こっちが預かる事になっている同じ年の皇子。
今の内容の皇子は、側室の息子で 問題の皇子は、正妃の息子」
「その国の王妃様は、ミリアム様とご友人なんですよ。
ですから 交流は、続いていたのですが………その方が、2年程前に病で亡くなられてしまったんです。
王妃様が亡くなられた事で その国の王は、側室の方に王妃の位をお与えになりました。
これにより 王位継承第1位の皇子は、何の後ろ盾もなくなったに等しくなったそうです。
皇子の母君の実家は、既に皇子の従兄が後を引き継いでいたそうですが 若輩者ですし。
ですから 時より、こちらに滞在する事がおりまして………」
ルチアは、頭痛を覚えているかのように 説明してくれた。
「もしかして 新しい王妃様に、苛め倒されているんですか?
だから、この国に逃げて………」
<ローズ>の言葉に 皆は、目を泳がせてしまう。
「いえ その逆です。
押し付けられたんですよッ!」
驚いて、振り返ってみると 宰相が、真剣な顔になっていた。
小刻みに震えているのは、怒りによるものなのかもしれない。
「宰相閣下が、一番の犠牲者でしたからねぇ~?
前回お越しになった時は、一番凄かった………」
イリアが、そう呟くと 宰相閣下の鉄拳が、炸裂した。
「主人もそうですけど………うちの息子は、子分扱いされていますしね?
あの子………皇子が滞在中、食欲が減ってしまうんです」
奥方の悩みの種に 困り果ててしまっているらしい。
「ミーナも 生まれたばかりの子供が、同じ扱いを受けるのではないか と不安がっていますし」
イリアも さすがに、不安が込み上げてきたのか 肩を竦めてしまっている
「我々侍女も、悪戯の標的にされることもありました。
ルチアさんでも 何度も雷を落とされましたけど 意味が為さず。
ただナディア様に対しては、随分と紳士的なんですよね?
だから 毎年、皇子のお目付け役になってしまわれて」
リーンは、溜息をつきながら テーブルに項垂れている王妹殿下に視線を注ぐ。
話しを振られたナディアは、機嫌が悪い。
「あの腹黒い性格が、直っているのならば 綺麗な顔をした異国の皇子なのに………ッ!
前回の犠牲者は、宰相だけじゃないんだから!!」
「ああ………そういえば、折角用意していた薬剤を全部粉砕されたのよね?
しかも それによって、皇子自身も薬の影響を受けてしまって 暗殺容疑を掛けられて、一晩だけ牢屋に入れられてしまって」
ミリアムの言葉に 王は、その時の事を思い出したのか”あの時は、すまなかった”と、頭を下げる。
兄の言葉に 妹は、首を振った。
「気になさらないで。
アレは、立場上………仕方のない判断だった事は、重々承知しているわ?
皇子の騎士が、私を斬り捨てようとしていたところを 何とか牢獄行きで収めてくださったのだし。
それで その限られた時間の間で リアとイリアが、皇子の悪戯による結果だという証拠を見つけてくれたし」
そう言いながら ナディアは、コーネリアとイリアに視線を向ける。
視線を受けて 2人の騎士は、急いで地面に膝を付いて 頭を下げたらしい。
「ですから ナディア様?
わたしが、その皇子様のお世話を代わります」
<ローズ>は、最初よりも自信満々に声を張り上げた。
一同は、先ほどの会話を聞いても 全く意思が揺るいでいない侍女に 呆気だ。
「本当にいいの?」
王妃の問いかけに <ローズ>は、満面の笑み。
「ならば 誓いを立てましょうか?」
ちょっと、企みがある<ローズ>です。