お茶会3
「あら………お茶会をしていると伺って 来たのに。
何だか 重苦しい空気ですね?」
その声に 驚いて振り返ってみると そこには、陛下と同じ赤毛の混じった金髪を肩の辺りで切り揃えた女性が。
彼女は、陛下の妹君のナディア王妹殿下。
それは、顔立ちと髪の色で一目瞭然だろう。
ナディア様は、数々あった縁談を全て断り 医術の道へと足を踏み入れた異例の王族。
けれど その腕前は、確かにあるはず。
特に 王宮で働いている女性陣には、とても素晴らしい存在でもある。
いくら医者といえども 男性医師に診断してもらうのは、気が引けてしまうのだから。
<ローズ>も 胸にある痣の経過を診察してもらう時 男に見られるのは、恥ずかしくて堪らない。
「ナディア様………今日の診察は、終わったのですか?」
<ローズ>は、今日のお茶会のホステスである立場を思い出して 急ぎ、コップと紅茶を用意する為に立ち上がった。
「珍しいな、ナディア。
仕事中毒のお前が、お茶会に参加するだなんて」
ユゥリィは、珍しい物を見たとでもいうように 目をパチクリさせている。
その反応は、騎士達と宰相も同じだろう。
「あら ご存知ない?
ナディアは、<ローズ>がホステスの時だけ 毎回、お茶会に参加しているのよ?」
ミリアムは、楽しそうに微笑む。
侍女達は、王の妹であるナディアの出現に 全く動転することなく 優雅に席を空けた。
「毎回 <ローズ>がお茶会のホステスになる時は、陛下達 お仕事でお越しになられませんでしたから。
確か 今回が初めてでは?」
ルチアの言葉に 陛下方は、納得したように 顔を見合わせている。
「驚いたな~?
まぁ ナディア様自身が、<ローズ>の主治医になる事を宣言なさったから 何かと思い入れがあるとは思っていましたけど………さ?
だって、ソックリじゃん」
イリアは、感心したように 顎を摩った。
騎士の一言に その場が凍りつく。
皆のそんな反応に <ローズ>は、疑問を覚える。
けれど その質問をする前に 彼は、宰相に蹴りを入れられてしまっていた。
今は、一線から退いているけれど 剣術も体術も相当の腕前らしいから イリス様は、相当辛そうだ。
その一撃が、氷河のような氷に皹を入れたらしい。
「ナディア様は、お砂糖が2個でしたね?」
<ローズ>が、そう言うと 彼女は”ええ”と、頷く。
そして、丁寧な手つきでコップを差し出す。
「ありがとう。
………………うん、やっぱり <ローズ>の入れる紅茶は、絶妙ね?
仕事の疲れが取れる」
ニッコリと微笑むナディアに <ローズ>も自然と笑みが浮かぶ。
「ナディア………本当に疲れているのね?
何か問題でも 出てきているの?」
ミリアムは、神妙な表情を浮かべて 隣に座っている義妹の顔を覗き込む。
ルチアは、そんな王妃の行動に注意しかけたが 確かに顔色が悪いと気が付いていたのか、思い留まる。
「ああ~例の国から 使者が来たでしょ~?
内部紛争が起きるかもしれないから 皇子を保護して欲しいって」
ナディアは、そう言うと 深く溜息をついた。
その様子を見て 陛下や宰相達も、同情するような顔になっている。
ミリアムや王妃も、何か思い当たる事があるのか 溜息。
そんな皆の反応に <ローズ>は、1人だけ首を傾げるしかない。
「仕方がないだろう、ナディア。
皇子は、お前の事を本当に慕っているんだから」
ユゥリィ陛下は、苦笑して 妹殿下の背中を優しく叩く。
「わかっています、そりゃぁ~もうッ!
けれど 限度ってものがあることを、兄上達にもわかって頂きたい」
少し膨れた顔は、やはり陛下の愛された妹だと思う。