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硝子の薔薇  作者: クロネコ
      本章
40/41

動き3


 「あの廃村へ向かわれるそうですね?」



ミリアムは、哀しげな表情を浮かべたままで言った。



その声色を聞いて 侍女や側近達は、息を呑んでしまう。



この空間に漂っている空気は、それだけ 緊迫してしまっているのだから。



そんな周囲の思いを知ってかしらずか ベットに倒れ込んだままの儚げな女性は、目の前に立っている夫を見据えている。



「ああ 確固たる証拠があるわけじゃない。


だけど………何もないという証拠もないんだ」



珍しく真剣な眼差しを向けてくるユゥリィに 王妃は、ただそれを見つめているだけだ。



しばらくの間、沈黙が続き ミリアムは、ゆっくりと身体を起こした。



周囲にいる皆は、ハッとしたように 目を見張る。



皆が息を呑んでいる中 王妃は、首に下げているモノを取り出し 囁くような声を発した。



「ご無事なご帰還を心より願っております。


 ── <わたくしの心は 貴方の命> ──」


高い声が、凛として部屋の中に響くと ミリアムは、薔薇の形をした石に口付ける。



すると 王妃の体全体が、光に包み込まれた。



これは、神聖なる儀式。



戦いの場に赴く前 夫たる者の命を支える者の誓い。



「別に 戦争に向かうわけじゃないのに」



心配そうに呟くユゥリィに ミリアムは、目を細める。



「それでも 危険な場所でしょう?


あそこは、始まりの場所であって 悲しみが続く場所でもある」



真剣な瞳を持つ妻に 男は、肩を竦めてしまう。



「リーンが、そこで拘束されている可能性も高い。


シャルロッテもだ。


侯爵に、城を離れている間 滞在してもらおうと思っている」



「お父様が、呼ばれるの。


ならば 尚更………厄介なことが待っているのですね?」



聡い王妃の発言に 王の側近達は、顔を見合わせてしまっているようだ。



少し前にその話を聞いていた侍女達も、戸惑いを隠せていない。



「大丈夫ですよ、王妃様。


皆さん 無事に戻られますから」



1人の侍女が、ニッコリと微笑を浮かべて 膝をつき 断言した。



「貴女は………?」



見かけない銀髪の女性に ミリアムは、首を傾げる。



顔立ちは、誰かを連想させるような気もするが なぜかわからない。



「ジャンヌの申します。


王と皆さんが、王宮を離れている間 王妃様方のお側に仕えさせて頂きます」



「話によれば 武術にも医術にも長けているらしい。


侍女としてならば シャーリー達もいるだろうから………ナディアの助手になってもらおうと思うんだが」



ユゥリィは、そう言って 黙り込んだままの妹に視線を向けた。



「知識の方には、問題ないからね?

もう1人の彼女は、シャーリーの部下として 侍女見習いをすることになっているわ」



妹殿下の言葉を受けて メイド服姿の幼顔の少女が、チョコチョコと進み出てくる。



「初めましてぇ………イブと申しますぅ。


何かとご迷惑にならないよう 頑張りますからぁッ!」



間延びな口調に 先輩侍女のシャーリーは、頭を抱えているし ルチアは、既に呆れ顔だ。



「何だか 楽しそうだわ?


アンとも仲良くなれるんじゃないかしらね?」



その言葉に ルチアは、”そうでもないんですよ”と 息をつく。



性格(キャラ)が被ると 拗ねてしまっているんですから。


仕事だから 仕方がないというのに………あの子にも、困ったものです」



侍女頭の言葉を受けて ミリアムは、コロコロと笑う。



そんな妻の様子を見て ユゥリィは、安堵したように胸を撫で下ろす。



「陛下………今からお出立になられるのですよね?


お見送りができず 申し訳ございません」



ミリアムは、どこか哀しげに 夫である王に視線を戻した。



「いや………謝らないで欲しい。


ミリアムも、無理せずに 健やかに過ごして欲しいから」



ユゥリィは、ニッコリと優しげな眼差しを持って 王妃の頬に触れる。



そんな夫婦の姿を見つめて 周囲の皆は、何とも言えない様子。



特に 年若い面々は、頬を赤らめてしまっているようだ。



「それでは………用意がありますので 退室させて頂きますね?」



イリアは、咳払いしながら 身重な妻の手を引き 部屋を後にする。



その後に 皆も、置いていくなと言わんばかりに 出て行った。



部屋の中に取り残された王と王妃は、苦笑しながら 互いの顔を見つめ合う。


 

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