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硝子の薔薇  作者: クロネコ
      本章
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動き2

 王宮内は、王の突然の行動に慌しく走り回っていた。



誰もが、あれは 正気を失ってしまったのではないかと疑ってしまったほど。



けれど 王を守る騎士や側近は、何か知っているらしく 同じようにいつもの仕事に加え、動き回っている。



ただ違うのは、見知らぬ青年が 王の近くで話し込んでいることだろう。



顔は、仮面のようなもので隠しているので 何者なのか判断できない。



けれど あれだけ優秀な王やその側近達が、信頼しているようなのだから 只者(ただもの)ではないはず。



「成る程………その話から符合(ふごう)するのは、廃村(あのばしょ)になるわけか」



ユゥリィは、どこか思い口調で呟いた。



それを聞きながら 他の皆も、息を呑む。



導き出されたのは 誰もが、忘れる事の出来なかった場所だ。



先の戦争で かけがえのない犠牲を払ってしまった処なのだから。



今では、慰霊碑が建てられ 戦争において犠牲になった人々の名前が刻まれたり 銅像が建てられているはず。



「あのこを根城にするだなんて 何て奴なのかしらッ!」



ナディアは、怒りを隠すことなく 声を張り上げた。



そんな妹の様子を 王は、心配そうに見つめている。



「落ち着くんだ、ナディア。


確かに 怒るのも無理ない。


だが 今は、捕らえられていると思われるリーンとシャルロッテが心配しないと。


みんなに集まってもらったのだって 色々と忙しくなるから、そのことを説明するためであって」



王の間に集められたのは、王の側近に第一・第二騎士と王妃付きの侍女達にセレディー王子とその護衛のトッドだ。



ルチアは、宰相が部屋を離れざる得ない状況の為 結界を敷かれた部屋の中にルチアが一緒に待機している。



「ちょっと、待って?


リーンは、心配なのはわかるかもしれないけど シャルロッテは大丈夫なんじゃない?


だって あの子………あんな姿(ナリ)しているかもしれないけど 男でしょ?


余ほどの事がない限り 危険は回避できるんじゃない?」



シャーリーの発言に 数人が、固まってしまう。



他の数人は、苦笑してしまっているらしい。



「この場で それをバラしちゃうわけだ。


まぁ………知らないままなのも、気の毒なのが1人だけいるかもしれないけど



イリアは、空笑いした。



「どうしよう………私、普通にロッテの隣で制服着替えていたんですけど~?」



間違いなく気の毒な犠牲者の高いトーンの声が、響く。



その発言をしたのは、赤毛の縦ロールを揺らしているアナスタシアだ。



彼女は、侍女長の姪であることから ルチアの代理として、この話に参加しているらしい。



「どうして 教えてくれなかったんですか?!


私、相談事とか色々としちゃっていたんですけどッ!」



「アン………黙っていたことは、悪かったかもしれないけど 今は、時と場所を考えなさいよ」



大きなお腹を支えながら ミイナが、大きな声を上げた。



「あの子は、元々 ナディア殿下の命を狙った老師によって送り込まれてきた刺客だった。


まぁ………あまり気が乗っていなかった事と老師の事を快く思っていなかったこともあったから 私達側についてくれたのよ。


あの容姿は、周りを欺くのに利用できる。


だから あえて………侍女として王宮入りする身分を与えられた。


成長過程において 色々と極限的な環境だったため、成長も止まってしまっているそうなんだから」



「それに、アナスタシア。


ミイナも私もリーンだって 元は、王族の命を狙った暗殺者の血縁者だってこと 忘れないで頂戴ね?」



ミイナに賛同するかのように 溜息混じりに話すシャーリーに アナスタシアは、肩を竦めてしまう。



「それで………王自らが、その老師とやらがいる廃村に向かうのですか?」



ずっと黙り込んでいたセレディーが、口を開いた。



「そうなるね?


場所が場所だし 長い間、城を留守にする事になるだろう。


イリアとリアを含めた、数人の騎士も連れて行こうと思っている」



ユゥリィの言葉に 皆の顔が引き締まる。



王やその側近達の不在………それは、ある意味 残っている者にとって 最も緊張する日々になるのだから。



「廃村………か。


あそこには、うちの両親も眠っているはずなんですよね~?」



アナスタシアが、小さく呟いた。



それを聞いて 隣に立っていたナディアが、ハッとしたように 息を呑んだ。



「確か………アンの父親は、アーロンの同僚の騎士だったわね?


それで 神殿によって召喚(しょうかん)された姫神子のジュリ様が母親………」



「うん………結局、亡骸も回収されなくて お墓だけが慰霊碑の村の中央部の端にあると聞いたんですよ~」



聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしたのか セレディーは、ソワソワしてしまっている。



けれど 王を含めた皆は、ただ黙っているだけだ。



赤子の頃から ルチアが背負って仕事をしている姿を見ていたためか、古くから城にいる者にとって アナスタシアの性格は、わかりやすいものなのだから。



それを肯定するかのように 赤毛の侍女は、先ほどの憂いなど直ぐに消え去っていた。



「確か その近くには、崖があって 高い塔がありましたっけ?


もしかして そこに本物のシャルロッテさんとリーンさんが捕らわれていると考えているんですか~?


あそこは、足場がない上に 落ちたら海の藻屑(もくず)になること間違いなしだそうですから、リーンさんも大人しく捕まってあげているのかもしれませんね?」



アナスタシアの発言に 王も、同じ意見を持っているらしい。



「ところで 王がいない間………どうするんです?


<影>は、色々と動いてくれるでしょうけど 完璧とは言えない。


私だけでは、色々と制限されてしまいます」



シャーリーは、真剣な表情を浮かべて 発言する。



その言葉に ミイナが、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



リーンは、浚われてしまっており ミイナは、現在 身重な状態。



「我々が、残りますから ご心配要りません」



凛としたその声に 皆は、驚いたように 視線を向ける。



その視線の先には、ずっと気配を消していたフードで顔を隠した集団が………。



「聞きそびれていたんだけど 彼等、何者なの?


お兄様は、随分と信頼しているみたいなんだけど」



ナディアは、神妙な表情を浮かべ 視線だけは外していない。



「<ローズ>の大切な友人。


今は、その説明だけで十分だと思う。


信用するかについては、各自の判断に任せるつもりだよ」



ユゥリィは、それだけ言い終えると 皆の顔の見返す。



「疑わしいことは、我々でも承知の上です。


けれど 同じ志を持っているのですから 助け合いませんか?


これ以上 犠牲は払いたくないんです」



壁にもたれている彼らの中で 一番 主人各であろう背の高い若者が、前へと進み出てきて 頭を下げる。



ナディアは、それを目の当たりにして ハッとしたように、急いで兄に視線を向けた。



ユゥリィは、ただ微笑むだけで 何も言わない。



けれど 他の知らされていなかった面々も、何かを悟ったのか 顔を見合わせている。

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