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硝子の薔薇  作者: クロネコ
      本章
37/41

ある部屋にて 



 <ある一室にて>関係です


 1人の女性が涙目になって 一室で膝を抱えていた。



「もう 知らないわ?!


どうして………あの方は、わたくしのことを見て下さらないのかしら。


あんな切実に名を呼ぶくらいに想い馳せる方がおられるのならば どうして 正室に据えたというの?」



自分の口から出てきた言葉に 女は、涙の止め方がわからない。



止め処なく溢れてくる滴に 頬はどんどん濡れてく。



「最初は、何度も希望を持った………。


けれど あの方のお心には、想う方がおられる。


どんな方なのかとみんなに聞いても 誰も教えてもくれない。


ただ………王位を継ぐ可能性をお捨てになる勇気を与えて下さったということしか」



膝から顔を上げると 艶やかなウェーブの掛かった黒髪が、垂れてくる。



結い上げていたはずだが ずっと俯いていた為に落ちてきてしまったらしい。



(メアリー)………閣下には、色々と事情があるのだと思いますわ?


確かに 性格に問題があるかもしれませんが」



ずっと空気のように徹していたお付の女の1人が、重い口を開いた。



他の女官達は、何たる事をするのかというように その発言者を驚愕の目で見つめている。



けれど 今のこの状況でこういった言葉が許されるのは、幼馴染として幼い頃から共に育ったからかもしれない。



「最初は、弟君の元に嫁ぐと思い込んで 初恋(・・)だったあの方への思いを封印するつもりだったわ?


でも すぐにあの方の妻になれると思って  胸が(おど)ったというのに………。


素気ないのも、若輩者(じゃくはい)と未だに見下してくる貴族の方々と渡り合っているのだから………と 何度も仕方がないと諦めた………。


あの方は、陛下に既に寵愛を一身に受けられた王妃様がおられるから 仕方なくわたくしを正室に迎えたに過ぎないのよ。


ずっと 独り身でいたから、(かく)(みの)に丁度いいと思われたんでしょうね?


お父様とお母様に恩義としても 親交を深める事で他の貴族達も文句が言えなかったらしいし………名ばかりの妻でしかないのよ」



やっと10代を終えたばかりの時しか過ごしていない為か どこか拗ねたような儚い表情を浮かべた。



そんな若い主人の様子に 幼馴染の女以外の女官達は、息を呑んだ。



彼女が嫁いでからどのような環境で過ごしたのかわからない為 どこか戸惑ってしまう。



そんな皆の様子に 何か知っている女官は、小さく溜息をつく。



「差し出がましいかもしれませんが 閣下は、(メアリー)の事を愛しておられます。


小さな姫君のことも、本当に可愛がられておられるではありませんか。


確かに お噂では、様々な推測が飛び交っておりますが 今の貴女の地位を揺るがす存在は、姿を現そうとしない幻影(まぼろし)でしかありません」



幼馴染の発言に メアリーは、唇を噛む。



それは、幼い頃からの納得がいかない時にする彼女の癖。



(メアリー)は、もう少し 周りの目も気にすべきです。


閣下には、閣下の立場があり 色々と苦労されているとの話なのですから。


こう何度も 祖国に舞い戻る事が続けば  同盟を結んでいる他国に、変な噂を広めてしまうだけになってしまうのですよ?」



その言葉に 他の者達は、オロオロとするばかり。



貴女(ジャンヌ)には、わたくしの気持ちなどわからないわ?」



幼さを残す姫君は、銀髪の幼馴染である女官を睨んだ。



「簡単に愛する方を手に入れて 幸せをも手にしているんですもの。


わたくしには、それが不可能なの………だって あの方には、大切な方がおられるんだから」



「あら………私は、それなりに努力したんですよ?


彼は、無口で 御自分の心を他人に悟らせないようにする事を昔から得意としていたそうですから。


それと反対に 閣下は、わかりやすいじゃありませんか………。


(メアリー)と喧嘩した翌日なんか 鬼のような訓練が待っているそうなんですからねぇ?」



「それは、陛下からお話を窺ったことがあるわ?


だから あまり他の方々に迷惑にならないように控えている方なのよ?


だって 貴女の片割れさんにも、泣きつかれてしまったんだもの」



「ああ………あのヘタれの言葉は、別に聞かなくても大丈夫ですよ。


どうせ 女の子の後ばかり追いかけてばかりいるから、体力がついていないだけなんだもの。


お父様だって あの成長振りに頭を抱えてしまっているらしいしねぇ?」



口元をくっと上げる仕草に 何人かの女官が、色めき立つ。



「ジャックの場合は、まだ精神的に子供だから仕方がないわ?


だって 初恋をしたことがないそうなんだもの。


でも あの方は、違うと思うの。


あの容姿だし わたくしと結婚する数年前までは、王位継承者として 社交などに関することを学んでいたこともあって、様々な貴族のご婦人方とも関係を持っていたはず。


きっと その中のどなたかに、報われない想いを抱かれているのよ。


じゃなかったら あんなに想いを込めて名前を呼べるはずがないわ?



女は、幼馴染の発言に膨れっ面になりながら 目を細めた。



そんな同年齢の主人の様子に 女官は、微笑ましそうに口元を緩める。



「以前 夜会に出席なさった時 プレイボーイと有名な貴族の男性が言い寄ってこられた時、庇って下さったのでしょう?


(メアリー)ってば 顔を真っ赤になさって、話して下さったじゃありませんか。


仕方なく奥方に迎えた相手を、そこまでして庇うでしょうか?


私なら そういう感情を持っていないのでしたら、勝手にしろと言わんばかりに知らん振りするわ?」



その質問に 女主人は、返す言葉が見つからない。



ふと その時、扉のノック音が聞こえた。



「やぁ 可愛い妹が出戻ってきていると聞いて、顔を出しに来たよ?


随分と声を張り上げているようだったけど また ジャンヌに言い負かされていたの?」



優しげな微笑が扉の向こうから広がるのが見えて 女は、嬉しそうに相手に抱きつく。



「エルディーお兄様、お久しぶりですわ!?」



興奮気味な兄妹の様子に幼馴染の女官は、呆れたように咳払いをしようとしたものの 先を越されてしまう。



「限られた時間です。


公務の方は、まだ終わっていないのですからね?」



どこか固い口調に 赤みの掛かった金髪の青年は、肩を竦めた。



「少しくらいはいいじゃないか」



「貴方が、(メアリー)様に逢わないと 資料の内容が頭に入れないと駄々を捏ねるから許したのでしょう?


そうでなければ あの馬鹿(ジャック)に対応を押し付けてまで、執務室を出る必要もなかったということになりますが?」



「宰相代理………何だか、父親に似てきたんじゃない?


君の母上達が、嘆かれていたよ?


昔は、あんなに愛らしかったのに………って」



その発言を聞いて 厳つい顔をしている背の高いプラチナブロンドの若い男は、眉根を寄せる。



「あまり関係のないことでは?


(メアリー)様も、あまり部屋に篭られずに 散策などなされるとよろしいのでは?


今日は、天気が良いですし 中庭の花園は、美しく咲き乱れておりますよ?


王妃様自慢の花園は、1年中様々な花が咲いているのを覚えておられますか?」



「子供の頃からの遊び場でしたもんねぇ?


採取閣下代理は、随分とお父上に似てきてしまわれたようですけどぉ」



ジャンヌがわざと語尾を延ばすと 閣下代理は、険しい顔をして 先に部屋を後にした。



「相変わらずね?


お兄様も、苦労なさっているのではなくて?


いつも宰相閣下代理と同じ執務室に篭られているのでしょう?」



心配そうに聞く妹に エルディーは、苦笑する。



「あいつは、真面目すぎるだけさ。


根本的には、少し天邪鬼で不器用なだけ。


限界が近くなれば イヴが見計ったかのいうにお茶を運んできてくれるから大丈夫さ。


まぁ………逆にジャックの機嫌が悪くなってしまうんだけどね?」



エルディーは、優しい微笑を妹に向けてから 他の女官達にも軽く挨拶し、そのまま部屋を後にした。


 

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