夢と不安
「別人格って どんな姿形をしているのかしら?
今のわたしのように………<ローズ>ではない姿ってことなのよね?
何だか 頭がこんがらがってきそうな気がするわ」
<ローズ>は、自分の着ている服の裾に触れて 小さく溜息をついた。
触ってみる限り 上質の絹が使われている。
ミリアムが身に纏っている物よりも、上等かもしれない。
そのことを考えると 何だか恐れ多くなってしまう。
結い上げられた髪の毛も、何だか自分のものではないような気がした。
この状態で 王宮のみんなに会っても 誰だかわかってもらえないだろう。
自分の今の姿を見たわけではないが 何だか落ち着かない。
「<声>は、記憶を失う前のわたしを知っているようだったわ?
それに 協力者もいるってことなのよね?
信用できるのかは、別にして………今は、わたしに出来る事をしないとッ!
うん………………………そうよ!!
わたしが、別人格をこの中で追い出さないと ずっとこのままなんだものッ!
ずっと眠ったままなんて、絶対に嫌だし そんなことになってしまえば ミリアム様達が悲しむものね?
きっと 現実の世界では、みんなが暗躍しているんだから…………少しでも役に立たないとッ!」
<ローズ>は、真剣な表情を浮かべて 再び 先の見えない道を見つめた。
すると 何か影のようなものが、視線の先を横行していく。
一瞬だった為、何かわからなかったものの この空間で目が覚めて、初めて見た自分以外の存在だ。
「待ってッ!」
<ローズ>は、迷うことなく その後を追いかけていった。
※~※~※~※~
「………………………様?
ミリアム様………………お目覚めですか?
体調が戻られていないのでしたら 今日の公務を休むようにと陛下が心配しておられましたが」
ミリアムは、聞き慣れた声に反応して ゆっくりと意識を浮上させた。
「今…………………夢の中で<ローズ>を見た気がしたわ?
何だか どこかの王族のような衣装を着て どこかを歩いていたの」
まだ寝ぼけているような発言に シャーリーは、眉根を細める。
「前から不思議だとは、思っていたけれど あの子………どこかの国の姫君なのかもしれない。
記憶は失ってしまっていても 身に纏う高貴な雰囲気は、消えるはずが無いもの。
あの子は、わたくしにないものを持っているのだから」
「何を言っているの?
ミリアムにも、素晴らしいものがあるじゃないッ!」
あまりにも弱気な発言に シャーリーの声が荒々しく響き渡る。
「そんな弱気にならないで頂戴?
私達が、駒になったのだって 貴女の人徳ゆえなんだから。
………失礼しました、ミリアム様。
夢見が悪かったようですし 今日は、お休み下さいませ」
シャーリーは、一息つくと そのまま寝室を後にした。
1人取り残されたミリアムは、唇を噛み締め そっと小さく膨らんできているお腹を撫でる。
「お願いよ………お願いだから、これ以上 わたくしの大切なものを奪わないで?
どうか みんなが、無事で過ごし 未来を迎えられますように………」
悲痛な声を発する王妃の声だけが、部屋の中に小さく嗚咽と共に聞こえてきた。
部屋を出たシャーリーは、それを耳にして 小さく溜息をつき、歩き出す。