疑惑4
王宮内は、衝撃を受けた。
王妃のお気に入りだった<ローズ>が襲われた事件に続き 王妃付きの侍女の1人が、何者かに連れ去られたという話が公になったのだ。
最初こそは、ミリアムもショックのあまり寝込んでしまっていたが 現在は、少しずつ回復してきているらしい。
けれど 人々の不安は、留まる事を知らないだろう。
特に 下働きの者達の中で 自分も狙われるのではないかと恐怖心に駆られてしまった者が出てきて 持ち場を放棄してしまっているのだから。
その中で一番 波風がキツイのは、やはり使用人達をまとめているルチアだった。
「本当に厄介な事になってしまいましたね?
まさか <ローズ>さんだけでなく………リーンさんまでも。
次は、シャーリーさんか………休業中のミイナさん辺りが狙われそうですね?
王妃様も、やっと御懐妊なさったのに 問題が出てきて、大変だ」
「アナスタシア………貴女 最近 シャルロッテの口の悪さが出てきたようですね?
あの子の場合は、そこまで酷く言いませんが」
ルチアの言葉に 赤毛を縦ロールにしている少女は、頬を膨らませた。
「だって 本当の事じゃないですか。
それに こうやって口に出していないと………不安になってくるんですよ。
普段は、リーンさんが緊張している空気をいっつも和やかにしてくれるのに」
哀しげな顔をしているアナスタシアに ルチアも、小さく溜息をつく。
「それは、どこの持ち場でも似たような感じですね?
特に シャーリーの落胆振りは、相当なものですから………。
慣れていない子達は、その変わり様に戸惑いを隠せていませんし。
ミイナがいてくれれば 少しは、マシになっていたかもしれませんけど………さすがに 妊婦を危険な場所に引き入れるわけにも行きませんからね?
王妃様の精神を追い詰める要素が増えるだけになってしまう」
「ったく………誰が、糸を引いているんでしょうね?
こんな卑劣な事を計画するだなんてッ!
見つけて、とっちめてやらないと 気がすまないですよ!!」
アナスタシアの発言に ルチアは、眉間に皺を寄せた。
「無謀な事には、首を突っ込まないように。
それでなくても ここ最近は、人の出入りが激しい。
しかも そんな中での事件です。
顔見知りでも 油断をすべきではないでしょう」
その言葉に 侍女は、目を大きく見開く。
「まさか………新参者ではなく 古株の中に………刺客がいるかもしれないってことですか?
確かに その可能性は、ないわけじゃないですけど………。
嫌ですよ………仕事仲間を疑わないといけないだなんて!!
確かに 様子がおかしい子が、いますけど………」
赤毛の侍女の発言に 侍女頭は、真面目な顔になった。
「誰です………それはッ!
事と次第によっては、報告しなければ………」
「<ローズ>さんと同時期くらいに王宮入りした下級貴族の子ですよ。
ほら………本来なら、王宮まで来れない筈なんですけど 先王の弟君による推薦もありましたし 容姿と教養に恵まれて 見習いになった……」
「ああ オリヴィアですね?
彼女の身元は、しっかりしているはずですよ?
礼儀正しいですし、マナーもしっかりしていますから ミリアム様や陛下の評価も高い子です。
ただ いつも俯いてばかりいるのが………玉に瑕なのですが………。
彼女のどこが、おかしいのでしょう?」
「彼女………何だか 何かに怯えているみたいなんですよね?
定期的に 外部からの手紙を受け取っているみたいなんですけど………日に日に、元気がなくなってきているみたいなんですよ。
元々、食が細かったんですけど 今回の事が明るみになってから………更にやつれてきて」
それを聞いて ルチアは、神妙な表情になる。
「確か 彼女が、王宮に上がって直ぐの頃………ミイナの代わりに入った毒見役が、1人 体調不良を訴えていましたね?
ナディア殿下の診察の結果 その者は、命に別状もなく 今も仕事を続けておりますし。
まぁ その食事は、万が一のことを考え 膳に運ばれる事はありませんでしたが」
「彼女が、食事の中に薬を紛れ込ませた可能性があるって事ですか?」
目を大きく見開いているアナスタシアの質問に 年老いた侍女は、頷く事も戸惑ってしまう。
「そうであっては欲しくありませんが 可能性はあります。
一応 彼女に話を聞く必要がありますね?」
けれど オリヴィアに話を聞く事は叶わなかった。
彼女は、その日 遺体となって発見されたのだから。