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硝子の薔薇  作者: クロネコ
      本章
32/41

疑惑3


 何か冷たいものが、顔に触れた気がして 女は目を覚ました。



急いで起き上がろうとするが  全身から激痛が走る。



呻き声を上げながら上半身だけでも起こすと  自分がどこか日の当たらない場所に横たわっていた事に気が付く。



そして 自分が覚醒するきっかけとなったのは、天井から滴ってきている水だ。



神経を集中させ 闇の中に目を利かせてみるが  見定める事が難しい。



おそらく 何らかの結界を張られているのだろう。



だとしたら 自分が、ここにいる事に  仲間が気が付く事も不可能に近い。



体の状態を確認してみるが 拘束はされていなかった。



逃げられないと確信を持たれているのかもしれないが  状況は悪いだろう。



「とにかく ここがどこなのかでもわからないと」



痛みを堪えながら 立ち上がる。



少しばかり眩暈がしたが 気のせいだと思い込む事に。



そうする事で 少しは、動ける範囲が広がるのだから。



「やっぱり 1人で突っ走ったのが悪かったのかしら?


絶対 戻ったら  あの人が、怒るでしょうね~?」



リーンは、乱れた髪の毛を直しながら 小さく溜息をつく。



衣服は、おそらくここに連れて来られた時に乱れたのだろう。



「あのシャルロッテに成り済ましている子の他に………王宮内には、危険因子がいる。


おそらく <ローズ>を襲ったのも そいつの仕業だわ?


こんな事になるんだったら………ミイナくらいには、相談すべきだったかしら?


だけど 時間も無かったし………」



リーンは、今更 自分の後先考えずに行動に移す性格を恨めしい。



子供の頃は、誰もが微笑ましく見守ってくれていたり 少しばかり厳しく説教してくれる人もいた。



けれど 今の自分は、もう成人しており  大切な主を守る楯でもあるのだ。



それなのに  その責務を怠り、このような無様な事態に陥ってしまうなど。



「ミリアム様には、心より謝らないと………。


だって あの方は、私達の事を本当の家族のように思ってくれているというのに」



リーンは、暗い天井を見上げる。



見渡す限り この部屋には、出入り口はない。



天井は、暗いが  少しだけ隙間から光が漏れており 自分は、そこからここに落とされたのだろう。



全身に激痛が走っているのも その為だ。



おそらく 身体能力が高いことを熟知されており  それを防ぐ為かもしれない。



確かに 痛みは忘れようと出来るかもしれないが  あれだけの高さは、いくらなんでも出る事は不可能なのだから。



「どうしたものかしら」



リーンは、絶望にも似た声で呟いた。

































※~※~※~※~


 「本当に バレないと思っていたの?


本気で呆れるわ」



イリアは、身重の妻の目の前に座って 肩を竦めていた。



その隣には、心配そうな顔をしているコルネオと彼を抱きかかえているシャーリーだ。



ミイナは、夫の前に仁王立ちになって 怒り顔。



「今は、妊娠している為に一線を引いているかもしれないけれど 私も、同じ立場だわ?!


それなのに 事もあろうにも………同じ任務に付く仲間が連れ去られたという話を夫の貴方ではなく 噂で知る事になるだなんて!!」



「誰だよ、話したのッ!


リーンの話は、陛下や王妃にも秘密なんだぞ?!」



イリアは、普段のおふざけな様子ではなく 少し焦っている。



「多分 それが、老師の作戦なんじゃない?


ミリアム様の性格を考えた上での」



妻の発言に 男は、目を大きく見開く。



シャーリーも、ハッとしたように 息を呑んだ。



「つまり ミリアム様が、自分が狙われた為に 私達が危険になれば 自分から王宮を飛び出すと思われているって事?


確かに 今は、その悪い癖が収まっているけど………」



シャーリーの言葉に ミイナは、難しい顔で頷いた。



「現に シャルロッテの時だって、似たような感じだった。


あの時は、標的がナディア殿下だったけど。


作戦を考えているのは、あの老師だとしたら ありえない話じゃないわ?


<ローズ>の襲撃だって 元々は、ミリアム様本人を狙っていたとしても 精神攻撃に切り替えただけだとしたら?」



「確かに 王妃は、相当 気に病んでいる。


自分と<ローズ>が間違えられたんじゃないかって。


だとしたら とんでもないじゃないか………」



イリアは、唾を飲み込んで 顔を蒼ざめた。



「陛下とミリアム様にリーンの事を話さないのは、今よりも厄介な展開になるだけね?


あまり ショックを与えないよう………真実を話すべきなんじゃない?


セレディー皇子とトッドには、リーンの事を話してあるんでしょう?


だったら お話すべきだと思うけど」



「だけど 今のミリアム様に話せば とんでもない事になるかもしれないわ?」



シャーリーは、哀しげな表情を浮かべる。



「今 話さなければ………もっと安静にしなければならない時に、後先考えずに飛び出すんじゃない?


今は、まだ 支えようと思えば 陛下が付いている。


けれど 隣国での戦争が更に悪化すれば………陛下は、軍を引き連れて 仲裁に入らなければならない。


もしも その時を狙って………ミリアム様の耳に今回の一件が入れば?」



それを聞いて 滅多に顔色を変えないイリアが、立ち上がって 今にも倒れそうな顔色になった。



シャーリーに至っては、小刻みに震えだして 膝に抱いているコルネオが、今にも落ちそうだ。



「ちょっと、待ってくれよ?!


まるで 王妃の懐妊を知っていたかのような展開ぶりじゃないかッ!


ナディア殿下が、その兆候を発表したのって つい最近の事だぞ?


だけど 今回の老師の計画は、どう考えたって 前々から決まっているような段取り………もしくは………………「逐一 その情報を流している内通者がいる」



イリアの発言を遮るように ミイナが断言する。



「あんまり その可能性を考えたくないけど………それしか考えられないわ?


<ローズ>の一件からは、王宮内の者を洗い直しているそうだけど 古くから務めている者の近況も調べるべきなんじゃない?


隣国にも、この国の内の者に対する甘さが知れ渡っている。


もしかしたら それを逆手に取られているのかもしれない」



「こりゃ………王妃に今のうちに話さざる得ないじゃないか。


しかも 内通者の一件もあるし………慎重に進まないと」



頭を抱えている夫の尻目に ミイナは、未だに凍り付いている同僚に目を向けた。



「………という事だから ミリアム様の心のケアーをお願い。


リーンが連れ去られたっていう事からして 貴女が老師と繋がっている可能性はない。


仲間が裏切っているだなんて あんまり考えたくない事だけど………私達は、何の為に存在しているのかをよく思い出しなさい?


旗から見れば 残酷な立場にいるかもしれないけど………今の私達の幸せがあるのは、陛下とミリアム様の恩恵があるからこそ」



「わかっているわよ、ミイナ。


非情にならなければならないって事ぐらい………承知している。


今のここでの話 宰相には、通しておくべきよね?」



「そうね………もしも 宰相が裏切り者なのなら………愛する妻を浚わしたりしない。


もっと 人害と称すべきやり方で ターゲットを地獄の底に突き落とすやり方をするはずだわ?」



2人の会話を聞いて イリアは、小さく溜息をついてしまう。



「いくらなんでも………宰相をそう言いますか?


あの人だって、人の子だっていうのに………」



コルネオは、大人の会話を意味も無く 首を傾げて見つめている。



 

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