予想
「陛下………<ローズ>を襲った刺客ですが おそらく 以前 王妃を狙った一派で間違いないです」
イリアは、真剣な表情を浮かべて 言った。
「<影>を使って 探りを入れてみたところ 連中も、ちょっと焦っているようですね?
まさか <ローズ>が、意識不明のままで眠り続けているだなんて 思いもしなかったようですから」
ニヤリと笑う第二騎士に 第一騎士兼宰相代理のコーネリアは、眉根を寄せる。
「そんな顔をしないで下さいよ。
連中は、刺客を使い<ローズ>を襲い 彼女を自分の思い通りの人形にするつもりだったのかもしれないわけ」
イリアの報告に ユゥリィは、”どういう事だ?”と、訝しげな顔に。
この場には、王と宰相代理と騎士しかいない。
王妃は、体調が著しくなく 自室で療養中。
宰相は、<ローズ>の部屋の前で警備中らしい。
「つまり 連中は、王妃や皇子に一番近づけるであろう <ローズ>を駒に入れようとしたという事です。
王妃のお気に入りと皇子の世話役が、同一人物なんですから 奴等に取っちゃ 仕事遂行に役立つと思ったんじゃないんですかね?」
「人形………って、まさか 意識を支配して 暗殺を実行させる為に?
じゃあ ミリアム様とセレディー皇子のどちらも、狙われたって事ですね?
また 警戒態勢を強化しないと………。
以前の事もあるんですから」
コーネリアは、溜息をつきながら 呟く。
「また 連中が、動き始めたとなると………タイミングが悪いな?
隣国の動きが、怪しい時に………」
ユゥリィの言葉に イリアも、心なしか複雑そうな顔になった。
「本当に申し訳ないです。
ミイナが、身重な状態じゃなかったら………王妃に護衛が、完璧だっていうのに」
「いや お前が、悪いわけじゃない……………「いえ イリアが悪い」
王の言葉を遮って コーネリアが、厳しい口調で言い放つ。
「ミイナは、最初 全くイリアを相手にしていなかったのに………あんなにしつこく言い寄ったりしてッ!
異性に対する免疫が、皆無だったミイナに取ったら アンタは、危険人物だってっていうのに!!
ミリアム様の計らいもあって 結婚は、認められたけれど 一番重要な時に お傍で護衛できなくしてしまうだなんてッ!」
「リア………お前が、ミリアムの事を大切に思ってくれている事は 嬉しいが 別に、イリアを責めているわけじゃない。
確かに ミイナ達は、王族を守る為だけに育てられた。
だが その人生までも 縛り付ける権利は、我々にないんだ。
それに 宰相だって リーンと結婚しているじゃないか。
しかも………ちゃんと後継ぎまでいるんだからな?
シャーリーだって 最近、相手が見つかったらしいぞ?
人の人生は、誰かに決められたわけじゃない」
ニッコリと微笑む様子に コーネリアは、押し黙ってしまう。
顔では、笑っているが この王には、それに反論させない力をちゃんと持っているのだから。
「とにかく 今のところは、連中も下手な動きをしないでしょう。
<ローズ>が目を覚ますまでは………何もかもが、予想できずにいるんですからね?
これだけは、ご覚悟願いたい。
もしも 意識を取り戻した時………<ローズ>の意識が、連中に支配されていた場合 俺達は、彼女を斬ります」
いつになく真剣な口調の男に 女騎士も、唇を噛み締め 頷いている。
2人の反応に ユゥリィは、苦渋な顔で ”好きにしろ”と、答えるしか出来なかった。
※~※~※~※~
「何だか………厄介な事になってやしない?
鉄砲玉を追いかけてきたら こんな事になっているだなんて」
フードを被った女は、深く溜息をついた。
「いや 好都合だ。
標的が、こんな場所に足止めを食らっているんだから。
しばらくは、潜入しておこう。
何か起こる前に 全てを済ませるぞ?」
同じく闇色のフードを被っている男は、答える。
「だけど………警戒態勢は、強化されるみたいだし。
ちょっと 危なくない?
あいつの話じゃ………どこからともなく 噂が流れ始めているらしいけど?
本当に上手くいくのかしら?」
「何だ………弱音を吐くのか?
お前らしくないじゃない。
あの人に似て………何を考えているのか 全くわからない時があるのに」
男の発言に 女は、鼻を鳴らし そっぽ向いてしまう。
「あら………それは、貴方も同じ事なんじゃない?
他のみんなだって 何かしら 似通っている部分もあるんだから」
「おいおい………拗ねるな。
お前の心配している事なら問題ない。
俺達には、コレがあるんだからな?」
男は、そう言って マントの中から水晶玉を取り出した。
「これが ある限り 王宮のみんなには、悟られる事がない。
勿論 正体も、バレないはずだ。
この王宮内には、これを俺達に託したあの人達に敵う人物が まだいないのだからな?」
男は、ニヤリと笑う。
その表情は、月明かりが逆光になっていた為 わからなかった。
「けど………目をつけられる可能性もあるんじゃない?
警備体制が、強化された事で 少しでも怪しい素振りを見せれば 命取りになる可能性もあるし」
「まぁ 事と次第によっては、あの人に協力を仰ぐ事も考えているけど。
さっき あいつの定時報告によれば 今のところ 変な風に話が進んでいるわけじゃないらしい」
「なら いいんだけど?
あの間接的に協力者になってくれた子の話じゃ………脅迫文も内容を増してきたそうだから 行動を起こすのも、早めにした方がいいのかもしれない」