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硝子の薔薇  作者: クロネコ
      本章
21/41

戸惑い2

 王宮内は、今までにないくらいに警備が強化されていた。



1人で敷地を歩く事は、固く禁じられ  特に王妃付きの侍女とセレディー皇子を含めたお供も 護衛がつけられているのだから。



それは、調査を続けているにも関わらず  <ローズ>が襲われた動機が、わかっていない為。



襲撃が発覚してから 1週間が経とうとしている。



けれど 犯人は、未だに捕まっていない。



襲った人物を見た可能性のある<ローズ>は、意識が戻ることなく その警備も厳重にされていた。



見舞い客は、部屋に入る前にどの身分であろうが 持ち物検査を受ける事が義務付けられている。



それを行うのは、恐れ多くも 宰相閣下。



彼には、隠された物を見抜く能力があるので  その任務を行う事に。



その為 本来の宰相の仕事は、代理として 妹のコーネリアが請け負っているらしい。



「宰相………<ローズ>の見舞いに参ったのだが」



どこかか細い声に 宰相は、無言で向き直った。



視線の下には、黒に金を縁取ったマントを纏っているセレディー皇子が トッドと護衛を引き連れて立っている。



その姿を確認して 宰相は、少しだけ目を細める。



皇子が見舞いに訪れたのは、最初に運び込まれた時に駆け込んできただけだったのだから。



<ローズ>が襲われる直前まで セレディーとトッドがいた事は、報告を受けていた。



中には、彼女の事を可愛がっていた者達が 皇子とこの騎士に対する不満が募っているらしい。



宰相自身  王妃が、倒れている<ローズ>を発見した時 妻と息子も居合わせたという話を聞いているので  心が穏やかではないのだから。



「そうですか………ぶしつけですが 持ち物をご確認させて頂きます」



宰相は、そう言って頭を軽く下げると  眼鏡を取る。



すると  瞳の色が、虹色に変わり  すぐに眼鏡を掛け直す。



「結構です、お入りになって下さい」



その言葉を受けて セレディーは、ゆっくりと中に入っていく。



「トッド………貴様は、入らないのか?」



宰相の言葉を受けて 銀髪の男は、肩を竦めた。



「野暮な事は、したくないんだ。


それに <ローズ>殿が襲われたと聞いて  一番ショックを受けていたのは、皇子でもあるから」



「なら………<ローズ>の手の甲にあるという紋章は、まさか セレディー皇子のものか?


ナディア殿下の話では、問題ないと話しておられたが」



その問いかけに トッドは、頷く。



「皇子は、この滞在中で 本当に変わられたと思う。


確かに 覚悟は、決めていたかもしれないが それを本当に実行する為に  行動を起こし始めたのだから。


今までは、まだ迷いがあられたが………もう それが、微塵もない」



「あれだけの決断力を持っておられながら  王位継承権を放棄するということか。


そりゃ 覚悟がいるだろう。


だが………それは、いい傾向と言ってもいいだろうな?」



宰相は、苦笑しながら 閉じられた扉を見つめた。



「<ローズ>殿は、本当に この王宮で重宝されているようだ。


前に ナディア姫に 口説いていると凄い剣幕で勘違いされた事もあったのだから」



トッドの呟きに 宰相は、”だろうな?”と、微かに笑う。



「<ローズ>は、あいつに似ているという事もあって  陛下は、王妃様に彼女の事を話した。


その結果  侍女として召し上げられたんだ。


最初こそ 怪しいという目も多かったが………今では、いて当たり前の存在になっているのだからな?」


部屋の中からは、何かを押し殺したようなくぐもった声が聞こえてくる。

































※~※~※~※~


 セレディーは、石のように眠り続けている<ローズ>を見つめていた。



フラフラとした足取りで 近くへとよっていく。



落ちている手の甲には、自分が施した紋章が光っている。



「返事もせぬまま………旅立ってくれるな?


そうなれば 僕は、どうすればいいのかわからないのだから」



皇子は、悲しげな表情を浮かべて 眠ったままのローズの顔を指で触れた。



その動きは、微かに戸惑っている。



触れてしまえば 消えてしまうのではないか  という恐怖があるように………。



微かに触れる皮膚は、微かに熱を持っているので  生きている事は、わかった。



けれど 今の脳裏浮かんでくるのは、悲鳴で駆けつけた時に見た  王妃は、侍女達に取り押さえられていたものの パニックに。



そして 地面に仰向けに倒れていたのは、<ローズ>。



服は、真っ赤に染まっており  背中には、剣で切り裂かれた痕が………。



急いで 抱き起こした時の血の気の失せた顔。



一緒に駆けつけてきたナディアは、悲鳴を上げて泣き叫んでいた王妃を押し退け  すぐに彼女の元へと駆け寄った。



そして すぐに止血の術を施され  この部屋へ………。



後で 王直々に話を聞いたところ  刺客は、捕まっておらず 動機も未だに定かではない。



「まさか  あの後直ぐに襲われただなんて………ッ!


離れるべきじゃなかったんだ………なのに………………なのに!


僕は………………僕は………!!」



言葉は、最後まで紡がれなかった。



大粒の涙が、どんどん溢れてきて 話せる状況じゃなくなってしまったのだから。


 

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