戸惑い1
王の間には、王と王妹殿下のみが その場にいた。
他の臣下達には、違う調査に専念してもらっている。
「ナディア………<ローズ>は、まだ意識が戻らないのか?」
ユゥリィ王は、悲しげな表情で 妹に問い掛けた。
「傷は、出血の割に 深くなかった。
傷痕も 残らずに復元したのだけれど 意識の糸だけが、どこか遠く過ぎるみたいで 見つけられないのよ。
もしかしたら 襲い掛かったのと同時に 意識を封じ込める呪いを施したのかもしれない」
その言葉に 王座に座る王の顔が、険しくなる。
「<ローズ>を襲った刺客は、一体何者なのか………?
王宮内には、俺と宰相が 定期的に結界を張り直しているはずだ。
なのに そんな中に 刺客が往来するなど………」
「<ローズ>が襲われた場所は、中庭の温室。
あそこは、子供の頃から 私達の隠れ家だった事を覚えているでしょう?
つまり 刺客自身も あの場に見を潜んでいたという事になるの。
ネオが、血の臭いがすると駆けつけたところ 刺客と鉢合わせたそうよ。
シャーリーとリーンの話だと 途中まで追ったそうなのだけど 深入りは、危険だと判断したらしいわ?」
「成る程………その刺客は、この王宮の造りに詳しいという事か。
今も王宮内に <ローズ>を襲った刺客が居着いている可能性もあるな?
早急に 身辺の洗い直しをさせよう」
「その意見には、私も賛成だわ?
今回の事だけでなくても セレディー皇子の滞在で 何かと人員を割いている。
<ローズ>が襲われた原因は、王妃のお気に入りの侍女である事と皇子の世話役という動機を踏まえるべきだと思う。
あの時刻は、ちょうど 王妃が通例散歩をしている頃だった。
そして その直前まで セレディー皇子が、一緒にいたそうなんだから。
シャーリー達には、護衛の強化を申し入れたし………トッドにも、無用心に城の中を歩き回らないように言っておいたのよ」
「珍しいな?
てっきり………トッドも容疑者の中に入っていると思っていたんだが」
ユゥリィの発言に ナディアは、嫌そうな顔になった。
「実は、私………<ローズ>が襲われていたという時刻 セレディー皇子とお供のトッドと出くわしていたのよ。
皇子ってば すっごく顔を真っ赤にさせていて………頭を抱えていたの。
トッドは、それを宥めていたみたいでね?
なぜか 私まで一緒に慰める羽目になったのよ。
だけど すぐに………王妃の悲鳴が、王宮中に響き渡ったから 詳しい事は、聞けなかったんだけどね?」
「ミリアムは、血塗れになって倒れていた<ローズ>の目の当たりにして………相当ショックを受けている。
今朝も 体の不調を訴えていたらしいが………」
「そうね、時期が悪いわ?
後………真名の所持について 話し合わなければならないと思うのだけど?」
含み笑いをして立ち去っていく妹に ユゥリィは、意味がわからなかった。
※~※~※~※~
「ミリアム様………そろそろ、お部屋に戻りましょう?
このままでは、お体が休まりません」
リーンは、心配そうに 声を掛けた。
侍女の言葉に 王妃は、悲しげな表情を浮かべている。
その視線の先には、ベットの上に横たわっている<ローズ>が………。
「ミリアム様………<ローズ>は、大丈夫ですわ?
ナディア殿下も、おっしゃられていたではありませんか」
シャーリーは、ニッコリと微笑んで ミリアムの手を自分の手で覆った。
「けれど <ローズ>は、目を覚ましてくれないわ?
わたくし………怖いのよッ!
お母様も、眠ったまま 亡くなられてしまったから………。
もしも <ローズ>まで………と考えてしまったら」
王妃の顔は、涙でグチャグチャになってしまっている。
そんなミリアム妃の様子に 侍女2人は、戸惑いを隠せない。
「ミリアム様?
<ローズ>の事が心配なのは、十分承知しております。
ですが ご自分の御身にも気遣って頂かなければなりません」
その言葉に振り返ってみると ルチアが、仁王立ちになっていた。
「お母君が、生きておられれば 同じ事を申されるはずですッ!」
あまりに激しい剣幕だったので ミリアムは、侍女2人に手を引かれ そのまま部屋を後にする。