秘密6
ナディア王妹殿下の出現に トッドは、明らかに動揺している様子が見て取れた。
殿下自身も どこか感情的になっている。
「<ローズ>を泣かせるだなんて 相変わらず 最低な男ッ!
セレミア様とソフィリア様のお話から 少しは、マシになったと思っていたのに!!」
<ローズ>は、突然の事に涙が吹っ飛んで 急いで、今にも飛び掛らんとしているナディアの腕を全力を掛けて止めに入った。
「ナディア様………誤解ですッ!
別に トッド様に泣かされていたわけじゃありませんって!!
以前も 迷っていた時に 宰相閣下に案内されて 怖い話をされて驚いていたところに 苛められている ってシャーリーさんに誤解されてしまった事もあるんですから………」
「宰相の場合は、誰が相手でも 苛めているようにしか見えませんッ!
けれど この男………トッドの場合は、用がない場合しか 他人と会話する事もない。
なのに さっき私が見た状況では、貴女がトッドに迫られて 泣いているようにしか見えなかったわ?」
その指摘に <ローズ>は、困ってしまう。
確かに 腕を掴まれていた状態が続いていたのだから。
トッドの方に視線を向けてみるが 不自然に目を逸らされてしまった。
「本当に 何もされていない?!
いつも検診時間ピッタリに来るのに………<ローズ>ってば、いくら待っても来なかったでしょう?
だから セレディー皇子に厄介ごとを頼まれているんじゃないかと迎えに来たのよ」
ナディア殿下は、そう言って 厳しい視線を銀髪の騎士に向ける。
視線を感じているようだが トッドは、絶対に振り返ろうとしない。
そして、そっぽ向いたまま ”殿下の元に戻ります”と、短く言うと 部屋の中に入っていってしまう。
男がいなくなったのを確認して ナディアは、再び<ローズ>の顔を覗き込んできた。
「<ローズ>………さっきは、脅されていただけなのでしょう?
当の本人は、消えたわ?
さぁ………何があったのか 話して?」
あまりに緊迫している様子なので <ローズ>は、固まってしまう。
その反応をどう取ったのか 殿下は、さらに険しい表情に。
観念して <ローズ>は、口を開いた。
「セレディー皇子が、お父上の命綱を守ったおられる為 お命を狙う輩がいると。
その中には、皇子が最も慕っていた乳母兄弟もいらっしゃったと伺いました。
実の兄のように慕っていたそうなのに 処刑されてしまったと。
トッド様は、同情する予知はないとおっしゃられたのですが わたしは、悲しくて………。
そうしている時に ナディア様が、いらっしゃったのです」
「ああ そういえば 前は、一緒に来ていた兄弟が 一緒に来なくなったわね?
そう………処刑されたの。
母が、皇子を守って死んだからといって 逆恨みするなんて………馬鹿ね?」
どこか 感情のない発言に <ローズ>は、息を呑んだ。
その反応に気が付いたのか ナディアは、哀しそうに笑った。
「これは、王族に生まれた宿命よ。
誰かが犠牲になって 生き残る。
私と兄上も そうやって 今まで生き残ったわ?
今の私は、王位継承権を返上したから 名前だけ殿下だけど………それまでは、色々な刺客を送り込まれたし。
信じていた人が 実は、刺客だったこともあったし 大切な人が、犠牲になったこともあった」
遠くを見つめて呟く様子に <ローズ>は、不思議そうに 首を傾げる。
「宰相とコーネリアの母も 私と兄上の乳母だったの。
けれど 私達を狙った刺客と相打ちになって 亡くなられたわ?
後で聞いた話 元は、母の護衛を務めていた侍女だったらしいんだけどね?
2人は、私達を恨むことなく 今じゃ 国の為に忠誠を誓ってくれている。
私怨で 守るべき主を、害しようとするなんて 以ての外なのよ」
そう語るナディアは、ちゃんと王族としての覚悟を決めているように思えた。