秘密4
「ところで セレディー皇子は、なぜ 自分の父王の真名を持っている?
普通ならば 現・王妃のソフィリアが、守るべきだ」
ユゥリィの質問に 宰相も、首を捻った。
「あまり例が無いのですが もしかしたら 皇子をお産みになられた時に 真名も一緒に皇子に授けられた可能性があるそうです」
「例が無いのに なぜ、そうだと断言できる?」
兄の発言に コーネリアは、美しい顔を歪める。
「前・王妃が亡くなられて間もない頃 他国からの攻撃を受け 王が瀕死の重傷を負った話は、お前も知っているだろう?
もしも 真名を授かっていた人物が、死亡した場合 通常ならば 真名は、王の元に戻ってくるものだ。
だが 王は、奇跡的に回復を果たした。
つまり 何者かが、王の真名を守っていたということになる。
今の王妃は、その頃 まだ側室の位のままだったし その戦争も、前・王妃の死を待っていたかのような襲撃だった為 真名を誰が守っているのかを確認する暇も無かったと聞く」
宰相は、そう言って 溜息をついた。
「つまり 一番可能性が高いのが、真名を所持していた母の胎内から生れ落ちた息子に 受け継がれたってことだな?
真名の形は、人それぞれだけど 体の一部として当たり前の見た目ならば 乳母でも気が付かなかっただろう。
でなければ こんな面倒な事になっているはずがない。
おそらく 前・王妃の死は、真名を巡る争いに巻き込まれたと結論付いて間違いないはずだ」
ユゥリィの説明に 臣下達は、息を呑む。
「もしも その事が公になれば 皇子の周り、相当騒がしくなるのでは?
当の本人は、自覚を持っているのでしょうか?」
コーネリアは、真剣な顔になって 言う。
「どうだろうな?
もしも わかっているんなら あの皇子は、王妃と正反対の部類になるぞ?
まぁ………根本的には、似ているかもしれないけど」
イリアは、どこか呆れたように 腕を組んだ。
「じゃあ 何か?
あの皇子の問題行動は、自分の近くにいれば 死が待っているってことを気付かせようと?
確かに 前・王妃が亡くなる前後して 皇子の暗殺も未遂で何度も起こっていたと聞いたが」
宰相は、どこで仕入れてきたのか 様々な情報を提示する。
そこには、皇子の唯一の騎士となっているトッドが忠誠を誓うそれまでに遭遇したという 殺人未遂の事細かな内容が収められていた。
中には、一緒に育ったはずの乳母兄弟までもが セレディー皇子の命を狙う刺客となっていたという事実まであったのだから 気分が悪い。
「この乳母兄弟ですが 皇子より5つほど年上でしてね?
母親………つまりセレディー皇子の乳母は、彼を庇って 刺客に殺害されています」
宰相の補足に 皆は、溜息をつく。
「母親を殺された恨みを、守るべき相手に向けるだなんて………ッ!
私達も、そのような事考えたこと無いというのに。
母が死んだ事は、確かに哀しかったけれど 大切な方をお守りして殉死したのは、誇りに思うのって 私達だけなの?」
コーネリアは、唇を噛み締めながら 呟く。
その声は、微かに震えている。
妹の気丈な様子に 宰相は、ゆっくり近寄って 肩を優しく叩いた。
そんな兄妹の様子を見守って ユゥリィは、申し訳なさそうな顔をしている。
「ああ そういえば?
宰相閣下とリアの母君は、陛下の乳母だったんでしたっけ?」
イリアは、ソッと王座に近寄って 小声で言った。
「ああ その縁があって 2人とは、幼い頃からの幼馴染なんだ。
父親は、父の第一騎士で 母親は、平民だったが 何世代か前に没落した貴族令嬢だったらしい。
礼儀作法も、申し分なかったから 俺の乳母に抜擢された。
ルチアとは、同じ頃に王宮に上がってきた仲で 親友だったと聞く。
だが 俺を狙って、王宮に忍び込んできた刺客と相打ちになって 3日ほど意識を何度か取り戻したんだが そのまま亡くなった。
相手の刺客は、即死だったらしいんだが 毒使いだったらしくて………な?
2人の母のサーシャは、ミイナ達の先代の護衛だった」
ユゥリィは、低い声で 幼馴染の2人を見つめる。
※~※~※~※~
「けど 何だか納得いかないんですよね?
何で 真名を王妃に預けることが、しきたりになっているんです?
普通の一般家庭じゃ 滅多なことが無い限り、そんな厄介な儀式しませんよ?」
イリアは、不思議そうな表情を浮かべて 首を捻った。
「あまり 口に出すことじゃない。
真名を王妃に預けるというのは、古き時代の王族の聖なる儀式の1つだ。
戦争が起これば 女子供は、王宮の祈りの間にて 預かった真名に自らの祈りの力を注ぎ 勝利することを願い続ける。
遥か昔 この国を建国した騎士を想い ずっと願い続けていた皇女の願いが、神々に届けられ 勝利を得たように………。
俺も 最初は、そんなのただの迷信だと思っていたが あいつの起こした奇跡は、イリア………お前も自分の目で見たはずだ」
「確かに そうでしたね?
あんまり平和が続くもんですから 忘れてましたよ。
けど また 戦いが起こりそうですけどね?」