秘密2
「侍女達の噂話によりますと <ローズ>は、セレディー皇子やトッド様とではなく そのお付きのお嬢様方と一緒に行動を共にしているそうです」
シャーリーは、コップに紅茶を飲みながら 報告した。
「あら <ローズ>は、皇子の世話役なのではなかったの?」
キョトンとしたのは、王妃のミリアム。
「ええ そのはずなんですがね?
何気なく、<ローズ>に聞いてみたんですけど ただ笑うだけなんです」
リーンは、心配そうに 首を傾げている。
「<ローズ>は、仕事熱心な子だから 何か考えがあると思うわ?
それで 皇子の様子は、どうなの?
被害は、出ていない?」
ミリアムの質問に 侍女達は、一斉に首を振った。
「ありませんわ ミリアム様。
逆に 意外な解答ばかりで………」
そう言ったのは、シャーリー。
「ですね?
驚いたことに うちの息子にも 優しいそうです。
この前 ミイナのお見舞いに行ってきましたら 可愛らしいお客がいらしていたと窺いました。
でも 誰が来たのかは、秘密なのだそうで」
リーンは、不思議そうに呟く。
「なぁ~に?
ミイナは、何かを知っているってことなの?
今度、イリアに聞いてもらいましょうか。
彼の粒良な瞳で見つめられたら 口の堅いミイナも、滑らせるかもしれないもの。
普段は、口下手で話さない子なのに イリアの事になると本当に色々と教えてくれるから。
この前の盗賊の一件も ミイナの式神で発覚したことだものね?」
王妃の暴走的な発言に 誰も止められる人物は、この場にいない。
ユゥリィ王と騎士2人と宰相や侍女頭は、他の仕事がある為 今日のお茶会には、参加していないのだから。
陛下方は、何でも新たに不穏な動きを察知したらしく その話し合い。
ルチアは、新しく入ってきた侍女の教育中らしい。
そして今日のお茶会のホステス役は、恐れ多くも ミリアム王妃だった。
一国の君主の奥方に このような仕事をさせるという事は、無礼極まりないはず。
けれど 当の本人が、やると決めてしまったことなので 止める事の出来ない。
その上 彼女の入れる紅茶は、とても美味。
さすがのルチアも これには、舌を巻いて 賞賛してくれるばかりなのだから。
何でも 王宮をコッソリ抜け出した時に 財布を落としてしまい そのまま下町の喫茶店で住み込みで数日働いたらしい。
その時の経験のお陰で それまでは、匂いを嗅ぐだけでもとんでもない事になっていたミリアムの入れた紅茶は、素晴らしい出来になったとか。
勿論 コッソリ王宮を護衛もなしで1人で抜け出した咎で ルチアには、数時間の説教を受け 王命で侍女に扮した武術に長けた女性を紛れ込ませる事を約束させられてしまったそうだ。
そして その武術に長けた侍女というのが、今もこのお茶会に参加している シャーリーとリーンに出産を控えたミイナだったりする。
彼女達が、そういった経緯で侍女になったという事実を知るのは、それを命じた王と直属の臣下。
そして 偶然知ったとはいえ 守られる側の王妃のみ。
実は、ある事情から ユゥリィ王よりも 王妃ミリアムの命が狙われることが、ごく当たり前となっていた。
侍女頭であるルチアには、武術に長けている下級貴族の娘 と説明してあるが 事実は、伏せられている。
信用していないというわけではなく 真実を知り 困惑を防ぐ為。
万が一の場合 彼女達は、他の侍女の命よりも 王妃だけの盾になる覚悟が必要不可欠なのだから。
普段は、侍女頭の命に従っているものの 彼女の犠牲にしなければならない可能性が高い。
普段は、オットリしており 虫も殺さぬような性格だが 彼女達が、侍女として上がってから 不審な死を遂げた下働きの者も年々増えていた。
その中には、年端もいかない子供もおり 外見に似合わず 残酷な面も併せ持つ。
毒を仕込まれる事は、日常茶飯事となっており 毒を察知しやすい能力を持つミイナが、これまで 毒見する事となっていた。
けれど 現在は、妊娠休暇中の為 危険度が増すが リーンとシャーリーが、交代で事前に毒見を行っている。
そして 王妃が、自分を守ってくれる人物が誰なのか知った事件によって 彼女に取り巻く侍女は、一気に減ってしまう。
驚いたことに ほとんど全員が、刺客だということが判明したのだから。
この時ばかりは、あのルチアも驚きを隠せず 高熱で寝込んでしまった。
自分が、懸命に教育した侍女の中に 敵の送り込んできた暗殺者がいたという真実に耐えがたかったのだろう。
「けれど つまらないわ?
今日は、陛下達も 宰相達もこないんですもの。
しかも <ローズ>は、セレディー皇子と一緒だし………。
ハプニングが、起これば 楽しいのに」
さすがの爆弾発言に 侍女2人の声が、その場一体に響き渡った。