秘密1
セレディー皇子が王宮にやってきてから 1週間が過ぎた。
けれど 今のところは、今までのように苦情が殺到することはない。
ただ 皇子は、今までならば見下してきた態度が改められ 逆に賞賛される と城の使用人達の間で噂が飛び交う。
理由は、不明だが それは、<ローズ>が世話役になった事と関係があるはず。
なので この数日間 彼女は、歩き回るたびに その理由を問いただされることが多くなっていた。
おそらく ミリアム様のお部屋に向かえば もっと追及が激しくなるはず。
何たって あそこには、最強な方々が 勢揃いしているのだから。
「一体 どんな魔法を使ったの?」
そう遭うなり首根っこを掴んで言ったのは、一番年が近い侍女仲間のシャルロッテ。
彼女は、黙ってさえいれば すっごく美人さん。
けれど 実は、田舎貴族の出身で <ローズ>が王宮に召し上げられる前後に奉公する為に入宮してきたらしい。
「あの悪戯皇子が、お茶を運んでいったら ちゃんとお礼を言ったのよ?!
もしかして 嵐の前触れなんじゃ………」
本気で心配しているシャルロッテに <ローズ>は、何て答えたらいいのかわからない様子。
だって その傍らには、懸命に笑うのを堪えている金髪の姫君とお付で黒髪の美人侍女がいるのだから。
「だけど 今 皇子様のお世話をしなくてもいいの?
この方々 どこの誰なのかは、知らないけど………」
「セレディー皇子様の癇癪が激しいので 今の間は、私達が<ローズ>さんと案内して頂いているの。
私達 皇子と一緒に小間使いで同行したのだけれど………。
あまりに身分が低いから 名乗る事さえも、無作法でしょう?」
皇子様は、この1週間で この遊びを相当楽しんでいると見える。
今では、もうその姿になるのを待ち望んで 役になりきっているのだから。
隣で度肝を抜かされているトッドさんと違って 話しかけられれば 堂々と答えてみせた。
まぁ まだ声変わりしていない男の子の特権かもしれないけれど。
シャルロッテは、まだ声変わりのしていない甘ったるい声に メロメロ。
最近気が付いたけれど この王宮にいる人達は、透き通る声に弱い。
「まぁ そうだったの。
心から同情するわ?
面と向かっては、あの皇子に言いたい事も言えないんですものね?
絶対 祖国の王様と王妃様も、相当気に病んじゃっているんじゃなくて?
実のところ 元・王妃様の嫡子ってこともあって 扱われているけどね?
大臣達の提案では、皇子としての身分を剥奪させて 第二皇子のガルディー様を皇太子に推そうとする動きがあるそうよ?
今は、王妃様だけれど 側室という立場の時に生まれたでしょう?
でも あっちの皇子様の方が、とっても性格が宜しいらしいから………」
ちょっと、言い過ぎな気がして 止めようとしたら セレディー皇子は、ニッコリと笑みを浮かべている。
「本当に その通りです。
でも ですから この国で羽を伸ばすようにと数度にわたって、滞在することになったんですよ。
あまり御自分が、王宮にいましたら 話し合いが進まないでしょうからと」
「あら てっきり、王様がユゥリィ陛下に泣きついたんだとばかり思っていたわ?
まさか 皇子自ら 滞在することを望んでいるだなんて。
あんなに色々と悪戯ばかりしているから 早く追い返されたいと思っているとみんなで話してたのに。
もう………私、そっちに賭けてたのに」
………そんな話題で賭け事をしていたのですか………
<ローズ>は、呆気に取られ 肩を竦めるしかない。
シャルロッテは、そんな同僚の様子に 不思議そうな顔をしていたが 背後から名前を呼ばれたので 駆け出していく。
何でも 仕事の途中だったとか。
盛大み何かが破壊される騒音を轟かせて 破壊魔:シャルロッテは、いざ仕事場へ。
※~※~※~※~
「セレミア様(セレディーの偽名)………あまりにも自然すぎて 驚きました。
もしかして 泣いてしまうのではないかと」
<ローズ>は、真剣な表情を浮かべて 息をついた。
その言葉に 姫君は、目をパチクリ。
トッドは、無言でドレスの裾にあるレースを眺めているだけ。
「まさか 何を言われているのかも わかっていなかったわけじゃありませんよね?
貴方は、お馬鹿なことをしているかもしれませんが わたしが見た所 それは、逆でしょう?
まさか 天才を通り越して 当たり前のことがわからなくなってしまった………?」
「ああ………さっき侍女が話していたことについてか?
まさに 本当のことだがな?
僕も さっさとそうして欲しいくらいなんだけど」
その発言に <ローズ>は、呆気に取られてしまう。
「ガルディーは、本当にいい奴だ。
あいつなら いい王様になれると思う。
悪い噂は、全部 僕が引き寄せていれば あいつを悪く罵る連中は、いない。
亡くなったとは、いえ 僕は、王妃の嫡子。
あいつは、今こそみんなに慕われているけど 母上が亡くなる前は、側室の嫡子として 陰湿な嫌がらせを受け続けていたんだ。
これは、定かではないが この国を貶めようとしていた連中の姑息な手段の余波だったらしい。
我が母上もそうだが ガルディーの母もミリアム王妃の友人だったのだから」
<ローズ>は、目を見開いて 息を呑む。
「色々と悪く言う連中は、ガルディーの母が母上を殺したのではないかと言い出すものもたくさんいる。
確かに 母上の死には、何かと不審な点があるらしいからな?
だが 王妃は、母上を殺していない。
彼女には、そんな残酷なことが出来ないはずだから。
ガルディーは、彼女にソックリだからな?」
そうキッパリと断言できる姿は、ちょっとカッコイイと思う<ローズ>。