謁見
「本日は、挨拶が遅れましたこと 申し訳ありませんでした。
世話役の<ローズ>殿と話が弾みまして 時間が過ぎてしまったことを忘れてしまったのです。
どうか 彼女を叱らないで下さい」
皇子セレディーの発言に 一同は、呆気に取られてしまっていた。
隣に立っている<ローズ>は、皆の視線を浴びて ニッコリ微笑むだけ。
トッドは、一歩後ろに控えており 王と王妃や彼等の臣下と目を合わせないようにしているらしい。
「では <ローズ>を気に入ったととってもよろしいのかしら?」
ミリアムは、扇を口元に当てて 発言する。
おそらく その後ろ側では、ワクワクして堪らないのだろう。
「ええ とてもユニークなお嬢さんだと思います。
いつまで滞在できるかは、定かではありませんが 楽しめるでしょう」
楽しめるという言葉に 宰相を含めた何人かが、笑顔を引き攣らせた。
もしかしたら とんでもない事になるかもしれない と、考えているのかも。
「セレディー皇子………君の父君からは、2・3ヶ月ほどゆっくりするようにと先ほど文が届きました。
我々も それを受け入れようと思う。
この王宮では、しきたりがあるが 貴方は、祖国にいると思って 和んでくれることを願っています」
王ユゥリィの言葉に 皇子は、”はい”と、浅く頭を下げる。
「疲れたでしょう………用意しました部屋でお休みなさい。
<ローズ> お2人の部屋に案内を」
その言葉を受けて 少女は、”畏まりました”と、丁寧に頭を下げて 後ろへ一歩下がり ”こちらですわ”と、案内していく。
※~※~※~※~
「<ローズ>………お前は、まるで物語に出てくる魔法使いだな?」
突然そう言われて <ローズ>は、手に持っていた箱を取り落としそうになってしまった。
「突然 何をおっしゃるんですか?
わたしは、ただの記憶喪失の女。
皇子様の世話役は、王宮の皆さんの負担を和らげる為ですもの」
「本当に口の減らない奴だ。
どんなに嫌がらせをしても そんな面と向かって言ってくる奴は、誰もいなかったぞ?」
皇子の拗ねた顔に <ローズ>は、思わず苦笑してしまう。
「だから 皆さんの気を引こうと悪戯するのでしょう?
けれど それは、間違ったやり方です。
実際に体験してみて わたしの考えは、間違っていましたか?」
その質問に セレディー皇子は、一瞬考えるような素振りをしてから ニヤリと笑った。
「確かに 楽しい事ばかりだ。
もしも つまらなかったら お前を対象にもっと悪戯を爆発させようと検討するところだったが 久しぶりに笑えた。
それに 滅多に見られないトッドの面白い姿も見れたからな?」
皇子の言葉に 控えながら歩いているトッドは、肩を竦める。
「お願いですから そっちに 目覚めないで下さい、皇子。
とばっちりは、こりごりです」
「ですが トッド様?
とってもお似合いでしたよ?
美しい銀髪は、目立ってしまいますから 黒に染めないといけないのは、残念でしたけれど」
<ローズ>は、ニッコリと微笑んだ。
その発言に 銀髪の騎士は、顔を凍りつかせてしまう。
「もしも 銀髪のままだったら すぐにナディア姫に見つかってしまうだろうな?
ちゃんと また、<ローズ>に変身させてもらえよ?」
主君の言葉に トッドは、懸命に頭を下げてきた。
本当に 正体を見破られるわけには、いかないらしい。
「はい、お任せ下さいッ!
すれ違う人が、みんな振り返るような美女に大変身しましょうね?
皇子は、可憐な姫様でしょうか………。
まぁ 身分は、知られるわけにいかないので お嬢様ですけど」
<ローズ>は、心から楽しそうに 手にしている化粧道具で 2人に化粧を施していく。
しばらくして 長身で銀髪の男性は、その場から消え 黒髪の妖艶なる美女が。
金髪に蒼い目の天使は、フワフワな縦ロールをした本当に可憐なる美少女に。
誰も気が付かないほどの大変身だと想像してください………。