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私を追放して勝手に滅びる人の顔、見に行くほど暇じゃないんですけど、……いきましょうか、王子

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/16

 その庵には美しい聖女が住んでいると言う。


 王国から追放された彼女はたった一人でそこにいた。


(追放されたのは、俺が生まれる前、三十年近く昔の話だ)


 もう、美しくはないだろう。


 そう思って庵の扉を開く。


 ——そこには、想像以上に若く美しい聖女がいた。


◇◇


「何か用?」


 久しぶりの客だ。


 行商人以外だと十年ぶりかもしれないわ。


 派手な装飾の服ではないけれど、見るからに品の良さそうな青年で、嫌な予感がした。


「城に来ていただけませんか、聖女様」


 予感は的中ね。


 多分、この子は王子かしら?


「国王が病に倒れて、あなたなら治す方法を知っているのではないかと、母、いや、王妃が探しています」


 今は王になった第二王子と、その妃の子……。


 私の知ってる二十五年前の彼らとは似ても似つかない善良な青年の顔にあの人を思い出す。


「私を追放して勝手に滅びる人の顔を、見たいと思うほど、暇じゃないのよ」


「それは……。何があったのか、俺は知らされていませんが、追放されたあなたには理不尽な事だったのでしょう……。けれど、国王が亡くなれば国の一大事です。俺はまだ国王になれる器じゃないんです」


 ……あなたの父親は器じゃなくても、王になったけれどね。


 冷めた目で王子を見つめる。


「あなたとは何も因縁のない俺や多くの民のために、城に来てはいただけませんか? 聖女様」


 ……。


 民のためにね……。


 あなたの父親と母親は民の事なんて考える人たちじゃなかったのにね。


 ……民の事を考えていたのは……あの人——


 あなたの母に、毒を盛られて亡くなった、第一王子だった。


「少し、森の散策をして来ます。戻って来たら、良いお返事を下さい」


 王子は庵を出て行った。


 唐突にやって来た客人が全てを変えてしまう。


 ——昨日と同じ朝を迎えて、二十五年も同じ日々を過ごして来たのに。


 私は棚に並べられた薬瓶をテーブルに並べる。


 王の病が何なのか知らないけど、私の全てを持って行くんだから、これで治らないなら諦めるでしょう。


「仕方ないから、付き合います、王子」


 戻って来た王子は私が薬の瓶を詰めている事に喜んだ。


「これも薬ですか? 他と比べて大きくて、装飾も派手ですけど」


 王子が手に取ったのは森の木の実で作ったお酒だ。


「それがないと眠れないんです。ある病の方には毒なので、王子も勝手に飲まないで下さいね」


◆◆


 俺は聖女様を馬に乗せて走った。


 フードを深く被った聖女は足を揃えて馬に乗り、俺の身体を掴んでいた。


 しっかり俺の身体は掴んでいるが、俺を見ずに前を見据えている。


 かつては誰かとこうして馬に乗っていたのかもしれない。


 もっと身体を近く寄せ合わせて——。


 身体は近いのに、心の距離は遠い。



 城に着くと聖女様を王妃の元へ連れて行く。


「お久しぶりね、聖女様」


 母は高貴で冷たさを感じさせる人だ。


 聖女様に対しても、その態度は変わらないらしい。


 昔からそうだったのか?


「第二王子……、国王様の病の状況を教えて下さい。治したらすぐに帰りますから」


 母の顔がこわばった。


 父を第二王子などと言う人はいないから、プライドの高い母には許せなかったんだ。


 しかし、すぐに聖女様は国王の元へ案内された。


 ——そして、国王は回復した。


◇◇


「よく来てくれました! 聖女様。兄上が亡くなって、疎遠になっていましたが、またこの城で暮らしてください」


 第二王子は相変わらずだ。


 調子が良くて、少し足りない。


「兄上が亡くなった時は、あなたの記憶がいくつか抜け落ちていて心配しました……」


 私の記憶は今も抜け落ちたまま、固まっている。


 あの女と同じ空気はもう吸いたくない、身体が腐って行くみたいよ。


 死んでいた心が動き出す……。


 廊下の先に王子がいた。


 城に滞在してすぐは、私を見かけると必ず挨拶して、親切に世話を焼いてくれた。


 でも、父親の回復と共に、遠くから見つめるだけになった。


(帰りも王子に送ってもらおうとは思っていなかったけど、早く帰る手段を探さないといけないわね)



「聖女様、王妃様がお待ちです」


 そろそろ庵に戻ろうと言う時に、王妃に呼ばれる。


 国王の病も治って、私も帰り支度を済ませていたと言うのに。


 相変わらず、バカな子ね……。


◆◆


 母が急死した。


 父の病が良くなったばかりだと言うのに……。


 聖女様がお帰りになったと聞かされた直後の事だ。


 俺は聖女様を連れ戻しに行こうと思っていたんだ。


 その許可をとりに母の元を訪ねて、侍女たちの騒ぎに気付いた。


 母はグラスで酒を飲んでいたらしい。


 テーブルの下に空のボトルが落ちていた。


 あの、聖女様のもとで見た派手な装飾の、空になったボトルを——。


◇◇


 王子が訪ねてくる。


「王妃様は残念でしたね」


 白々しい言葉を紡ぐ。


 断罪に来た彼には、私はどれほどの悪女に映っているのかしら。


「はい、母のことは残念です……」


 王子の意外な言葉が続く。


 私を見つめる熱い眼差し。


「僕の心を埋めるために、あなたに城に来て欲しい」


 第一王子と同じ瞳が私に語りかける。


 私は王子の手を取った。


 ——また繰り返す。


 私の、千年の歴史——

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― 新着の感想 ―
聖女の事情調べず聖女の家に行ったり、交渉もせずいきなり救えと言ってきたり割と王子も両親に似てるような。
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