第八話「砂漠の果てに」
レインと初めて出会ったのがアルテマ西砂漠、今いる場所がアルテマ東砂漠だった。
急に日本で言う真夏の気温となり、流石はゲームの世界「自然の摂理」を無視してくる。
例えば此処から雪山にワープしてみろ、病気になんぞ。
俺達七人はアルテマの砂漠を真っ昼間にも関わらず歩いており、喉も渇きがちだった。
水ならクレラの水魔法がある。
だが彼女の黒魔法は限度を知らない。
破壊力満点の勢いで噴射される。
つまり真上に発射するしかないのだ。
遥か上空にまで達した水は、俺達に土砂降りの雨のように降り注いだ。
ここらで旅の仲間についておさらいしておこう。
クレラは基本優しい娘だ。
変わり者の部分があるのは否めないが、かなり頭もいい。
相手を圧倒する黒魔法の他に、まだお世話になっていない白魔法つまり回復魔法が使える。
チームの要と言っても差し支えないだろう。
フォックスは第一印象とは裏腹に気遣いができる大人な部分を見せていた。
まだ力の全貌を見せていないが、彼の補助魔法には何度か世話になっている。
頭の回転も速く冷酷な一面もありそうだったが、俺は彼を少しずつ信じ始めていた。
レインは陽気で明るい印象の男性だ。
ハープの音の威力は絶大で眠りの他に麻痺の音のバージョンも存在するらしい。
そして「回復の音」を現在開発中だそうだった。
決して前衛とは言えないがサポート力は凄まじいと言っていい。
アスカちゃんは「斬鉄拳」と呼ばれる拳法を使うようなのだが、未だにその力には世話になっていない。
この地域に生息するトゲトゲな身体のサボテンマンには素手では戦えないだろうし、もう少し様子見だ。
ただのツンデレってわけでもないらしく、今後彼女についてもっと知りたいと思っているのは確かだ。
ホワイトロックさんは魔導師というよりは弓使い(アーチャーといった印象が強かった。
結構上品で、クレラやアスカちゃん以上に王道ヒロインの座に相応しい気がしないでもないが、彼女が今俺を恋愛対象と見ているかは何とも言えないといった具合だ。
クロウはこのメンバーで一番口数が少ない人物で、オークを一撃で葬った剣の腕は中々のものだった。
また空を飛べるのも大きなアドバンテージで、盾も所持しており主力候補になり得るのだが、如何せんあまり笑わない男だった。
この六人に俺ソラを加えた七人がアルテマを旅している。
この中で異世界から来たのは俺だけで、他のメンツはゲームのキャラに過ぎないのだが、だとしたらかなり性格は作り込まれていると言っていいだろう。
とんでもないゲームに手を出してしまったもんだ。
キヨシと呼ばれる男の他にもまだ探せばゲームユーザーは出てきそうだが、何とかしてゲームをクリアしなければ、そしてその間の旅をクレラ達と楽しまなければ、そういった心の状態だった。
でも焦ることないさ。
命を落とさないように徐々に強くなっていくうちに作詞力も上がってくるかもしんねーし。
冒険を楽しむ余裕があるかは半々だけど、とにかくクレラ達が可愛い。
いやもっと言えばエリザベスもナギサもマリちゃんも皆可愛い!
俺はナギサちゃんの面倒見ても良かったけどよぉ。
なんか昔にプレイしたファンタジーゲームのパーティが六人や七人だったからそれで断っちゃったんだ。
いや、勿論彼女の事を心配はしたのは嘘じゃないよ?
そしてこの旅はある意味過酷だ。
俺達が砂漠を歩いていると前方に町だか廃墟だか分からないものが見えてきた。
まさかリエコスーー?
見るとあのレダスが頭から血を流していた。
「あのハウルという男、一対一なら相打ちに持ち込めました。でもあの銀竜まで居ては……」
「しっかりしろ!クレラ早く回復魔法を」
「うん!治癒!」
クレラの手元から発射された緑色の光が、レダスを覆った。
みるみるうちに傷は癒えていき、倒れていたレダスは立ち上がった。
「ありがとう。私は君達に賭けています。魔王との戦いに区切りを打てるって」
「アンタ、何者なんだ?」
騎士団の幹部セレナの実力だけでなくハウルの名前も知っていた。
何だろう……この全てを知ってる感じ。
「私はレダスの名で登録したゲームクリエイターです。このゲームのバグ要素として生まれたユーザーを巻き込むシステム。私はゲームクリアを手助けするため黒人の身なりをしてこの世界に溶け込んだというわけです」
なるほどな……元々なんか裏がありそうな気がしてたんだ。
でもクリエイターなら最強ステータスに変更みたいな荒技もできそうなもんだけどねぇ。
そこがこのアルテマの難しい所なのか。
「このゲームの名はご存知の通り『アルテマサーガ』。迷惑を被った事を詫びると同時に、暫くの間貴方がたパーティのサポート役として同行するとします」
俺はレダスを責める気は起きなかった。
なんか途方もない感じなんだ、此処まで作り込んだゲームの世界に溶け込めさせるのって。
勿論恋愛だけの話じゃない、全てにおいてこの世界での冒険はかけがえのない体験になっている。
「ハウルはガゼドの者と見て間違いないのか?」
「魔王復活を企んでいると見て、先ず間違いないでしょう。他にも仲間がいそうですし」
「クリエイターと言えど、全てを知っているわけじゃないのか」
「敵味方問わず色んな方面の者がそれぞれの方法で手を組んだり成長したりしています。貴方がたも例外ではありません」
「そうか……」
此処から東に進んだ所に港町があるそうだ。
せめてそこまではレダスと一緒に居たい。
それにしてもリエコスで闘技場で得た金貨を使おうと思っていたのに……想像以上の崩壊具合だ。
アーディスに比べ規模はずっと小さいが、クリエイター「レダス」にも思い入れはあったはずだ。
この世界は想像以上の速さで変化している……絶対に生き残ってみせる。
レダスという強力な後ろ盾を得た俺達は、廃墟と化したリエコスを徘徊していた。
片手じゃ数えられないほどの死体と、多数の負傷者。
あのマリちゃんの友達であった銀竜がハウルの下で暴れ回った事は容易に想像が出来た。
きっとシルバーを取り返す……!
ハウル以上のカリスマ性を得るというよりかは、乗り手であるハウルを倒してという方法になるだろうがな。
とにかく王との約束もある通りガゼドに向かわないと。
暫くすると上空に飛空艇が現れた。
何だよレダス。
この世界にそんなハイテクな物があるなら先に言ってくれ。
飛空艇はシュシューッと音を立てながら着陸した。
降りてきたのは騎士団幹部のピンク髪のセレナ。
遅かったか……!といった反応だった。
レダスにセレナ。
トップクラスの力量を誇る彼らが居れば旅はずっとラクになる。
どうやらセレナはハウルと巨竜を追って駆けつけたようだった。
「セレナさん、久しぶりっす。もしかしてガゼドに向かうんすか?」
俺は中途半端な敬語を披露した。
歳はあまり変わらないはずだ。
それにしてもこの世界は若者が多い。
旅人ハイディスのような四十代のキャラクターは滅多に見かけない。
魔王が居なくなって人口は増加傾向にある、といった所なのだろうか。
まあとにかくリエコスを潰された事はあまり褒められた事でない。
騎士団の幹部として正義感から駆けつけたのだろう。
「ガゼドは我が国の国境を越えた場所にある。そう易易と飛空艇で潜入できるとは思えんな」
騎士の装備をしたセレナは腕を組んで言った。
海を跨げば其処からは他国か。
港町まで歩いていくしかなさそうだ。
「ガゼドに向かう君にはこれを預けておこう。一緒の御守りだ」
と俺は十字の首飾りを貰った。
兜の顔の部分を開け、俺は首飾りを自身で付けた。
どういう効果があるかはお楽しみってか。
「ありがとう……」
セレナも綺麗な顔立ちをしていた。
如何にもゲームの世界のキャラって感じだ。
お互いに手を振り、セレナは飛空艇に乗ってアーディスの方向である西へ帰っていった。
どうやら彼女の部下である騎士団も十名以上同行していたようだった。
いつからかこの世界の者が放つオーラも感知出来るようになっていた。
アニキやハイディスを始めアルテマには強者が多い。
その力量を見ただけでおおよそ測る事が出来るようになってきたのだ。
その点で言うとレダスの力は中々のものだった。
港町までは取り敢えず俺達は安泰だろう。
問題は海を越えた後。
他国での冒険は一層危険度が増す。
俺達は再び東への歩を進める事となった。
アルテマ東砂漠はもうちょっと続くようで、体長五十センチのサソリには相当ビックリした。
クレラの火炎弾が対象を襲う。
レダスの超念力もかなりの威力を誇っていた。
超能力に近い一種の黒魔法は、ぶつけ相手を吹き飛ばす。
サソリの毒には要注意だが、遠距離技を使っていけば基本問題は無かった。
それよりも……!
先頭を歩く俺とクレラは蟻地獄の罠のような穴に、あっという間に落ちてしまったのだ。
下は遺跡のような造り。
「おーい!」と上の方からアスカちゃんの声がする。
「俺達は大丈夫だ。きっと後で合流しよう!」
俺は石造りの床から立ち上がり辺りを見渡した。
古い遺跡のような場所だ。
どうせならレダスも含めた八人全員が落ちてきても構わなかったが、まあクレラとの二人きりを満喫しよう。
俺の運命の人。
彼女の幼馴染であるアスカちゃんを俺に紹介したがっている節があるが、何はともあれ波長は合う。
もしかしたらホワイトロックを含めた三又にすらなりそうな気さえしたが、とにかく今はクレラと遺跡を散策だ。
そう言えばアーディスでの昼食代を返し忘れていた。
闘技場で得た金貨で十倍返しにしてもいいが、この遺跡にはそれを超える宝物が潜んでいそうな、そんな気すらした。
ムッ、あちらの陰からミイラ男。
己の大剣で斬り殺してもいいが、なるべく無駄な殺戮は避けたい。
俺とクレラは逆方向に駆け出した。
走った先にあったのは魔術師のロッド。
その名の通り魔力を底上げする杖のようなのだが、こんな所に逆さに突き刺してあるなんて。
クレラはロッドを引き抜いた。
これで元々強力だった彼女の魔法が一層強さを増した事になる。
ロッドは小さなサファイアが散りばめられてあり、全体的に金色で中々綺麗だった。
「試しに使ってみる!」
ロッドのお試しに命を落とす事になるミイラ男には若干同情したが、発射された火炎弾は予想以上だった。
先ずサイズが一点五倍にまで成長しており、燃え盛るマグマは相変わらずだ。
灼熱の炎は一瞬でミイラを焼き焦がした。
「頼もしいこって」
「見て、コッチ階段があるよ」
「なぁ、クレラ」
「?」
「いつもありがとな」
「あ、うん」
大好きだとは言えなかった。
思春期特有の照れってやつか?
と、とにかく告白を急ぐことないんだ、まだ目的地まで距離がある。
階段を登っていくと陽がスッと差し遠くにフォックス達六人の姿が見えた。
偶然だったがクレラのロッドが手に入った。
それは大きい。
セレナさんのくれた首飾りも意味深だったし、俺達は着実に強くなってる。
「もう直ぐ砂漠も終わりですよ。このまま東へ行きましょう」
と地理に詳しいレダスが言う。
「クレラに新しいロッドか。俺様も気は抜けんな」
「クレラちゃん凄ーい」
とフォックスにアスカ。
「鬼に金棒やでなー」
「私も頑張らないと!」
皆口々に言う。
クロウ何も喋ってねーけど。
まあもう直ぐ砂漠も終わるみたいだし七人、いや八人仲良く次のエリアへだ。
クレラへの大切な想い。
いや恋愛的感情だけじゃないぞ、旅の仲間皆への想いをこれからも大切にしよう。
俺達は日が沈む前にアルテマ東砂漠を越えた。




