第七話「カリスマ」
翌朝俺達はアーディスを跡にした。
短い滞在期間だったが沢山の出会いがあった。
アニキ、レダス、セレナ。
もっと言えばジンやエリザベスとも巡り会えて良かったと言える。
後ろを振り返ると誰かが我々の跡をつけているのが分かった。
まだ若い眼鏡をかけた少女だ。
眼鏡を外せば美人に化けそうだが、まだ十四歳くらいだろう。
「闘技場で貴方達の戦いぶり見ました。私も連れて行って下さい。こう見えても『時魔法』使えるんですよ」
若い。
俺も偉そうな事は言えないが、戦闘の一つも経験していないだろう。
「時魔法って例えばどんな?」
「時劣化、とか……」
「他は?」
時劣化は相手の動きを鈍らせるといったものだろう。
「だけかな」
少女は俯いた。
可愛い子には旅をさせよとは言ってもだなあ。
人質に取られたりしたらこの上なく厄介なんだよ。
才能があるのは分かる。
なんせまだ中学生くらいの年齢だ。
この場合は誰かに預けて修行してもらった方がいい。
「スラム街に『アニキ』って呼ばれてる強者がいる。彼の下で修行を積んでからだな」
アニキがこの娘の面倒を見てくれる保証は無かった。
だがもしアニキが承諾すれば彼女は本当の意味で化ける可能性がある。
「君、名前は?闘技場を勝ち抜いた異世界人の頼みだって言ってみて」
「ナギサです……分かりました」
ちょっと最初言い方キツかったかなぁ。
でもハッキリ言うしかない。
クレラ達もナギサの同行へは反対だろう。
俺は今アレサンドロの鎧を着ており、サイズに違和感は無かった。
背中には大剣ソーイアロを背負っており、装備だけで言えば俺は紛れもなく強者だった。
だがいつか装備のおかげでなく、自分の力で。
ナギサの為を思って断ったわけだが、それに恥じない男にならないと。
ナギサはトボトボアーディスの方向へと引き返して行った。
スラム街は都市の中の話で言えば危険地帯だが、アニキは信用出来る男だった。
さて、旅の幕開けだ。
目の前に広がる草原。
風がこの上なく心地良い。
鎧の上からでも分かる。
気温は日本で言う初夏くらいで、何時ぞやの砂漠ほど暑くない。
見れば蒼色のバッファローの群れが前方にいた。
クレラの家の近くか?
いや、ちょっと違うらしい。
何れにせよガゼドへはこの道が最短ルートだそうだ。
「あんな所に家がある。行ってみようぜ」
クレラの家と然程変わらない造りの木の家が草原にポツンと建っていた。
せっかくだから挨拶しとこう、みたいな具合だ。
残念ながら(?)アスカちゃん対バッファローの闘いを観るのは見送る事となったが、モンクの力もこの先々で必要になってくるだろう。
「ごめんくださーい」
「!!」
中にいたのはこれまた中学生くらいの少女だった。
茶髪の三つ編みで、眼鏡は掛けていなかった。
「私マリナって言うの。お兄さん達何しに来たの?」
「いやこんな所にポツンと一軒家があったもんで」
「マリ、ドラゴンと心を通わせられるの。シルバーって名前のその名の通り銀竜よ」
「まさかアレサンドロの乗ってた……」
クレラが会話に参加した。
竜騎士アレサンドロは十五年前に魔王ラグナロクとの闘いで死んだそうだが、巨竜は生きていたという事か。
「今ではマリの友達。呼んでみよっか?」
何処か口調がカタコトで可愛いらしい子だなー。
この世界の女子冗談抜きでレベル高ぇーぞ。
なんか日本に帰りたくなくなってきた。
あーでもジン王との約束はなるべく守らなきゃな。
マリナが外に出て指笛を吹くと、本当に体長十メートルはあるかという巨竜が弧を描きながら着陸した。
凄い迫力だ。
着陸時の翼のはためきだけで、装備が軽いクレラなど吹き飛ばされそうなくらいだ。
アレサンドロの乗っていた銀竜。
彼の鎧を着ている俺を見て若干戸惑ったようだが、直ぐに俺ソラはアレサンドロと違うと認識するに至っていた。
マリちゃんが巨竜の頬を撫でる。
俺は時折アスカちゃんだのマリちゃんだの女の子にちゃんを付ける。
別に女慣れしているわけじゃないが「親しみを込めたい」みたいな感じか。
それにしてもマリちゃんとシルバーの仲の良い事。
きっとクレラと同じで彼女も心が綺麗なんだよ。
そして昨日王宮で見た竜の模型とそっくりだ。
俺が感心しているのも束の間、紫色の渦と共に邪悪な人影が現れた。
東洋を彷彿とさせる着物を身に纏った、紫色の長髪の男は銀竜を見るなりこう言った。
「見つけた。竜騎士アレサンドロの遺産。俺ハウルの相棒にこの上なく相応しい」
ハウルと名乗る男は二十代後半くらいに見えた。
そんな事よりも巨竜の様子がおかしい。
あんだけ懐いていたシルバーがハウルの元へ行こうとしている。
ハウルの放つカリスマ性とでも言うのか。
だがこれじゃあマリちゃんが余りにも可哀想だ。
「このハウルって人、只者じゃない!」
と身構えるクレラ。
ハウルはシルバーに跨り飛び立とうとしている。
「ガゼドの組織の一員って何処かで聞いたことあるよ。彼らは昔から巨竜を狙ってた」
ホワイトロックが弓を引きながら言ったその時、ハウルの周りに青紫色のオーラのようなバリアが生まれ、それは瞬く間に巨竜を覆った。
コレでは矢が通じそうにない。
そしてハウルを乗せた巨竜は遥か上空へと飛び立って行ったのだった。
泣きじゃくるマリナ。
どうやら両親と一緒に住んでいることは家の内装で分かったが、今親は仕事中らしい。
「俺がシルバーを取り戻すよ」
思わずマリナの肩に手を置き言っていた。
何せガゼドに行きゃーいいんだろ?
仲間の方を見るとレインやアスカちゃんが大きく頷いている。
ハウルは明らか強者だったが、道中で強くなりゃーいいさ。
俺達はマリナに別れを告げ、再び草原を歩き出した。
此処から目的地までかなり距離があるようだが、例えば巨竜に跨がれば一瞬で着くのか。
だが歩いていく事に抵抗はない。
この道は俺を強くしてくれる。
困難の無い旅など逆に面白みが無いといった具合だ。
草原はまだ続く。
南の方に山々があるのは相変わらずだがこの草原を越えれば砂漠があるようで、黒人レダスの出身地「リエコス」は砂漠のその先にあるようだった。
先ずはリエコスに向かい、それからガゼドだった。
正直ガゼドに着くまでに雪山すら越えていくようで、ゲームの世界とは言え果てしない旅になりそうなのは確かだ。
大剣ソーイアロを手にしたダンジョンは此処から南の山にあり、俺達が進んでいるのは南東だそうだ。
地図が頭に入っているフォックスによると南東のリエコスに着いた後、そのまま東に行き港町へ。
船で北東へ進み別の島に着かなければならないそうだ。
まあでも全行程でどれだけ長く見積もっても一ヶ月は掛からないだろうとの事だった。
ん?前方に首の長い恐竜のような生き物が。
ハンマーヘッドシャークみたいな頭部をしている。
背中には鎧のようなトゲトゲがあり、中々圧巻だった。
体長は何と二十メートル程だ。
「ハンマーヘッドザウルスよ。大人しいから普通にしてれば大丈夫」
とクレラ。
因みに体長四メートルの水牛は「ブルーバッファロー」と言うそうだ。
これらの草食獣は危害を滅多に加えてこない上見応えがある。
特にハンマーヘッドザウルスは現実の世界では絶対にお目にかかれない分、写真でも撮っておきたい気分だった。
池の上で「グララララーン」と鳴き声を上げる。
海の生き物とも若干関連性を感じさせるような、超音波に似た鳴き方だった。
俺達七人が見惚れていると馬に乗った旅人が通りかかった。
長い黒のドレッドヘアー。
カッコいい黒魔道士を連想させる装備だったが、武器は大剣だった。
「やあやあご機嫌麗しゅう。僕の予感が正しければ此処に異世界人がいるんだけどなー」
穏やかな喋り方と引き換えに何処か強い響きがあった。
敵か?味方か?
何にせよまだ異世界人だとは伏せておいた方が良いだろう。
「僕名前はハイディス。もう今年で四十になる」
四十歳には見えない中々の色男だった。
アニキ以来のオーラの持ち主だし、パーティの誰かがこの人を知っていてもおかしくない。
「まさかあの歴史から抹消された四人目の伝説……本物なの?」
アスカちゃんの声は若干震えていた。
ソーイアロ、モリガン、アレサンドロと並び、オマケに生還を果たした男だと言うのか。
「悪魔で噂だったけど私は耳にした事がある。第四の男ハイディス。黒い馬に跨り孤独な旅を続けてるって」
そのハイディスが異世界人の俺に何の用だ。
黙っていても直ぐに俺だと気付かれそうな予感がした。
「実はユーザーって君だけじゃないんだよ?僕の相棒キヨシもゲームユーザーだ」
ハイディスの相棒がゲームユーザー?
それだと話は変わってくる。
直ぐにでもキヨシに会わせてくれ。
俺達は手を取り合うべきだ。
俺が身を乗り出して俺が異世界人だ、と言おうとしたその時だった。
背後のハンマーヘッドザウルスが馬ごとハイディスに噛みつこうとしたのである。
ーー大剣の閃光斬りーー。
一瞬の早業に一同は言葉を失った。
一撃で恐竜の首を斬り落としたのである。
あの大人しいハンマーヘッドザウルスが噛みつこうとしたのは珍しい出来事だろうが、これほどまでの男がキヨシとやらとタッグを組んでいるのか。
キヨシーー名前からしても日本人だ間違いねぇ。
でもその時レダスの言葉が頭を過ぎった。
「善なる者」……もしかしたら全ユーザーが清き心を持っていない可能性もあるのだ。
此処に来て第二のユーザーの登場。
まだどんな姿をしているかも分かったもんじゃないが、彼の相棒ハイディスの力は本物だ。
「キヨシに言っててくれ……共に魔王復活阻止に向けて立ち上がろうと。俺達はまだ会わない。力を付けたらその時は団結しよう」
「フッ……分かったよ」
最後は俺が異世界人だとバレバレだった。
だがハイディスは馬に乗ったまま去っていき、俺達の旅は続くのだった。
もう少しで草原地帯から砂漠地帯に変わる。
クレラの持っているお腹を満たす豆を皆で分け、休む間もなく歩き続けるのだった。
この薄緑色の豆は独特な味がする。
特別美味いというわけではないが、エネルギー補給という点に関しては間違いないだろう。
魔女だけが持っていそうな、なんとも便利な豆だった。
キヨシとハイディス。
第二のゲームユーザーと、歴史から抹消された英雄。
中々強力なタッグだが、俺とアニキの団結で追い越したいものだった。
それだけアニキは印象的だったし、俺も自分の伸び代をいつからか信じられるようになっていた。
冥道クロス斬り。
放てたのはフォックスとクロウの紫色の魔法陣が傍にあったからとの解釈を最終的にはされたようなのだが、アレは大剣ソーイアロと俺の息の合ったコンボだと俺の中では結論づけていた。
まあ闘技場の事はどーでもいいよ。
これからだこれから。
このアレサンドロの鎧を着ている限り、いやこの鎧なんて無くてもいつか自分の足で立ってみせる。
おっ、草原を越え今度は砂漠だー。
この先にあるリエコスにレダスの奴はいるのかな。
アイツも何処か意味深なのには変わりない。
学生服はアーディスの王宮に置いてきた。
あの街の希望になれてたらいいな、なんて。
異世界人ソラ本格的に始動だ。




