第六話「鎧を求めて」
レインが出場して敵を眠らせてしまっては、闘技場は盛り上がらない。
俺、フォックス、クロウのメンツでの登録で間違いなかった。
何より、この試合は王も観るのだ。
中途半端な戦いは絶対に許されない。
あっという間に夕方になり、俺達は金網の中へと通された。
観客は五百人ほど。
中央の若い王らしき者の近くには、エリザベスもいた。
賞金を手にすれば鎧が買える。
今後クレラ達を護るためにも絶対手に入れねーと。
観客の中でクレラやアスカちゃんを直ぐに見つける事は出来なかった。
だがそれよりも試合に集中しないと。
死ぬ事すら容易にあり得る闘技場で、フォックス達と連携を試みないと。
つーか何でこの二人なの?
クロウはさっき会ったばかりだし、フォックスは言動にトゲがある。
息の揃った連携とまではいきそうになかった。
だが生き残るには三人の力を最大限に引き出す戦い方をしねーと。
「フォックス、何か作戦は?」
「無い。強いて言うなら俺とクロウは長年の誼で連携技、隕石落下が撃てる。それの発動に期待するんだな」
それって凄そうだけど詠唱時間掛かりそうだな。
「つまり時間稼ぎがお前の役だ。まあ防御系の補助魔法は最初に掛けといてやる。死んだらそこまでだ」
最後の一言余計だよ!
ったくこの狐はこの期に及んでも毒舌を貫くかね。
「一人で生き延びる練習だ。ま、死んだら大剣ソーイアロは俺が拾っておいてやる」
観客のボルテージが上がってきた。
亜人であるフォックス達を快く思っていない市民も多少は居そうだったが、基本的に拍手で俺達は紹介された。
あ、いたいた!
クレラ達あんな所に座っていたのか。
ようし男として女子達に良い所見せないとね。
アニキは観てないだろうけど、彼の助言通り亜人二人との三人で勝ってみせる。
紹介で大剣ソーイアロを所持し者として一応は注目されたが、亜人とつるむ変わり者という見られ方をしていそうだった。
この学生服逆に目立つしな。
まあ、この戦いを乗り切れば鎧を得ると同時に漢になれる。
足が若干震えてきそうだ……いや大丈夫!
角笛と共に敵が入場してきた。
亜人達は基本的にこの世界ではそれほど好かれていないようなので、敵次第では此方がヒール(悪役)となり得たが、敵はトロール一体とオーク二匹だった。
トロールの身長は二点五メートルはあり、白い皮膚に黒いボクサーパンツのような物を履いていた。
両手首はまだ鎖で繋がれており、試合開始と共に解放されるようだ。
一般的な闘技場での対戦相手という事になった。
だがここで良い所みせれば亜人への認識もほんの少しかわるんじゃねぇか?
差別の根強さなど理解できる年頃じゃないかもしれねーが、フォックスもクロウも優しい部分があるのは知っている。
クロウがどのような闘い方をするのかは存じ上げないが、飛べるのは大きな利点だった。
そして隕石落下。
連携技など初めて耳にしたが、巨体であるトロールを一撃で仕留められる可能性も充分ありそうだった。
「ワイは隕石落下の発動に反対する。昨日この世界に来たばかりの若者に一対三はキツい」
普段黙ってるクロウが此処に来て声を上げた。
闘技場への参加を表明した「っしゃ、行こ」の一言以外ずっと黙っていたのである。
何だよやっぱり優しいじゃんかよ。
「先にオークだけ倒してしまおう」
「チィ……好きにしろ」
クロウとフォックスの会話は一旦そこで途切れ、試合開始のゴングが鳴らされた。
四方には橙色に燃え盛る篝火が灯されてあり、ドーム状の金網で覆われたフィールドだった。
コンクリートみたいな硬い石の地面。
オークは軽装備の槍持ちで、トロールに比べ知能はありそうだった。
だがやはり気をつけるべきなのは真ん中のデカいトロール。
咆哮は見る者全てを緊張させる。
『さあ、始まりました本日の闘技場の戦い。亜人二人をメンバーとしました。チームソラ!英雄の大剣を所持した彼にも注目です』
チームソラって呼ばれ方フォックスは気に入ってねーかな。
まあどうでもいいけど。
それより大きな棍棒を持つ事になるトロールの攻撃をかわしつつオークを倒さなければならない。
トロールの鎖は解放され、彼は傍にわざと置かれていた棍棒を拾った。
一見あのゴーレムより弱そうに見えるが、油断は厳禁だ。
ほら怒った顔で近づいてくる!
俺はトロールの縦への攻撃を前転で避ける事に成功した。
その隙を鳥人クロウは逃さない。
シューッと闘技場の中を飛んでいき、自身の剣でオークの胸を貫いた。
オォーーッ。
観客の間にどよめきが上がった。
幾らゴブリンよりは手強いと言っても、相手は所詮ただのオーク。
一瞬で左側にいた一匹のあの世行きが決まった。
そしてフォックスの補助魔法、硬質化。
何と彼自身でなく俺に掛けてくれた。
何だよやっぱり新参者の俺に優しいんじゃんかよ!
オレンジ色の光が俺を包む。
これでトロールの攻撃を一発は耐える事が出来そうだ。
再び歓声。
此方から見て右側にいたオークも、クロウが刺し殺したのである。
アニキはフォックス、そしてクロウとこの戦いに参加しろと言ってた。
やはり信じて正解だったようだな!
俺はトロールに向かって大剣ソーイアロで斬り掛かっていった。
フォックスの補助魔法の効果はお墨付き。
棍棒と大剣がぶつかる。
「クロウ、隕石落下だ」
フォックスたちの足元に紫色の魔法陣が浮かび上がっていた。
時間稼ぎーーか。
だがそれだと何のために出場したか分からねー!
その時、大剣ソーイアロが鈍く光った。
剣が、力の限り振れと言っている気がした。
(斜めに斬りかかる!)
ザンッザンッ!とクロスするように攻撃した俺は、何とトロールを倒していた。
「さっきのクロス斬りか?」
「いやただのクロス斬りじゃ無かった気が……」
と観客から声が上がる。
王も立ち上がって拍手をくれていた。
俺は隕石落下の発動を待つまでもなく、闘技場の戦いに勝利していた。
金網から出て報酬の金貨を手にした俺達が中央通りへの道に出た時だった。
なんとあの王に呼び止められたのである。
「今夜仲間と共に王宮へ来い」と。
断るという選択肢はなかった。
ギラギラしたファーを着た王様だったが、高校に居た不良とは何処か違った。
それでもうつけ呼ばわりする者がいそうなのも事実だった。
何にせよ俺達は貴族達の住むエリアの更に奥の王宮に呼ばれる事になったのだ。
闘技場とはまた違った緊張感がある。
パーティ七人ともシーンとしていた。
一体王が俺達に何の用があると言うのだ。
夜になり、俺達は煌びやかな王宮へと足を踏み入れた。
着くまでに何軒かの貴族の館を目の当たりにしたが、やはり王宮は別格だった。
壁に金箔が貼られているのである。
「ようこそアーディスの王宮へ。ソラ殿とその一行、中へ入られよ」
左右に立つ門番は一際強そうだった。
騎士団の中でもエリートってか?
彼らにも既に話は通っていたようで、俺は自分の名が呼ばれたことが少し嬉しかった。
王の間までは曲がりくねった階段を登ったりと色々あったが、一番驚いたのは竜の模型だった。
竜騎士アレサンドロの乗っていた銀竜のようだ。
ゴクリと唾を飲み俺達は王の待つ部屋へと進んだ。
左側には騎士団を率いる金髪のエリザベス。
右側には眼鏡をかけた秘書のような白髪の男が立っているのだった。
どうやらジンという名のこの王は俺達を歓迎した。
「よく来たね。『冥道クロス斬り』、中々だったよ?」
「え?」
トロールを葬った技の事だろうか。
あれは大剣ソーイアロとの心の連携で。
俺が言葉に困っているとジン王はじーっと見てきた。
「鎧欲しい?(防御力)足りんでしょ?そんな服じゃ」
王は部屋の隅に飾ってある鎧の方を見た。
「ま、まさかアーディスの家宝アレサンドロの鎧を、どこぞの馬の骨かも分からぬ若造に譲り渡すとおっしゃるのか!?」
「えー、別にいいじゃん。鎧なんか飾ってても意味ないし」
ジン王は中々のイケメンだった。
おまけに太っ腹とでも言うのか。
「タダであげる訳じゃない。魔王復活を企む者がいるとされる『ガゼド』に赴き平和を実現すると約束したらあげるよ」
なるほど交換条件か。
アレサンドロの鎧の性能は凄まじそうだ。
銀色でトゲトゲしていて大きい割に重くはなさそうな、なんとも言えない強そうな鎧だと見受けられた。
それにしてもそれを頼まれるなんて冥道?クロス斬りとやらは凄い技だったのかなぁ。
「如何に大剣ソーイアロを使ったと言えどそう簡単に冥道への道は開かれん、そうだったなトーマス」
トーマスは秘書の名前のようだった。
比較的常識人で、ジンには手を焼いてそうだ。
「まあソラ殿が行かないなら騎士団を遣わそう」
王の言葉を聞いた時、エリザベスの顔が曇った。
彼女、本当は戦いたくないのだ。
それがソーイアロの娘というだけで、騎士団として王に命を捧げている。
まあどうせ鎧は欲しい所だったし、エリザベスに無理はさせたくない。
俺は王の要求に対し二つ返事で承諾した。
明日からガゼドへの道のりが始まる。
途中砂の町リエコスを経由するようで、俺達は今晩王宮に泊まる事になった。
ベランダに出てみると星が綺麗に見て取れた。
そこへ現れた鎧姿のエリザベス。
白く綺麗な肌をしており、よく見れば美人だった。
「あの……ありがと。引き受けてくれて」
「なんのなんの。鎧欲しかったし」
「父上の剣が認めた男はきっと貴方が初めてみたい」
「おー、世話になってるぜこの大剣には。あの冥道クロス斬りは偶然だろうけど」
冥道と言えば亜人二人を連想させられた。
アニキめ、もしかしてそこまで計算済みで?
何にせよ最高の鎧が手に入って良かった。
「……気をつけてね。バイバイ」
「おう!」
あーあ行っちゃったよ。
それにしても此処アルテマの美人の多いこと。
闘技場で得た金貨は俺の鎧以外に使い回せる事になるが、慎重に使い所を判断しないと。
俺が星々を眺めながら考え事をしているとクレラとアスカが後ろに立っていた。
「よう、夜景でも見に来たの?」
「まあね。それよりソラって私とアスカちゃん二人共大切にしてって言われたら大切に出来る?」
「え?」
「冗談だよ、冗談。そこ退いて〜」
夜景を観る特等席を横取りされた。
それより何だったんだよさっきの、意識しちゃうじゃんかよ。
クレラはいつも通りニコニコしていたが彼女達がレストランで話してた事って一体……。
ま、まあとにかくガゼドに向かって魔王復活を阻止。
その為の剣と鎧は手に入った。
今のところ俺のゲームライフは順調と言える。
何より仲間達が頼もしかった。
「また明日」
クレラとアスカにおやすみを言い、俺は男用の寝室へと足を運んだ。
慣れない人は迷いかねない広さだな、流石王宮……。
蝋燭だけの灯りの部屋でフォックスは既に寝ており、レインとクロウが対話しているのだった。
見た感じ、この二人は意気投合してそうだ。
吟遊詩人である虹色髪のレインと翼の生えた入れ墨のクロウ。
一見共通点は少なそうだが、二人共根は優しいのかもしれない。
何にせよ、わーいフカフカのベッドだ。
現代日本の一般的なベッド以上の柔らかさだった。
この辺は流石王宮と言うべきか。
歴史的に見ても昔の偉い人は贅沢三昧だったんだろーなーって。
さあもう寝よう。
明日からガゼドへの長い旅が始まる。
王がチャラいのは予想外だったけど、おかげでアレサンドロの鎧が齎された。
クレラとの運命、きっと掴み取るんだ。
そんな中アスカちゃんの存在が頭をよぎる。
まあ今日はもう寝るとしよう、おやすみ。




