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ARTEMA SAGA  作者: ロゼオ
第1章 冒険の始まり
6/10

第五話「語られる伝説」

摂った昼食はベーコンエッグトーストで、悪くない味だった。

若干焦げ目が付いており、目玉焼きは半熟。

ベーコンもそこそこの肉を使用していた。


だがそんな事よりもクレラやアスカと同じ時間を過ごせたのが良かった。

交わした言葉数は少ないが、確かな温かみがそこには存在した。


「食べ終わってから暫く経つね。先に店出る?」


「え?」


「私アスカと話があるの」


幼馴染同士の込み入った話か。

ならば何も言うまい。

俺は昼食代を出してもらった事に礼を言い、レストランを出るのだった。


まだ十一時半くらいか?

この世界にも当然時計は存在し、それは現実世界のモノと酷似していた。

大きな日時計の側に人集り。

見れば虹髪のレインが子供達に吟遊詩人として語り部をしているのだった。

行ってみよう。

俺は彼のハープの音が好きだ。

それにこの世界の歴史にも関心はある。

高校での得意教科はここだけの話世界史だった。


例えば伝説の三人の一人「竜騎士アレサンドロ」ってアレクサンドロス大王と同じ名前だよな?

おっともし読者さんが小さいお子さんなら存じ上げないか?

でも名前だけなら聞いたことがあるでしょ?

このゲームのクリエイターが何故アレサンドロと名付けたのは謎だけど、よっぽど強力な設定の竜騎士だったに違いない。

それに比べたらソーイアロやモリガンといった名前の方が謎といえば謎だった。


俺はレインの声に耳を傾けた。

どうやらホワイトロックについての物語らしい。

おおっ、これは興味あるぞ。

だが既に語りは終盤に差し掛かっていたようで、「裏魔法に手を出し髪が白くなった。それを政府の裏の者は恐れ、彼女は本名を隠している」の部分だけ聞けた。


まあおかしな話本名を隠してもホワイトロックが有名だったら身の危険は防ぎきれねーけど。

でも政府を恐れさせた裏魔法かー、カッケェェ!

そう言えばクレラの父モリガンですら裏魔法は習得して無かったって言ってたな。

しかも弓矢使えるんでしょ?

どんだけ有能なんだよ。

しかも彼女は真っ直ぐな心の持ち主の印象だ。

クレラやフォックスのような天才的な頭脳は無いかも知んねぇ。

でも男も惚れるカッコいい女だね。


俺は感心しながらレインの話を聞いていた。

所々笑いを入れるのは俺には出来ない流石の芸当だったが、語りはもう終わろうとしていた。

ハープの音にも優しさが籠っている、と感じた。

俺は子供達が去った後レインの近くへと歩み寄った。


「良かったよ」


「おー、次回は一から聞いてやー」


「ホワイトロックの命は俺が護ってやりたいと思ったが」


アスカちゃんの実の姉。

旅の序盤で巡り会えたのは運命としか言いようがない。

アスカも「お姉ちゃんめちゃくちゃ強いんだからー」とか言ってたな。

今になって納得だ。


それにしてもこの世界には政府の裏の者といった者も存在するのか。

魔王と手を組まれるとこの上なく厄介だなー。


俺がレインのハープを試しに弾いているとホワイトロック本人が現れた。

本当に綺麗な澄んだ目をしている。

クレラやアスカじゃなくてこの人に昼食奢ってもらえば良かった男気ありそうだし。

って幾ら歳上だからって女性に奢ってもらうのがそもそも良くないか。


「スラム街に私の命を狙う者たちがいるって情報、手に入れたよ」


政府だけでなくスラム街にも……。

二つの組織が繋がっているかは定かではないが、雲行きは良くなさそうだ。

今こそクレラとアスカを呼んで総力を上げる時!


「妹のアスカまで敵に変に恨みを買ってお尋ね者にしたくない。三人で行きましょう」


ったくフォックスどこほっつき歩いてんだ。

いや、彼もクロウとの再会といった目的があって行動してるはず。

俺、レイン、ホワイトロックの三人でスラム街に突撃するしかない。

でもホワイトロックさんと手を組んだ時点で俺もお尋ね者にされる可能性すらある。

知ったことか。

俺はこの「目」を信じる。


レインもおちゃらけてそうで、内には深いものを持っていそうだった。

ただの語り部じゃない。

このハープで彼は戦える。


クロウを除くパーティ六人は団結しつつあった。

レダスやセレナといった者たちとの関係もこれっきりでは決してなさそうだし、もっと言えば王やエリザベスとも関わっていきそうな予感がした。

大剣ソーイアロはエリザベスの父の忘れ形見的な立ち位置の剣である。


伝説のモリガンの娘やホワイトロック様といった者たちが強力なのは言うまでもないが、自分もこの大剣で役に立ちたい。

あのフォックスすら拒み俺を選んだ「ソーイアロ」。

スラム街だろうが砂漠の果てだろうが何処までも一緒に行ってやる。


俺達は狭い高架下へと続く道へ出た。

階段を降り、窮屈な道へ。

そこを抜けると地下道への秘密の階段だった。


この下に、ホワイトロックの命を狙う者たちが。

戦闘は避けられないかもしれない。

狭い通路で大剣が戦いづらそうなのも事実だ。

いや、ロックさんの弓矢ですら、本領発揮とはいかないだろう。

レインのハープ頼みか。

眠り効果などが期待できるようなのだが、頼んだぜ……!

今にも演奏を開始しそうなレインと共に、俺達は階段を下った。


昨夜部屋干しした学校の制服。

ホワイトロックの着ている藍色の鎧に比べて防御性能など無いに等しいのも確かだ。

金儲けの方法があれば是非実践し、鎧を手に入れたいものだった。

そうでないと、本当に死ぬ可能性すらある。

これから対峙するスラム街の敵ですら、決して油断ならないのだ。



錆びた扉を開けるなり、レインはハープを演奏した。

ポロンポロン……と独特な音色が地下道に響き渡る。


この道を抜けるといよいよスラムの住宅地にあたるようなのだが、敵は早々に発見された。 

三人の賊のような男達。

レインの演奏でたちまち深い眠りにつく。

だがハープの音はレイン以外の全キャラに適応される。

この俺も勿論例外じゃない。

後で叩き起こしてくれよ……ムニャ。


叩き起こされた時前方には左右を刈り上げた黒髪セミロングの男がいた。

穏やかな印象だったが、目には不思議な力があった。

それにしてもこの男にはレインのハープの音の効果が適応されなかったと言うのか。


「皆、起きろ。殺し合うことないよ」


「ア、アニキ。でもホワイトロックって女、裏魔法を習得したんでさぁ。そんな人間アニキ一人で構わないと思いません?」


「そんな事で殺し合ってたら獣と同じだぞ」


アニキと呼ばれるこの男、なんと裏魔法が使えるのか。

言われてみればオーラも独特で、彼の仲間達にはかなり慕われているようだった。


「ん?君は……異世界から来たのか?」


不意に「アニキ」が神妙な顔つきになった。


「君と話がしたい。久しぶりにシャバの空気を吸おう」


「まさか黒髪のまま裏魔法を習得したって言うの?」


ホワイトロックが驚きの声を上げる。

規格外のバケモノか。

そんな男と二人きりで話か……緊張しないでもない。


階段を上り高架下に出た。

アニキは「鎧が欲しいなら、闘技場に出たら?」と言ってきた。

眼は緑色で、吸い込まれるような気さえした。


闘技場。

中央通りを少し東に抜けた所に存在するのだが、出場するには仲間が必要との噂だった。

金網での戦いは過酷さを彷彿とさせるが、金を得るには手っ取り早いわけか。


「アンタは出ないのか?」


「僕は出禁だよ。絶対優勝しちゃうから」


恐るべき男だった。

それに強さへの奢りが感じられない。

口調は穏やかで、彼はボロボロの布切れを巻いていたがそれすらもファッションと化していた。

アニキが言った。


「もう直ぐ君の仲間が此処に通りかかる。その三人で闘技場に参加するんだ。きっと道は開かれる」


暫くすると本当にフォックスとクロウらしき人物が通りの向こうから現れた。


「死なないで」


もう一度見た時アニキは消えていた。

スラム街に帰ったのだろうか。

気づけばもう少しアニキと話していたかった自分がいた。

まあでも彼のアドバイス通り、闘技場に参加しよう。

いつか「アニキ」に追いついてやる。

見ればレインとホワイトロックも此方へと歩いてきていた。

集合するなり、フォックスが口を開いた。


「これが俺の旧友クロウだ。翼があるので飛べるぞ。武器は見ての通り剣と盾」


頭は人間の姿をしていたが半分鳥人という言い方で差し支えなかった。

闘技場に出よう。

俺はいきなりフォックスとクロウに切り出した。

クロウは物静かな印象で、頬から首筋へと続く炎柄の入れ墨はイカツかったが、特別悪人面をしてるわけじゃなさそうだった。


「良いだろう。いつまでもそのふざけたちょっとダサめの紳士服着て一緒に歩かれたらこっちが恥ずかしいからな」


コレ学生服!

まあ鎧が必要なのはお見通しだった。

それにしてもフォックスの口調がやや攻撃的なのは今に始まった事じゃない。

クロウも参加には抵抗がなかったようで、これでアニキの助言通り実行か。


それにしてもホワイトロック以外に裏魔法が使える人がいたなんて。

よく見れば腰に肌色のひょうたんのほかに剣も佩いてたし、アニキが闘技場に出禁なのはよく分かる。

いつかまた会えるかなー。

恋心とはちょっと違う、でも確かな関心が俺の中で彼へと向けられていた。


まあでもクロウさん優しいなー。

俺の二つ歳上くらいか?

フォックスから話は聞いていただろうが、会ったばかりの俺に助太刀してくれるなんて……。

金網での戦いに恐怖が無いと言えば嘘になるけど、男として乗り越えなきゃな。


俺達五人がスラム地域から離れ中央通りに出た時、クレラとアスカちゃんが目に留まった。

これで冒険を共にする七人が揃った事になる。

クロウについては知らない事だらけだが、これから知っていけばいい。


(アニキ……いつか強くなってからもう一度会いに行くよ。今の俺じゃあアンタを誘うには役不足だ)


よく見ればクレラがいつもにも増してニコニコしているのが分かった。

どうしたんだろう。

アスカちゃんとの会話がそれほど楽しかったのか?

まあいいや……深くは詮索しないでおこう。

それより俺は闘技場での戦いに意識を集中しないと。


「闘技場の敵ってどんな奴ら?」


俺は歩きながらフォックスに尋ねた。


「ただの囚人から二メートル超えのトロールまで色々だ。俺が観戦した時の敵はオークだったな」


トロール、オーク。

昔読んだファンタジー本にも出てきたなー。

オークと言えば緑色の皮膚をしたゴブリンのデカい版で、武器や防具を身に着けがちだった。


「え、ソラ闘技場に出るの?」


とアスカ。

普段はツンツンしているが心配してくれるのだろうか。

クレラの方は俺を信じ切ってるって感じだ。

俺の代わりにホワイトロックが出場すれば勝率は恐らく上がるだろうが、自分の鎧は自分で手に入れないと。

まだアスカちゃんの怪力は未拝見なわけだが、旅をするにつれいずれ目の当たりにするだろう。


おっ、闘技場が見えてきた。

女子三人が見る中勇敢なとこ見せねーと。

ラグビーでの経験を活かす時!


俺達は受け付けに足を運んだ。

闘いは夕方からでそれまではアーディスに待機か。

ホワイトロックの着ている鎧は俺が着るには小さいようで、本当に学生服で出るしかなかった。


「それにしても……私のハープの音をシャットアウトしてみせた奴初めて見たでな」


レインは「アニキ」の事を言っているようだった。

アニキ……アンタの助言通り俺は鎧を手に入れてみせる。

闘技場はどうやら王も観戦するようだった。

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