第四話「君が居れば」
朝。
フォックスはもう居なかった。
こうなったら街を探索してみるか。
俺はグーッと伸びをし、立て掛けてある大剣ソーイアロに手を伸ばした。
ほんとラッキーだよな冒険の序盤で英雄の剣を手に入れられて。
フォックスが触ると火花が散るみたいだけど。
フフッ、取り敢えず宿屋を出てみよう。
久しぶりに腹も空いてきた。
宿屋に朝食のサービスは無かったようで、俺はクレラを求めて噴水広場に足を踏み入れていた。
あの薄緑色の豆は一日分の腹を満たすようだけど、せっかくだから異世界の一般的な食事を摂ってみたいな〜。
流石に日本食には遠く及ばないだろうけど。
噴水広場にはターバンを付けた黒人がいた。
アルテマって砂漠もあるし若干アフリカっぽいんだよな。
まあゲームの世界だし黒人がいても何らおかしくない。
クレラも黒人と白人のハーフみたいな肌の色してるし。
「こんにちは、善なる人……お会いできて光栄です」
「あ、どうも……」
黒人は中々筋肉質だった。
身長も百八十センチはある。
それなのに腰が低いのは見かけによらずと言ったところか。
善なる人……って俺の事だよな?
異世界人だから大剣が抜けたはまだ納得がいくけど、俺というゲームユーザーが善ってどう判断してるんだろう。
「もうすぐ騎士団長エリザベス様がお見えですよ。因みに私はレダス。以後お見知りおき」
黒人のレダスはやや見窄らしい服装をしていたが、戦闘ではとんでもない力を発揮する可能性もあった。
見ろよこの太い腕。
俺だったらこの人と闘いたくね〜。
「俺、ソラって言うんだ。レダスさんは何処から来たの?」
明らかに歳上のレダスに対し、さん付けで会話する。
どう見ても砂漠の果てから来た事を感じさせる頭のターバンだった。
「リエコスと呼ばれる砂の町から来ました。今日は騎士団を一目見ようと此処へ……」
「エリザベスさんってもしかしてソーイアロの娘?」
「様を付けた方がいいですよ。そうです、その大剣の主である勇者ソーイアロの一人娘です」
ソーイアロの一人娘。
俺も見ていった方が良さそうだ。
リエコスにも向かう時が訪れるのだろうか。
何にせよ騎士団長には挨拶すらしていってた方がいい。
今大剣は自分の元にあるのだ。
「一緒に見に行こうぜ、せっかくだし」
「分かりました。今日は貴方に話しかけて良かった」
悪い人じゃなさそうだけど裏があったら嫌だな……。
って考え過ぎか。
まあ取り敢えずレダスと一緒に中央通りへ……。
既に沢山の人達が花道を作っていた。
「アスカちゃん!」
「フン!」
人集りの中偶然アスカちゃんと遭遇したが、まだ打ち解けていない。
おっ、騎士団の到来だ。
三列縦隊で行進してくる騎士団の先頭を行くのが桃色髪の女性だった。
「アレは?」
「騎士団幹部セレナという女性です。中々強力ですよ!」
レダスは俺が何も知らない異世界人だという事を理解しているかのようだった。
それにしても幾ら俺が英雄の剣を手に入れたとて、この世界に強者は多い。
「見て!エリザベス様よ!」
アスカちゃんも思わず声を上げていた。
え、あの顔何処かで見たことがある。
あ、そうだ!ダンジョンの壁画として描かれた少女の成長した姿なんだ。
ソーイアロの娘エリザベス……へぇ。
エリザベスはセレナと同じで兜は身に着けていなかった。
だが首から下は銀色の如何にも騎士団って感じの装備だ。
雪のような白い肌をした金髪ロングのエリザベスは、俺と大剣を見るなり首を傾げていた。
穏やかそうな人だな〜。
セレナは騎士団向いてると思うよ?
まだ分からんねーけどそれなりにね?
でもエリザベス姫はソーイアロの娘ってだけで無理矢理騎士団を率いさせられている感じだ。
つーかあのオーラお姫様じゃん!
「…………あ……っ」
エリザベスと目が合った俺は昨日に引き続きテンパった。
でもほっとけねぇ。
騎士団は全部セレナに任せるなりして戦いから遠ざけてやらないと。
いやでも権力問題とか色々あるのか?
もし仮にセレナが悪い奴なら全部委任するのは良くないと。
あ〜頭がこんがらがってきた!
でも今日お目にかかれて良かったよエリザベス様、いやエリザベス姫。
魔王がもし復活したら倒すのはアンタらの仕事じゃねぇ。
俺達の出番ってわけだ。
「エリザベス様、元気ないですね」
とレダス。
彼も何か感じ取るものがあったのだろう。
それにしてもレダスにセレナか。
いそうもないバケモノがいるもんだ。
一応仲間になるかレダスに聞いてやってもいいが、何となく彼は単独行動を選びそうだった。
そして騎士団のパフォーマンス。
対魔王復活に向けて、強気な姿勢の現れだ。
「魔王復活阻止に向けて、俺達は具体的に何をすればいい?」
「情報収集は勿論、邪な心を持つ者たちを倒す為に力を付けねばなりません」
レダスは神妙な顔つきで腕を組んで言った。
「そうよ、私のお姉ちゃんめちゃくちゃ強いんだから!アンタも強くなりなさいよね」
ツンデレもここまで来ると可愛く見えてくる。
彼女のお姉さんが何故本名を隠しているか。
いずれ分かる時が来るだろう。
「私は独りで行きます。さらば善なる者とそのお仲間さん」
騎士団のパフォーマンスが終わるとレダスは早々に去っていった。
「そう言えばクレラは何処にいるんだ?」
「早朝から魔法図書館に行ってるわ。今から一緒に行く?」
「おう!」
好感度が高いクレラには今直ぐ会いたかったし、魔法図書館って場所にも興味がある。
それにしてもフォックス……朝起こしてくれてもいいのによぉ。
ってそこまで打ち解けてないか彼とは。
フッ……レインもホワイトロックも優しそうだし、旅の人間関係は一先ず良好か。
俺とアスカはクレラを訪ねるべく魔法図書館へと足を運ぶのだった。
魔法図書館に着いた。
外観はトンガリ屋根の煉瓦造りで、魔法の杖でも売ってそうだった。
アスカと共に中へ。
古くしっかりした重い扉はこのゲームの世界の歴史を彷彿とさせるのだった。
いつ、この世界そのものがテレビゲームだとアスカ達に切り出そうか。
なんか彼女らの存在そのものを否定するみたいで嫌だな〜。
まあ取り敢えず魔法図書館とやらを拝見しよう。
おおっ!紙で覆われた蝋燭が所々に浮いている!
本も千冊以上はありそうで、本棚へと続く階段が読者の意思によって左右に動くようだった。
クレラは何処だろう?
千冊以上が貯蔵されているとはいえ、この図書館はそれほど巨大な建物ではない。
直ぐに見つけられるはずが、クレオパトラ似のオーラの持ち主が見当たらない。
アスカちゃんの顔色が曇った。
「コレ……もしかしてクレラの残した金の粉じゃないか?これを辿っていけば彼女に会えるかも」
俺はクレラが最初現れた時に発した金の粉と同じ物を、図書館の床に発見した。
粉はずっと外の方に点々と続いている。
「間違いない。行こ、ソラ君」
出来ればフォックス達を連れていきたかったが、時は一刻を争う。
この広いアーディスで仲間と鉢合わせする可能性の方が少ないのだ。
俺達は図書館を出た。
いつか其処で魔法を勉強しても良いだろう。
だが今はクレラがピンチだ。
絶対に助け出す!
若干額に汗を浮かべながら俺は歩道を辿った。
クレラはもはやゲームのキャラなんかじゃねー!
俺の運命の人だ。
早足で行くに連れてアスカちゃんの顔色が益々悪くなった。
「コレって……貴族の館に続いてる……」
「一般人は行けねーのか!?」
「ほら、左右に騎士が並んでるでしょ?あそこから先は貴族や王しか行けないの」
「理由を話して入れてもらおう!」
「無理だよ。我々一般人の事情なんて聞いてくれっこない」
「だけどよ……!」
これは誘拐事件だった。
それにしてもクレラほどの魔女が捕まるなんて!
よっぽど油断していたに違いない。
そこへあの騎士団幹部のセレナが現れた。
一か八か彼女に聞けば……!
「セレナさん、騎士団の行進感激しました。あの……俺の連れが誘拐されちゃって……セレナさんの力で貴族の館に入れてもらえませんか?」
もはやカッコ悪いなんて言ってられねぇー。
多少媚びてでも貴族の館に入れてもらわねーと。
「そうか。騎士団である私の力を借りたいのだな?良かろう、このセレナ直々に貴族の館に押し入ってみせよう。来い!」
これは予想外の展開だった。
運良くセレナさんが通りかかって助かった!
それにあの騎士団のパフォーマンス拝見しててホントに良かったよ……!
「通せ」
とセレナの一言で門番の二人は道を開けた。
さあ、貴族の住宅街だ。
粉が続いているのはあの白い館で間違いねぇ。
俺はセレナがどう押し入るか気になっていたのだが、何とノックもせずに館に突入する形となった。
正義感が強くかなり好印象だ。
騎士団だから一緒に旅をとはいかねーだろうけど。
図書館の二、三倍はある立派な館だ。
洋風な外観だったが、中も絵画が掛けてあったりと中世ヨーロッパを彷彿とさせる。
「粉は隣の部屋へと続いている……ん?霊的なモノの気配が」
流石歴戦の猛者。
霊の気配すら直ぐさま察知か。
「居合……斬り!」
セレナは一度低く構えてみせて、剣を抜くと同時に斬り掛かってみせた。
その刃、霊すら斬り裂く。
それにしても此処は幽霊屋敷なのか?
昼間なのにカーテンは閉まったままだし、セレナの言う通り確かに幽霊の微かな気配はした。
とにかく隣の部屋に急がないと。
「クレラ!」
リビングらしき隣の部屋のソファの上に、クレラは居た。
彼女が無事で良かった……いやコレはまだ恋人って意味の「彼女」じゃなく……何にせよ本当に怪我もなくて一安心だ。
「図書館で会った幽霊さんに誘われて貴族の館に飛んでいったの。皆とっても優しいよ」
先程隣の部屋でセレナさんが霊の一人をぶった斬った、アレは無しだ。
「セレナさん。今日はご迷惑をおかけしました。今直ぐ貴族の館から立ち去ろうと思います」
「せっかくだから名前を聞いておこうか」
「ソラとアスカです。こっちはクレラ」
「君達がこの館に押し入った事は内密にしておく。行け!」
俺達はセレナさんに礼を言い、貴族の館を跡にした。
それにしても彼女、若干男っぽいけど良い人だったな〜。
所持していた剣も大剣ソーイアロよりは小さいにしても中々のスペックを誇っていそうだった。
「おいクレラ、心配したんだぞ!」
「うー、だって幽霊さん達優しかったから」
「そういう問題じゃなくて!」
俺達は貴族ゾーンから一般ゾーンへと舞い戻り、この世界の秩序がセレナら良き騎士団によって保たれている事を思い知ったのだった。
「朝飯にしよーぜ。時間的にはもう昼か?」
「うん!」
クレラはマイペースで我道を貫くみたいな所がありそうだ。
完璧な人間なんていないって事か。
アスカちゃんのお金が大好きってのも言ってしまえば悪い所だし、俺だって欠点はある。
頑固に危険を顧みず自分の信じた道を行く。
いつか彼女のこの特徴すら、愛おしいと思う日は来るのだろうか。
「異世界人だからこの世界でのお金ないんじゃないの?もう信じらんない」
「ハハッ、出世払いな」
アスカちゃんともこれから打ち解けていけそうだ。
俺は王が住むとされる丘の上の城へと振り返った。
セレナの上司のエリザベスを部下に持つ人物。
いつか拝見する日も来るのだろうか。
俺達の身分の低さを恨むことないさ。
レストランで爆食だー。
俺は出世払いの名目のもとら美女二人と昼食を堪能した。




