第三話「集う仲間」
暫く砂漠を歩いていると動くサボテンに囲まれている人影が見えた。
動くサボテンとは当然モンスターの事で、小さいながらも七、八匹はいる。
この砂漠を進むにあたって度々目にしてきた通称「サボテンマン」と呼ばれる奴らだが、あれだけの数に囲まれては命の危険すらある。
「助けよう」
俺はフォックスらを説得し、旅人の元へと向かった。
最悪水に困ってるならクレラの水魔法がある。
旅人はなんと虹色の派手髪で、手にはハープのような物を持っていた。
吟遊詩人なのだろうか。
だとしたら音楽の先輩にあたる可能性が高い。
何にせよ、困っている人は助けないと。
威圧感のあるフォックスを先頭に現れた俺達を見て、サボテンマン達は逃げていった。
飛び跳ねながら移動する彼らは一見可愛いのだが、優先すべきは同じ人型の旅人だった。
「いやー助かったでなーありがとー!」
何だか明るい人だな。
どういう遺伝子を継いだらそういう髪色になるか分からないが、まあゲームの世界だからな此処は……。
金髪をベースに赤、青、緑の線がある。
身長は俺より少し低めで、服装は薄手の青の上下だった。
「俺達アーディスに向かう途中なんだ。君、名前は?」
「レインだよー。私の家もアーディスにあるでなー」
主語は私だが、れっきとした男性だった。
自己紹介を済ませ、俺達は一緒に主要都市に向かう事になった。
それにしても眠い。
俺の体内時計はとっくの前に寝る時間を迎えているはずだ。
「ちょっと岩陰で休んでいいか?クレラ、俺とレインに水魔法をぶっかけてくれ」
レインは九割方飲み物を欲しているはずだった。
つーか眠さ故に言動が雑になる。
俺はレインの了承を得ないまま彼の横に立った。
「え、大丈夫?まあ、私はいいけど……水魔法、水激流!」
消防車のホースから出るような激流が俺とレインの顔面に直撃した。
「うぉっ、タイムタイム!ちょっ……止めて!」
俺の学生服はビショビショになった。
だが、かけてほしいと言ったのは俺だ。
クレラの水魔法を舐めてた。
よく考えれば火炎弾の水版だろ?
対象の命を削るような魔術の一種だ。
「ゲッホゲホ」
レインも水を口に含んでしまったようだ。
歳は二十二、三と言ったところか。
「ごめんよレイン。ところでハープの演奏出来るの?」
「まあ一応ねー。吟遊詩人の端くれとして飯食ってるよ」
とレインはハープを演奏してくれた。
綺麗な音色だ。
端くれとはかなり謙遜してるな。
何処か気力すら漲ってくる。
「馬鹿な事してないでとっとと行くぞ。まあそのハープの音はエネルギーを生み出すようだが?」
と腕を組むフォックス。
俺が眠いのには気づいているようだが甘やかしくてくれない。
いやアーディスに着けばフカフカのベッドで寝られる可能性も高いわけか……。
それにしてもレインとは音楽の話が出来そうだ。
音楽を高校から始めた俺にとって、彼は先輩的立ち位置である事は確実だろう。
それだけポロンポロン……と鳴らすハープは心を打った。
「アーディスと言えば心当たりのある友人が一人いる。入れ墨のクロウという男だ。もしかしたら旅に同行してくれるかもな」
フォックスの友人クロウ。
入れ墨と聞いて良いイメージはあまり浮かばなかったが、先入観に囚われるべきではないかもしれない。
「私は実は幼馴染のアスカちゃんと再会するためにアーディスを目指してて、今ならアスカちゃんのお姉ちゃんもいるかも」
アスカか……。
なんか日本人みたいな名前だな。
そもそも元の世界に帰る為の旅なのにこれじゃあ一層帰りづらくなる……ん、な、何だ?
震度三くらいの地震のような揺れ。
それになんか嫌な感じだ……。
空が一瞬紫色になった気すらした。
「先を急ぐぞ、ソラ、クレラ、レイン!魔王復活の時が近づいているのかもしれん」
「まさか」
顔色を変えたのはクレラだった。
クレラの父が命と引き換えに倒した敵。
それの復活が近づいているとなると、当然心に刺さるものがあるだろう。
「此処からアーディスまでそれほど距離があるわけではないでなー」
「ふわぁ……分かった。早く行こうぜ」
欠伸をした俺はフォックス達に続いた。
魔王の復活……ゲームとしては有りがちな展開だった。
「アスカちゃんってどんな人?」
「え、気になるの?そうだなぁ……普段はツンツンしててお金が大好きなんだけど、本当は情に厚いって言えばいいのかな」
ツンデレか。
アルテマの女の子はポテンシャルが高い。
それにアスカのお姉ちゃんもいるわけだろーって俺のクレラへの恋心どうした!
俺だって年頃の高校生。
いや高校生だからこそ一途なのが普通なのかもしれない。
図書館で見かけた恋愛本で彼女が出来るまでは複数にアプローチしろって書いてたけど、それと同じ事しようとしてたわけだ俺は。
つまり心に余裕を持たせろと。
まあ俺も人の子ですよ、と。
砂に若干足を取られながらトボトボ歩く。
正確に測った訳では無いが、もう二十時間以上起きっぱなしだ。
俺ロングスリーパーなんだよな。
それに今日は色々あり過ぎた。
「日が完全に暮れるまでにアーディスに着きたいね」
とクレラ。
先程のレインのハープの演奏がなければ俺達は今頃座り込んでいただろう。
「おんぶしようか?」
「え、いいよいいよ。ソラ眠いんでしょ?」
「バレてたか……」
「当たり前。欠伸大き過ぎ」
「ハハッ」
アスカとやらを気にかけた代償。
二人だけの想い出をとも思ったのだが、今回は都市への到着を優先だ。
俺達四人は砂漠を越え、アーディスが見えてきた。
何やらデカい門があるようだ。
モンスター達から民を守る為か。
ゲートの左右に立つ重装備の門番にはレインが説明し、俺達は主要都市アーディスへ足を踏み入れる事となった。
夜。
俺達は噴水広場を通り過ぎアーディスの宿屋に到着した。
レインは「また明日」と自身の家に帰っていき、フォックスはクロウという名の者の家へと消えた。
宿屋のエントランス。
そこでクレラによって引き合わされたのは、アスカとそのお姉さんだった。
低いテーブルを挟んで向かい合うソファ。
アスカちゃんはストレートの長い黒髪で、お姉さんはウェーブの白髮だった。
まだ若いのに白髪なのは何処か魔法使いらしさを感じさせる。
先にアスカが口を開いた。
「私アスカ。どういう事なの?私とお姉ちゃんがこんな男に引き合わされるなんて」
アスカちゃんは白のカーディガンに黒のミニスカを履いていた。
それにニーハイっていうのかな。
タイツみたいな長いソックスを履いている。
そしてクレラの情報通りツンツンしていそうだった。
「私は本名を隠してるの。『ホワイトロック』って呼んで。あと私が白髮なのは……その……魔力の使いすぎで」
お姉さんの方がとっつきやすそうだな。
動きやすそうな藍色の鎧を着ている。
言わずもがな戦闘力は高いだろう。
アスカちゃんは同い年くらい、ホワイトロックさんは二十歳くらいに見えた。
俺の隣にはクレラが座っており、のんびりコーヒーを飲んでいる。
宿屋の使用者とその連れは飲み物をサービスして貰えるようで、俺は今晩この宿屋に泊まる事になっていた。
因みにクレラは彼女ら姉妹の家に一泊する事になっている。
「俺の名前はソラ。あ……よ……よろしく!」
美女三人に囲まれるような経験も十七年生きてきて無かったのでテンパらざるを得なかった。
アスカちゃんがゴミを見るような目で見てくる。
クレラの幼馴染って言ってたけど、あまりクレラと似てないな……。
まあでも関わっていくうちに良い所見つかるかもしんねーし。
「俺今日から大剣使いになったんだ。君達はどういった戦い方をするの?」
正直美女三人に囲まれて眠気は若干引いてきていた。
でも、俺はコーヒーは辞めとこう。
眠れなくなったら明日しんどいし。
「私は普段は弓使いをしているの。ごめんこれ以上は控えさせてくれる?」
「私はモンクよ。何か文句でもあるの?」
これはアスカちゃんが言うから面白い。
他のやつが言ったらクソつまんねーけど。
俺は笑みを浮かべながらアスカちゃんが素手でバッファローと戦っている所を想像した。
うーむ是非とも仲間に加えてお目にかかりたい。
「実は魔王復活の時が近づいてるとの噂なの。それでクレラを呼んだんだけど、その大剣『ソーイアロ』だよね?一緒に魔王復活を阻止しに行かない?」
ホワイトロックは真剣な表情だった。
何処か男気があって尚且つ真面目そうだ。
アルテマでのゲームクリアは俺の日本への帰還に直結する。
断る理由は無かった。
それにホワイトロックさんかなり頼もしそうだ。
クレラもあのモリガンって男の娘で将来有望だった。
もしかしたらアスカもあの細い腕で怪力なのかもしれない。
フォックスやレインといった者たちもいるし、魔王復活阻止の為の仲間達は皆どこか頼もしかった。
でもアレだろ?結局復活しちゃうんでしょ?
ゲームのシナリオとしてはそれがセオリーだが一応真剣に頷いてみる。
そもそもこの世界をゲームの世界と認識しているのは俺だけだった。
死と隣り合わせだけど別にそこまで帰りたくねーな。
あれ、俺ニヤけてない?
現実の世界ではマジで巡り会えないような美女三人と対面して、若干顔が赤くなっているかもしれなかった。
(あーもう!高校生なんてこんなもんですよ)
俺を見るクレラの目は微笑んでいた。
取り敢えず今日は宿屋で寝る!
凄まじい一日だったけど、魔王復活阻止の流れで身を任せよう。
俺達が解散しようとした時、宿屋の戸が開きフォックスが入ってきた。
「クロウは留守だった。俺も今夜は宿屋に泊まろう」
女子達は家に帰っていき、俺は二階のベッドに横になるのだった。
部屋数の関係でなんとフォックスと相部屋だ。
「俺も魔王復活の阻止に向けて旅に同行してやる。だが俺の目的は悪魔でその大剣だ。それを忘れるな」
フォックスのような亜人達に差別とまではいかないにしろ、種族間の問題がありそうなのは宿屋の店主の反応で分かった。
クロウって人ももしかして鳥人……?
真実は定かではないが、俺は若干フォックスに同情した。
大剣ソーイアロ……。
英雄の剣が異世界人である俺を選んだのは確かだ。
でもフォックスのそのサーベル、似合ってるけどなぁ。
何にせよこのフォックスにしろ、あのレインにしろ、対魔王復活に向けて動いてくれそうなのは確実だった。
俺が日本に帰るが最優先事項だが、このアルテマの平和を望んでいる自分もいた。
それはクレラを始めとするキャラクター達が人間味溢れるからに他ならない。
聞けばフォックスは予想通り二十歳だった。
何処か孤独を匂わせる彼にクロウという名の仲間がいたのは幸いと言うべきか。
(ふわぁ……今日はもう寝よう)
こうして俺のアルテマでの一日目は幕を閉じた。
明日からここアーディスを拠点とした冒険が始まる。
情報収集、モンスター討伐、時には金儲けでさえ行われる事が予想される。
アルテマサーガは始まったばっかりなのだ。




