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ARTEMA SAGA  作者: ロゼオ
第1章 冒険の始まり
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第一話「クレラとの邂逅」

「いや…………その……さ。腹減ってたから」


「あ、お腹空いてたの?」


あれ、案外すんなり機嫌が変わった。

純粋で優しい印象だ。

でも、まだ分からない。

特に女の子は。


「何か食べ物ある?」


「丸一日お腹を満たす豆ならあるよ」


「それでいいや。ありがとう助かった!」


俺は少女がポケットから取り出した豆を受け取った。

薄緑色で枝豆みたいだ。

でも少女は金色の粉から化けて現れた。

一日腹持ちするという破天荒さくらい嘘じゃないだろう。

豆を口に含む。

すると本当に胃の中で膨張している感じがした。

流石は異世界の豆、何処の薬局にもこんなの売ってないぜー。

俺は感心しながら自身のお腹をポンポンと叩いた。


「此処は……魔法の世界なのか?」


「うん。私魔女だよ」


「名前は?俺、ソラって言うんだ。歳は十七」


「クレラ、十六歳」


身長は百六十センチくらいで、化粧のおかげかちょっと大人びて見えた。

それにしてもこの世界で最初に出会う人が魔女だなんて……。

俺はクレラの放つ独特の雰囲気に若干呑まれつつも、言葉に詰まらないよう会話を続けた。

まつ毛が長く、チークの化粧もキュートときている。

アイラインは緑色で髪はボブという表現が一番近かった。


そう言えば俺の顔については話してなかったな。

結構ハーフ顔で濃いめだ。

しょうゆ顔ってやつなのか?

よく分からんが眉毛は綺麗に太い。


と、とにかく!

少女にどうすれば元の世界に帰れるか聞き出さないと。

いきなり聞くのも失礼だよな?

せっかく巡り会えたわけだし。

先にこの世界の成り立ちでも聞いてみよう。


「この世界は魔王ラグナロクによって創られたんだよ。邪悪が蔓延る世界だった。その時代を終わらせたのが私の父モリガンと勇者ソーイアロ、そして竜騎士アレサンドロ」


魔王か。

如何にもゲームの設定って感じだな。

そして竜騎士といった単語は、厨二心を(くすぐ)らないでも無かった。


「父モリガンは魔術師の長で、ソーイアロは騎士団の団長だった。アレサンドロの跨る竜は銀色の鱗の巨竜だった。三人は持てる力を全て出し切って魔王を殲滅したんだけどそれと同時に亡くなったの」


「クレラの親父スゲーなぁ、ってか亡くなっちゃったのか〜」


「うん……まだ私が産まれて間もない頃の話。シングルマザーに育てられて今年から独り立ちしたの」


「恐ろしくしっかりしてるな。俺なんかコンビニのバイトでやっとなのに……」


「コンビニのバイト?」


「何でもねぇ気にすんなって」


「もしかしてソラ、異世界から来たの?」


「まあな。帰り方が分からなくて困ってんだ」


「それならこの国の主要都市『アーディス』に訪れたら?何か分かるかもしれない。私もこれから向かう所だったの。一緒に行こ」


主要都市『アーディス』か。

騎士団なんかもいるのかな?


「その前に武器を手に入れたいね。この近くには英雄ソーイアロの大剣があるよ」


さっき言ってた三人組の一人だな。

武器のスペックにしては申し分なさそうだ。


「そうと決まれば早速大剣を探しに行こうぜ!クレラちゃんがいて心強いよ」


俺は頭の後ろで手を組んで言った。

それにしてもクレラとは高校で話す女子の誰よりも波長が合う。


フフッと笑うクレラ。

十六歳にしては賢そうだし何より心が綺麗な感じがする……この……相手を尊重する感じ。

実は何処か俺に似てんのかな……。

まだ話して数分だけどピンと来るものはある。


そもそも俺は面食いだが、顔だけで恋に落ちたりしない。

価値観等を含む「性格」も恋を大きく左右する。

そして頭の良さ。

馬鹿な異性と話してると「あ、コイツ駄目だな」ってなる。


小学校の時はとにかく可愛い子が好きだった。

中学、高校と進むに連れて今のような判断基準に変わったんだ。

理想高いのかな。

いや、そんな事ないぞ。

俺は異世界に来て一人目の女性に恋心を抱き始めている。

鳥の導きがあったとはいえ、偶然にしては運が良すぎる。


この世界って「アルテマ」って言ってたよな。

アルテマではこんなにスペックの高い女子ばっかなのか?

いやでも相性、共通点に関してはゲームのキャラにしては出来すぎている。

何にせよ俺はこのままクレラと旅をしていきてぇ。


人生初の彼女はクレラであってほしい。

俺の脳内はそこまで飛躍していた。

男子の恋心は燃え上がるのが速いとはよく言ったものだ。


「私魔女だから魔法使えるんだよ。この世界には七種類の魔法があって、それぞれ攻撃系の黒魔法、回復系の白魔法、能力低下の青魔法、能力上昇の緑魔法、時を操る時魔法、モンスターを召喚する召喚魔法、そして禁術である裏魔法だよ。私は黒魔法と白魔法しか使えないんだけど、パパは裏魔法以外の全部が使えたみたい」


「へぇ~魔女ってカッコいいな!俺が剣士になったとしても魔法を齧る事は可能なの?」


「もちろん!ソーイアロは青魔法も使えたみたい」


気づけば椅子に座って談笑していた。

此処から少し太陽の昇る方角、東に行った所にダンジョンがあるそうで、そこの奥に大剣ソーイアロはあるそうだ。

ダンジョンか〜敵もいるのかな。


草原に放り出された俺が先ずクレラちゃんと出会えたのは本当に運が良かった。

黒魔法はアレだろ?

ファイアボール的なやつだろ?

そして白魔法で傷を治癒する……。

うん、とんでもなく頼りになりそうだ。

出来ればアーディスって場所に着いた後も一緒に居たいけど……それを決めるのはこれからの俺次第ってわけだな。


ここは剣と魔法の世界アルテマ。

そこで紡がれる「アルテマサーガ」の一ページが刻まれようとしていた。



さあ、ダンジョンに向けて出発だ。

俺はクレラの魔法で革靴を出してもらった。

彼女が「フッ!」と力を込めると手の平から金の粉が飛び出し、それが茶色の革靴に姿を変えたのだ。


「それなら武器も魔法で出せるんじゃないの?」


正直人間離れした魔法の力に感服していないわけでもなかった。

これがこの世界の魔女の力……!

元の世界に帰るまでにクレラから魔法を習うのもアリかもしれない。

ってそれは図々しいか。

何にせよ俺は大剣使いとして行く方向で既に大方固まっていた。


「木の棍棒くらいなら出せるけど……」


やはり大剣ソーイアロを手に入れるのは必須かもしんねぇな。

だが丸腰だと心配なので木の棍棒を一応出してもらう。

長さ五十センチ程の硬めの木で出来た、特に変哲のない棍棒だった。

だが感謝していないわけではない。

何より今から自分のためにダンジョンに寄り道してくれるなんて、出会ったばかりの男に普通する事ではない。

もしかしたら彼女も俺に特別な何かを感じたのかもしれない。

何にせよ十七歳にして俺の恋は本格的に動き始めていた。

優しさと美貌を兼ね備えた彼女は、明らかに自分の中で恋愛対象に値した。

でも焦る事ないさ。

そんなガツガツいったら引くかもしんないし。

徐々に絆を深めていったらいい。

俺達はクレラの木の家を跡にし森を進んでいった。


仮にこの世界ですべき事を果たしたらクレラとは二度と会えなくなんのかな。

当然なんだろうけどそれは凄く寂しいな。

俺の通ってる高校の女子は不良とつるんでばっかだ。


そんな事を考えながら俺達は森を抜け、小さな山への緩やかな上り坂に差し掛かった。

道には草が生えていたが、靴無しだったら今頃足の裏を怪我していただろう。


(ん?何だコレは)


見れば緑色の皮膚をしたゴブリンの死体だった。

道のド真ん中に何故……?

もしかしたら、もしかしたらだけど、これから行くダンジョンには先客が?


「サーベルに刺し殺されてる。返り血はダンジョンの方向に続いてるね」


サーベルとは武器の一種だろう。

先に英雄の剣を取られるのは避けたい。

なんてったって伝説の三人のうちの一人の遺した武器だぜ?


「どうする……?」


俺はクレラの整った顔を見つめた。

正直彼女を危険に晒したくない。

武器を扱った先客は人間である可能性が高いわけだが、クレラを見て犯罪を企てる可能性も無視できないのだ。

踊り子の衣装刺激が強いよー。

もう魔女らしくローブにでも着替えたら?

俺は彼女の次の言葉を待った。


「異世界からの訪問者はこの世界アルテマでの救い主だというソーイアロの遺した予言があるの。やっぱりその言葉無視できない。先客と話し合ってみる価値もきっとある!」


英雄の遺した予言か……。

俺が救い主に値するとは今のところ思えないけど、ゲームの主人公的立ち位置って事か。

ゲームの王道パターンでは魔王が復活って可能性も無視できないし、怪我が酷かったらこの世界でも俺は死を体験する仕組みになっているだろう。

この血まみれのゴブリンの死体がその事を鮮烈に物語る。


もしかしたら異世界人だからクレラは俺に手を貸したのか?

そうだとしても俺の恋、諦めないもんね。

もし救い主なのだとしたら俺のこの世界での伸び代は計り知れないわけだし、そんな肩書きなくったっていい。

現に俺は彼女と二人っきりで行動できてるわけだし、ゴブリンの死くらいでビビる事ねえ。


ゴブリンと言えばゲームでも最弱クラスなわけだが、舐めてかかると痛い目見そうなのは確かだった。 

この世界アルテマは二次元じゃねぇ。

明らか痛みや熱を伴うリアル極まりない場所だ。


「ソラって異世界では何してたの?」


「バンド。ボーカルとして歌ってたんだ。まあでも歌い始めて一年半だからそこまで上手くはねーけど」


「この世界にも吟遊詩人といった職は存在する。アーディスに行けば会えるかもね」


「なるほど……」


「ダンジョン、行くよね?」


「おう!この棍棒で出来るだけの事はするよ」


俺達は道を再び歩き始めた。

あのゴブリンの死体は恐らく最近のものだ。

緊張しない訳がない。

それでもクレラは立派な魔女で、覚悟を決めて彼女を棍棒でサポートするしかなかった。


平和な日本での生活に比べ、此処は死と隣り合わせだ。

ラグビーでの経験が役に立ちそうなのは言うまでもないが、ハッキリ言って俺の歌が例えばモンスターを眠らせるみたいな事は出来そうもない。

まあ自分で自分の可能性も狭める事もアレだけど。


そんなこんなで俺達はダンジョンの入り口に到着した。

山にできた洞穴って感じだ。

入り口の左右に篝火が灯してあり、この先にゴブリンを殺した先客はいるようだった。


でもゴブリンって普通敵だよな?

敵の敵は味方ってならなくない?


下り階段はずっと奥まで続いていたが、今の今まで英雄の大剣が盗まれずに残っているのもおかしな話だった。

もしかしたらだけど、強力なモンスターが護っているとか……。

有りがちな設定だった。

だが、もう来るとこまで来たんだから仕方がない。

クレラは賢そうな子だ。

大剣を手に入れられる勝算があるから来たに決まってる。


俺達は立派な石の階段を降りていった。

所々蜘蛛の巣が張ってて不気味だ。

何だよビビる事ねえー!

確かにラグビー時代の前半はビビり散らかしてたけど、女の子を護る為なら話は別だ。

異世界人について予言を遺した英雄ソーイアロの大剣。

俺と縁があるに決まってる!

階段を降りきった広い空間に、先客はいた。



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