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ARTEMA SAGA  作者: ロゼオ
第1章 冒険の始まり
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 間話「アニキの旅立ち」

スラム街のアニキのもとに、メガネっ子のナギサ以外にも客人が来ていた。

ナギサは今朝此処に来て以来一向に引き下がりそうにない。

弟子にして下さい、の一点張りだ。

キツイ言葉をかけるのもあれなのでタジタジしていた所に王の使いが来たのだった。


「この国で巨竜に跨るハウルと対等に渡り合えるのはセレナ率いる十名以上の騎士団、そして貴方様しかおりませぬ!旅人のハイディス等何処の国にも属さぬ状態。事は早急さを要します!」


アレサンドロの乗っていた巨竜に跨るガゼドの者。

竜は基本百年以上生き、あの銀竜もまだ元気な筈だ。


風の噂であの異世界人の名はソラだと聞いていた。

彼も東へ旅立ったわけか。


王の指令による他国への旅立ち。

スラムに住む慕う者達は置いていくことになるだろう。

ならナギサはどうか。

聞けばソラ達に断られたという。

この年齢で時魔法を齧り、芯も通っていそうだった。


アニキは遂にナギサの熱意に押し負け、彼女と二人で旅立つ事にした。

翼の生えた獅子「フライングレオ」を召喚魔法で召喚し飛び乗る形となる。

フライングレオの体長は三メートル程で、野生のものはブルーバッファロー等を主食としていた。

金色に輝き、中々神秘的な猛獣である。


アニキは地上にその姿を現し、フライングレオを召喚した。

ナギサが尊敬の眼差しで見てくる。

悪い気分ではなかった。

それよりも王の命令で動かざること山の如しの自分が動いた事はこの国とっては衝撃だろう。

それだけあのソラには何か感じるものがあった。


翼の生えた金色の獅子に跨り、ナギサを後ろに乗せた。

「ありがとうございます!」と中々礼儀正しい娘だ。

王の命令にすら滅多に従わない自分があろう事か弟子を持ち、他国へ旅立とうとしている。

人生は一度きりなのだ。

今年二十三歳になっていたアニキはアーディスを飛び立つ前にフーッと息を吐いた。


ソラ達とは別行動になるだろう。

それでいい、元々群れるのは性に合わない。

道中でもう一人くらい男を迎え入れたら、それ以上は旅の仲間を増やすつもりはない。


「アニキ、行っちまうんですかい!」


スラムの者たちが泣きそうな顔で此方を見てくる。


「世話になったね。またいつか会おう!」


如何に自分とて、他国で生き延びられる保証は何処にも無かった。

ここだけの話、腰の肌色のひょうたんには回復薬が入っている。

毒や麻痺にも対応した、独自の調合を経て完成したものだった。


銀竜の裏切りにより「アルテマサーガ」は異様な動きを見せ始めている。

当然だあのアレサンドロの相棒だからな。

自分がアレサンドロの時代に生まれていれば英雄に名を連ねられていた自信はあるが、自分はこの比較的平和な時代に生まれた。


魔王の力が弱まったあたりからこの世界の人口は増加傾向にあった。

若者が多い理由はそこにある。

それでも自分は、名声を得られるだけの器は持っているつもりだった。


まだ冒険を愉しむチャンスはある。

この純粋無垢なナギサを成長させる旅となっていくのか。

師匠なんておこがましい。

彼女には彼女だけの良い所があるだろうし、魔術を教えるならそれの専門をあたったほうが得だ。


剣術にまで手を出し、人はアニキを神と呼んだ。

それでもここ数年間はスラムという日の当たらない所で過ごしている。


飛び立つ、フライングレオ。

スラムで慕っていた者たちが手を振っている。

中には「行かないでくれ」と嘆く者もいた。


夕焼けが赤紫色で綺麗だ。

直ぐにセレナの飛空艇とすれ違った。

彼女はこの自分よりは王への忠誠心も厚いだろう。


草原をスッと飛んでいく。

山々の景色を見たのも数年ぶりだった。


「しっかり掴まってるんだよ」


ナギサが震えていてもおかしくない高さまで舞い上がっていた。

三人目の男。

それ以上は仲間を集うのは止めよう。

この草原にそれらしき人影は見当たりそうにないけど、飛んでいる限りナギサは無駄な戦闘を避けられる。

「レオ」に乗れるのももう一人が限界だった。


アニキのフライングレオは雄だった。

その為立派な鬣が生えている。

召喚獣は基本餌を必要としない、契約を交わした下僕的立ち位置だった。

中には銀竜にも匹敵するバケモノを召喚する者もいる。

伝説の魔導師となっているモリガンもその一人だった。


フライングレオは契約を交わす前は危険な肉食獣だった。

草原に住む人すら喰らうのだ。

途方に暮れていた人々を救う為草原に赴いたのは十五歳の頃だった。


ナギサはその頃の自分以上に若い。

しかも女の子である。

今の自分と一緒とて、他国に赴くのは危険なのに変わりなかった。


「時魔法を極めるつもりなの?」


まだ若いので複数を極める事は可能だが、一応聞いてみる。

時劣化(スロウ)が扱えれば時進化(クイック)を習得するのも容易い。


「そうですね……剣よりは魔術かと!」


ナギサは長い黒髪を縛ってポニーテールにしていた。

恋愛感情は起きない。

九年年が離れてはソラの方に行けと思ってしまう。

あれ、何故ソラに?


英雄の大剣を所持したとて、身体能力も魔術への適性も何とも言えなかった。

だとしたら最後は器なのか。


若い男の割に何処か引っかかるものがあった。

それが優しさなのか器量なのかアニキにはよく分からなかった。

此処まで成長する中で「自分の中で考えが纏まらない」という場面は度々あった。

その中でソラとの出会いは一際異質だったと言える。


「今頃アレサンドロの装備かー」


「え?」


「何でもないよナギサちゃん」


二人を乗せたフライングレオは悠々と草原を越えた。



夜、アニキは東アルテマ砂漠の岩場に降り立った。

火炎弾(ファイアボール)で火を灯し、ナギサに眠るような促した。


ドラゴンに乗ったハウルに、このまま追いつけるとは思えない。

それでもこの人生に意味を見出したかったし、必要があればソラ達と共闘も考えられた。


「アニキさんはいつも困ったように考え事をされます」


アニキさん、悪い呼び名では無かった。

自分の本名はホワイトロックと似たような理由で秘密となっており「アニキ」はいつしかスラム以外の者にも定着していた。


ナギサの純粋な問いかけ。

アニキはこれまた「フーン」と首を傾げると「そうかな?」とだけ言った。

剣術から魔術、薬の調合にまで手を出したが、その為かそこまで女慣れはしていなかった。

女子(おなご)にどう対応したらいいか分からない。


弟子としてなら幾らでも話せた。

教える事を教えるまでである。

だが女友達としてなら話は別だった。

二十三年生きてきて天才の名を欲しいままにしたものの、如何せん恋愛には疎かったのだ。


「ソラさんが気になるのですか?」


勘の鋭い子だ。

ひょっとしたら頭の回転も自分より速いのかもしれない。

アニキは一つ咳払いし「まあ、そうだ」と言った。

うーむ会話が続かない。


それにナギサは結構美人だ。

眼鏡を外し括ってある髪を解いたら案外この歳で色気を発したりするかもしれない。

何を言ってるんだ相手はまだ子供だぞ?

アニキは静かに頭の中で自問自答し、やがて火に薪を足した。


薪くらいなら魔術で簡単に生み出せる。

そしてここらの野生のフライングレオは夜行性に近いとされるので、夜の火の番は必須だった。

アニキの召喚したレオはとっくに召喚獣の世界に戻してある。


一面真っ白な世界だそうだ。

行った事はないがな。

死後の世界もそんな所なのだろうか。

人が生まれ年老い死んでいく。

決して身近じゃない訳ではなかった。

自分にも生きた理由があったと証明する道を選んだのだ。


見るとナギサはスースーと寝息を立てながら寝ていた。

「死に急ぐな」不意にそんな言葉をかけたくなった。

ソラにも確か「死なないで」と声を残した。

死ねば終わりなんだよ。

だが終りがあるから美しいのか?

このアルテマの世界は残酷且つ美しい。

例えばこのナギサのような清き心を持った者さえ、淘汰される可能性を含んでいる。


自分はどうか。

ほぼ独りで他国に攻めるなど無謀である。

不意を突けばハウルを殺せるかもしれないが、敵は彼一人とは思えなかった。

自分は考えすぎると悪い方向に行きがちだった。

あのソラだって旅をしているのだ。

この若い少女を護りながら鍛え、最終的にはソラと手を組んでもいい。


その時、焚き火に自ら近づいてくる影が見えた。

オークか?いや、ゴブリンだ。

ゴブリン程度、片手でひねり潰せる。

だが敵対心は無さそうだった。


「なんだい?」


アニキはゴブリンに声をかけた。

彼らは基本人語を操る。

オークにしても同じ事が言え、闘技場で現れるトロールは話せないといった具合だった。


「ア、アノ、ライオンガ、コワイ……」


ゴブリンにしては善の心を持っていそうだった。

夜の砂漠にはフライングレオがウロウロしていたりする。

彼らの生息地域は決して草原だけでは無いのだ。


「君、名前は?」


「ナイ……ナマエナイ……」


「じゃあナナシと呼ぼう。おいで」


パーティに迎えるつもりは微塵もなかった。

ただ一人っきりで震えているゴブリンへの興味が勝ったのだ。


「アナタ、ツヨイ……」


ゴブリンは両腕と共に頭を下げる姿勢をとった。

ここまで平和的なゴブリンも珍しい。


「此処にナギサちゃんという少女がいる。彼女を襲ったりしないかい?」


「モチロンデス、ゴシュジンサマ……」


ご主人様になった憶えはないが、かなり気は小さそうだった。

この世界で排他的扱いを受けている、ゴブリンとオーク。

その殆どが凶悪且つ凶暴なのだが、如何せん人の上に立ててない。

それだけ人の剣術と魔術は独自の進化を遂げてきたと言える。


ナナシを連れて行くか……。

三人目の仲間がここまで非力な存在になるとは予想だにしていなかった。

ナギサちゃんは伸び代がある。

何せこの歳で時魔法を齧っているのだ。

一匹のゴブリンに対しては完全に救命措置だった。

いいさ、これも何かの縁だ。


ナナシは緑色の皮膚を覆う布切れを身に纏っており、武器は所持していなかった。

火炎弾(ファイアボール)ぐらい教えてみようか?

いや今日はもう遅い……彼と交代で火の番をしよう。


「裏切るなよ?」


もう一度念を押した。

それだけ種族間の壁は確かに存在した。

この世界にはエルフやドワーフといった者たちも存在する。

アーディスに居るような「人間」を頂点としたら、ゴブリンやオークは底辺と言ってもおかしくなかった。


(長い旅になりそうだ……)


明日は獅子を怖がっているフライングレオにナナシを乗せなければならない。

そしてナギサちゃんに時進化(クイック)を習得させないと……。

時魔法は専門外だったが、彼女の習得を早める事なら今の自分には出来た。


「いつか火炎弾(ファイアボール)を教えてやろうな」


黄色い目をしたナナシに言った。

ゴブリンが魔法を使えるなど聞いたことがないが、もし習得すればナナシはゴブリン界のヒーローになれる。

野生のフライングレオへの恐怖も半減する。


「火の番、頼んだよ」


「ハ、ハイ!」


三人目の仲間は気の弱いゴブリンに決定した。

黒魔法を習得できるかは一般的には微妙なところだが、火炎弾(ファイアボール)は自分の専門内だ。

きっと覚えさせてみせる。

眠気に襲われたアニキはそのまま岩場の陰で横になるのだった。


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