届かぬ思い
・・・
気が付くと朝だった。
正夢だろうか・・・
いや、これは正夢だ。
正夢にしなければならない。
そう心に誓う清美だった。
インターハイ女子団体戦当日。岐阜県総合体育館は、全国の期待と熱気に包まれていた。
群馬彩華高等学校剣道部は、苦しい戦いを勝ち抜き、ついに決勝へと駒を進める。
相手は、開催地の期待を一身に背負う県立岐阜商業高等学校・・・夢と同じだ。
会場は、岐阜商業の応援一色に染まっていた。
決勝戦、先鋒の山本が、積極的な攻めを展開。序盤から相手を圧倒し、見事一本勝ち! 群馬彩華に最高のスタートを切らせる。
次鋒の小林も、山本の勢いに乗り、冷静な試合運びで相手を退け、二本勝ち!
群馬彩華が2勝0敗と大きくリードを奪う。
このまま中堅が勝てば、優勝が決まる。会場の群馬彩華応援席からは、早くも優勝を確信する声が上がり始めた。
そして、中堅・佐藤。
ここで勝てば優勝。そのプレッシャーは計り知れない。
佐藤は、相手の執拗な攻めに苦戦する。何度も危ない場面があったが、持ち前の粘り強さで凌ぎ切り、惜しくも引き分けに終わった。優勝決定は、副将戦以降に持ち越された。
副将・東清美。
ここで勝てば、優勝。全ての期待が清美に集中する。
夢は必ず叶う・・・しかし、清美の脳裏には、どうしても個人戦決勝で敗退した時のトラウマがよみがえっていた。
あの時の「負けてはいけない」という重圧が、再び清美の心を縛り付ける。
試合開始の合図と共に、清美は攻めに出る。
だが、どこか動きが硬い。慎重になりすぎるあまり、本来の切れ味が失われている。相手は、清美の僅かな隙を逃さず、鋭い攻めを見せる。
時間が刻々と過ぎていく。このまま引き分けでも、大将戦で勝てば優勝できる。だが、その消極的な考えが、清美の判断を鈍らせた。
残り時間、あとわずか。清美が焦りからか、わずかに体勢を崩したその瞬間、相手の渾身のメンが炸裂した。
「メーン!!」
会場が、一瞬静まり返った後、岐阜商業応援席から大歓声が沸き上がった。
東清美、一本負け。
これで、2勝1敗1分け。再び勝敗が並んでしまった。
大将・田中。
清美の敗北を目の当たりにし、田中は激しく動揺する。優勝決定のチャンスを逃し、再び清美が責任を感じていることが痛いほど伝わってくる。その重圧を一身に背負い、田中は岐阜商業の大将と対峙した。
田中は必死に攻める。しかし、相手もまた、地元優勝の執念で立ちはだかる。
焦りからか、わずかに冷静さを欠いた田中は、決定打を打つことができない。
そして、時間切れ。試合は引き分けに終わった。
結果、2勝1敗2分け。
勝者数、取得本数も全くの同数。
優勝の行方は、一本勝負の代表戦に委ねられることになった。
群馬彩華から選ばれた代表は、主将の田中だった。
疲労困憊の体で、田中は再び道場の中央に立つ。
清美の分まで、絶対に勝たなければならない。そう心に誓い、死力を尽くして戦った。
しかし、延長の末、相手に惜敗してしまった。
その瞬間、再び会場は割れるような大歓声に包まれた。
県立岐阜商業高等学校、悲願のインターハイ女子団体戦優勝!
しかし、群馬彩華高等学校は、またしてもあと一歩のところで全国制覇を逃し、準優勝に終わってしまった。
清美は面を外し、膝から崩れ落ちた。仲間たちが駆け寄り、清美を抱きしめる。
しかし、その慰めの言葉も、清美の耳には届かなかった。
前夜の誓い。個人戦の悔しさを乗り越えるという決意。そして夢の中での優勝…全てが、再びあのトラウマによって打ち砕かれてしまった。
道場の床に、また一つ、熱い涙の跡が刻まれる。それは、歓喜ではなく、再び味わうことになった、深い悔恨の涙だった。




