封印
東清美は、魁星旗決勝戦で一本を先取されたことに対する反省の弁を、監督の前で大声で述べていた。その言葉は、「組織の絶対的使命」「不忠の行為」「甘い精神」といった、自己を極限まで否定する言葉で満ちていた。
言葉を重ねるごとに、秋田への過酷な車中泊、小林の排除、そして涙を流すことさえ許されないという重すぎる戒律が、彼女の心臓を締め付けた。声は叫んでいるにもかかわらず、彼女の目には、堪えきれない悔恨と疲労からくる熱いものが、再び膜を張り始めた。まぶたの奥に押し込んだはずの涙が、今にも溢
れ出しそうになる。
東は、それを必死にこらえながら、最後の言葉を絞り出した。しかし、監督は東のわずかな表情の変化、声の震え、そして潤んだ瞳を、見逃さなかった。
東が「申し訳ございませんでした!」と言い終わった直後、監督は素早く一歩踏み出し、東の頬に容赦ない平手打ちを浴びせた。
バシィッ!
その強烈な衝撃は、長距離移動と疲労で限界だった東の体を大きく揺さぶった。顔に走る鋭い痛みによって、寸前まで溢れそうになっていた涙は、強制的に引っ込み、彼女の目から乾いた痛みに変わった。
監督:
「二度と、その場で、弱さの証を見せるな。お前に与えられた義務は、結果のみだ。」
東は、平手打ちされた頬を押さえながらも、即座に姿勢を立て直した。痛みと屈辱が、彼女の精神を再び硬く締め付けた。彼女に残された唯一の反応は、教え込まれた忠誠の言葉だけだった。
東は、その場から動くことなく、深く頭を下げ、冷徹な声で感謝と謝罪を述べた。
東 清美:
「すいませんでした。ありがとうございました。」
指導の場は、一瞬にして、勝利の喜びも、敗北の悔しさも、そして個人の感情も許されない、冷酷な服従の儀式となった。二つの優勝楯を携えた剣道部は、その屈辱と、新たな使命感を抱え、群馬への長い帰路についたのであった。




