疲労と恐怖の極限の中で
魁星旗剣道大会は、全国選抜に続く連戦であり、選手たちにとって体力の限界を超えた戦いとなった。
バスでの車中泊という劣悪なコンディションで戦う彼女たちの相手には、選抜大会から連続出場しているにもかかわらず、市内のホテルに宿泊し、十分に力を蓄えて臨んでいる強豪校も多かった。
しかし、彼女たちには「負ける」という選択肢は存在しなかった。
疲労で体が鉛のように重くても、竹刀を握る手は緩まない。
背後に控えるのは、「敗北」、「叱責」、そして「反省」という名の地獄だ。小林がバスの最後尾に追
いやられた光景は、誰の目にも焼き付いており、それは「組織への不忠」の末路を具現化していた。
彼女たちを突き動かすのは、「勝つしかない」という、勝利への義務感と、屈辱を避けたいという恐怖だった。感情を完全に排し、勝利というノルマを機械的にこなし続ける剣道で、群馬彩華は泥臭く、しかし確実に勝ちを重ねていった。
そして、決勝の舞台に辿り着いた。
武道館の観客席には、小林の姿があった。
彼女は他の応援部員や控え選手たちとともに座っているが、その表情は硬く、道場にいる誰よりも緊張していた。
彼女の視線は、かつて自分が立つはずだった副将のポジションに釘付けになっている。
小林にとって、この決勝は自分の価値を再証明するための代理戦でもあった。
彼女が負けたことで不完全とされた優勝を、仲間たちが「完全な勝利」で塗り替えるのを見届けなければならない。そして、もし仲間が敗れれば、その責任はまた誰かに降りかかり、チームの空気はさらに悪化する。小林には、ただひたすらに、勝利を祈ることしか許されなかった。
試合が開始される。
先鋒、次鋒と、続く群馬彩華の選手たちは、疲労の色を見せながらも、一瞬の緩みもない、冷徹な攻めで相手を圧倒し、勝ちを重ねていく。竹刀が交錯するたびに、観客席の小林は、体が震えるのを必死に抑え込んでいた。
選手たちの剣道には、以前のような「ためらい」や「優しさ」は微塵もない。
あるのは、組織の勝利という絶対的な使命だけだ。彼女たちは、「敗北の恐怖」をエネルギーに変え、一歩ずつ、頂点へと近づいていった。




