残雪の到着
愛知の温かい小春日和とは打って変わり、秋田はまだ雪が残り、早朝の寒さが身に染みた。
選手たちは車中泊の疲労で顔に隈を作り、途中のサービスエリアで浴びたシャワーだけが、わずかな休息の証だった。
しかし、バスが武道館の駐車場に停車すると、休憩の時間は一秒も与えられなかった。
監督がバスを降りるなり、凍える空気の中で怒鳴るような声が響いた。
監督:「おい、全員聞け! すぐに防具を背負え。満足な休息は与えられんが、試合前に一通り稽古しろ。長距離移動の緩みを竹刀で叩き出せ! それから試合だ! 急げ!」
選手たちは疲労困憊の体に鞭打ち、急いで防具袋を抱えてバスを降りた。
監督の視線は、真っ先に最後尾の席にいた小林に向けられた。
小林は、前夜の屈辱と孤独な移動で、顔色が蝋のように白くなっていた。
監督:「小林。」
監督は冷たい声で、容赦なく彼女の新たな任務を告げた。
監督:「お前はまずバスの中を整理整頓したら、荷物を持って観客席にいけ。お前の場所はもう試合場ではない。観客席だ。
・・・
小林の代わりは、土井。すぐに着替えて、大将の東、中堅の佐藤と動け。一刻を争う。いけ。」
副将として全国優勝を果たした小林は、今や「荷物運びとバスの整理」という屈辱的な雑務しか残されていなかった。その姿は、選手から、ただの部員へと転落したことを意味していた。
東清美や田中部長を始めとする他のメンバーたちは、小林を一瞥することも、同情の視線を送ることも許されない。
皆、無言で、監督からの命令に従って武道館の道場へと向かう。
小林の顔の近くを通り過ぎる時、彼女たちの表情に浮かんでいたのは、「次は自分の番かもしれない」という恐怖と、勝利の義務に縛られた冷たい無関心だけだった。
小林は、ただ一人、優勝トロフィーが置かれたバスに戻り、「荷物同然」の屈辱を噛み締めながら、道場とは隔離された観客席へと向かうしかなかった。




