押し込められた「荷物」
全国選抜大会優勝という「不完全な勝利」を背負ったバスは、愛知を出発し、一路、秋田を目指した。
夜間の長距離移動となるが、車内は重苦しい沈黙に支配されていた。
敗北の罰として即刻メンバーから外された小林は、バスの最後尾の席に押し込められていた。
かつてはチームの副将として、竹刀を握りしめ、前方の仲間と声を掛け合っていた彼女が、今はただの「同行者」、いや、「荷物」同然の扱いを受けていた。
バスの前方では、入れ替わりでメンバー入りした新選手が、田中や東から厳しい指導を受けている。彼女たち選手の間には、小林との間に、見えない、しかし確固たる境界線が引かれていた。
小林は、窓の外を流れる夜景を、ただぼんやりと見つめていた。
その表情には、敗北の悔しさ、チームから排除された屈辱、そして未来への絶望が複雑に混ざり合っていた。
他のメンバーは、小林の存在を意識的に避けていた。疲労困憊の車中泊の行程において、小林に声をかけ、同情を示すことは、「小林の敗北を擁護し、監督の判断に異議を唱える」と見なされかねなかった。それは、組織への忠誠を疑われる行為であり、最悪の場合、自分たちも監督からの厳しい制裁、あるい
は「不忠」の烙印を押される可能性がある。
東清美も、田中部長も、小林に視線を送ることさえしなかった。彼女たち自身が、かつて「涙を流す権利を剥奪」され、「忠誠」の重みを肌で感じてきたからこそ、弱さを見せることを極度に恐れていた。
小林の体は、選抜大会優勝という栄光の陰で、孤独と冷たい空気の中で硬直していた。




