忠誠の剣道着
体育科長の言葉は、冷たく、そして絶対的だった。
「一週間、常に剣道着で過ごす」という指導は、インターハイ出場メンバー五人全員に下された。
これに加え、反省会で求められた「試合結果への反省、日頃の生活態度、目標への意識、今後どう立て直すのか」を詳細に記した書面を、三日以内に校長、体育科長、監督それぞれに提出するよう命じられた。
反省会の翌日から、彼女たちの日常は一変した。
朝、女子寮の部屋を出る時から、学校への登下校、授業を受け、食堂で昼食をとり、放課後の剣道部の稽
古、そして夜、寮に戻って就寝するまで、全てを剣道着で過ごすことになったからだ。
その剣道着は、稽古の時にいつも着用している特注品の道着だ。
上着の左腕には、誇り高き「群馬彩華」の文字。
袴の臀部には、「群馬彩華高等学校剣道部」の文字が堂々と刺繍されている。
そして、腰板には、「忠誠」という二文字。
それらは、まるで剣道部員に焼き印のように刻み込まれるような刺繍でもあった。
剣道部の稽古にとっては着慣れた道着だ。
しかし、その道着を寮の食堂や廊下、教室、そして学校の敷地内で終始着用し、他の生徒たちの視線に晒されるのは、想像を絶する屈辱だった。
食堂で食事をする時も、教室で机に向かう時も、すれ違う生徒たちの好奇の目や、ひそひそ話す声が、容赦なく彼女たちの心を削っていく。
『あれ、剣道部の人たちだよね?』
『インターハイ準優勝だったんでしょ? なんで剣道着なんだろ…』
『罰なんだよ、きっと。…『忠誠』って書いてあるし』
そんな声が、5人の耳に、痛く響く。
剣道着は、彼女たちにとって本来、道場での稽古着であり、誇りを示すユニフォームだ。
しかし、今は、果たせなかった責任と、裏切ってしまった期待を全身で背負っていることを、否応なしに意識させる『恥辱の証』となっていた。
特に、東清美と田中部長は、その重圧を誰よりも強く感じていた。
剣道着の腕に縫われた「群馬彩華」、袴の「剣道部」、そして腰板の「忠誠」。
…その全てが、個人戦の敗退、団体戦の敗因、そしてそれそれの判断の甘さを、寸分たりとも忘れさせない。
剣道着を身につけるたびに、彼女たちは自らの不敗の誓いを破ってしまったことを思い出し、学校や部の名誉を傷つけたことを自覚する。
そして、何よりも、全国の舞台で勝利を掴みきれなかった自分たちの『弱さ』が、この剣道着姿となって、日々、晒されていることを痛感した。
『これは、ただの罰ではなかった。』
どれほど重い責任を負っていたか。
そして、その責任を果たすことができなかったかが、どれほど大きな失敗であったか。
…それを自覚し、恥じ、そして『二度と繰り返さない』と心に刻み込ませるには、十分に効果的な「指導」であった。
彼女たちのこの一週間は、剣道精神とは何か、そして勝利とは何かを、身をもって学ぶ、長く苦しい日々となっていく。




