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プロローグ 〜空から来た少女〜

この物語はフィクションです。

実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称全てに関して、名称が同一であっても何の関係もありません。


人々が当たり前に暮す現代。

それは知ってはならないモノが闇に隠蔽される事で保たれている表面上の日常世界。

こちらは”精霊と魔法が混在する隠された真実世界”の物語です。

お楽しみ下さい

ー俺には人知れず秘密があるー


それは少なからず誰でも持ち合わせているかもしれないし、あえて秘めているかもしれない。

『秘密』と一言で口にしても、千差万別で内容は十人十色だ。

一言では到底語りつくせない程膨大なものもあれば、語ることさえ出来ない秘密もあるだろう。

人それぞれの『秘密』というものをジャンル分けするとしたらどんな分け方をするか。

食事、食べ物、お金、内容を連想するキーワードなんてものはジャンル分けの定番なところ。

でも、こと『秘密』というものをジャンル分けするならば、


ー冗談のような本当の話ー


こんなジャンルも定番で、俺の秘密もそんな部類だ。

少なくとも俺は俺の秘密を他人に話したい、見せたいと思わないし、信じてくれる人も少ないと思っている。

他人に話したところで実際に直接見せでもしなければ、本当の話なのに冗談だと思われるだろうから。

こんな俺でも見せたくない秘密があるならば、きっと世の中には見てはいけない秘密もあるだろう。


ーーーー2011年5月××日午後11時ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


制令指定都市「千代市せんだいし」。

東京程の大都市では無いものの、地方の中心として都市機能を十分に備え、地方から多くの人間が集まり中規模の都会として多くの市民が暮らしている。

高層ビルが複数建つ摩天楼からは多くの影を地に生み出し、その影では暗い暗い路地を走る者がいた。


「はぁっはぁっはぁっんぐっ」


乱れた息は苦しくても整えることは出来ない。

息を整える所か、この呼吸が止まっても逃げるために(・・・・・・)脚を止める分けにはいかなかった。

時折り後ろを振り向きながら、どこに繋がっているか分からない普段ならまず入らないだろう暗く狭い路地を必死に走る。

本能がさっきから危険信号を出し続けていた。


-止まったら殺される-


それは日常を暮らす人々には中々縁がない恐怖と呼ばれるモノ。平和な現代、特に平和と呼ばれる日本の中で戦争時代を知らない10代の少女は確実に迫る死の恐怖を経験することはまずない。


「いやだっ死にたくないっ」


初めて味わう命の危険。

本能の赴くままに走り、逃げて隠れやすいと思った路地へ路地へと、ハマっていった。


「あっ、あぁっ

ああぁぁあああっ!」


自ら人がいない所へ逃げ込んでいるのに、隠すべき自分の居場所を大声でアピールしてしまう。

それも仕方ない。

逃げ込んだ先は、コンクリートという壁に囲まれた行き止まりだった。


「ぅあっ、ぁあ」


言葉にもならないし、自分が何を考えているかも分からない。

ただ逃げるために嗚咽を漏らしながら、必死に壁をどうにかしようとする。

壁は分厚いコンクリートなのに、素手で叩き、爪が剥がれて血が噴き出そうともひっかき続ける。

足元の空き瓶等の方が当然壁に穴を開ける等は無理なのだが、素手よりはマシなはず。

しかし、思考が恐怖に支配された少女は何も見えていない。

そして、気付く。

ここで、黙っていようが、隠れていようが、命ごいしようがスグ後ろにいる悪魔には無意味だということを。


「しっ、しにっ、ぃやっががあああぁぁっ!!ぅぎ、ぎっぎっぎいいぃ」


深夜の路地裏の中で少女は腕や足、胴体から鮮血を散らしていく。

徐々に叫ぶことも出来なくなっていく彼女には、もはや弛緩した眼や口等から涙や血が入り混じった唾液を垂れ流していく事しかでできなかった。


ーーー2011年5月××日午後11時同時刻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


滑り台と呼ばれる遊具の上に少年はいた。

ここにいればどこか満たされず、でも幸せな毎日に何か素敵な事が舞い降りてくると信じていた。確証があったわけでもなけりゃ、予知なんて便利なものがあったわけでもない。

それに、この公園は景色が良いわけでもないし、大きな公園でもない。

街の歓楽街から少し離れたところにある公園で、周りはテナント募集の張り紙でいっぱいな雑居ビルに囲まれた小さな滑り台とブランコくらいしか遊具も存在しない小さな公園。

ただ、この公園の中央にある小さな滑り台で空を見上げながら寝るのが好きだった。


街の街灯に照らされて、夜なのに暗闇ではなく星空も見えやしない。

灰色のコンクリートに囲まれ、見上げれば電線がいたるところに張り巡らされている街。

でも、この公園の一角だけは空との間に何も無い。


たとえ視界の隅にビルが入りこんだとしても、自分と空の間には何も無い。

小さい頃から、ここで空を見上げていれば何か素敵な事が舞い降りてくる、そんな気持ちがしてくる。


今日も学校の後のバイトの終わっても、このまま何もせずに家に帰るのが嫌でここにいる。

別に家が嫌いなわけじゃない。当たり前に似たような事を繰り返す毎日が憂鬱だっただけ。


「こんな毎日でも幸せなんだろうなぁ」


なんて口にしながら今日も夜空を見上げてた。

しかし、それは突然に変わらない世界を突き破るよう起こった。


-ガシャーン!-


「なんだっ!?」


ガラスが割れるような音。滑り台から慌てて身を起こし音の方向を探る。

滑り台に寝ていたせいで正確な方向は分からない。

周囲を見渡すがほぼ深夜に近い今の時間では、街中の公園とはいえトイレの無いこの公園に人はまず来ない。

いるとしてもカップルかホームレスだろう。

それに音の大きさからして、そこらへんのガラス瓶みたいに小さいものというより窓ガラス一面を割ったような音だった。


「どこだ・・・あっ」


周囲のビル群を見渡している時にソレは視界に飛び込んできた。

割れた窓を見つけた分けでは無い。街灯が点いていてもビルを照らしている分けでは無いのだから、こんな一瞬で見つかりはしない。

見つけたのは、ビルという灰色の森の中で銀色に淡く光る白いモノ。

最初は白い鳥かと思った。

ソレは風に羽ばたかせた白いコートを着た人。

頭まで被っていたフードが風で脱げるとその顔が明らかになった。


銀色の淡い光を放つ白銀の髪は絹糸のように細くサラサラと揺れ

陶磁器のような白い肌

形の良い薄い桃色の唇

長いまつ毛中にある大きな青い瞳


どこから来たのか女の子は公園の真ん中に高さ数十メートルはある空中から足音も立てずに舞い降りた。

150センチ程だろう小さい身体に幼い顔立ち、よくて同い年かまずそれ以下だろう。

特徴的だったのは、闇に溶け込むように銀の髪とは対照的に髪の毛の左側の一部分は染めてあるのか黒かった。


おそらく瞬きをするのさえ忘れてその姿に見蕩れていたのだろう。

彼女の視線が自分と合っていることにさえ気づいていなかったのだから。

視線が交わっていたのは時間にしたら、数秒にも満たない時間。


声にならなかった。

天使がいたとしたらこんな姿をしているんじゃないだろうか。

そんな風に思えてしまう程、綺麗な女の子だった。


少年に興味は無いといったふうに、視線をずらした彼女は


「あっちね・・・」


そう呟いた後、何事も無かったようにゆっくり歩いて公園の外へと消えていった。


「なんだったんだ・・・」


思わず胸に手を当てて彼女が降りてきた空を見上げる。

胸の動悸が激しい。


何回か深呼吸を繰り返し落ち着いてくると探していたものを見つけた。

公園のすぐ近く、電気の消えた雑居ビルの公園側に面した窓ガラス。明らかにここから飛び出しました、というように軽く畳一枚分程の大きさの窓ガラスが盛大に割れている。

割れた窓がある階は8階。


「やっぱりあそこから飛んで来たんだよな・・・たぶん」


あの女の子があそこから飛んだ所を見たわけじゃないし、とても人が飛び降りて助かる高さじゃない。

しかし、ガラスが割れた音のタイミングからスグ現れた女の子。

それに、確かに飛んでいたのを見ている。

まず間違いなく彼女はあの窓から飛び降りたと考えるのが妥当だろう。

どうして平気なのかは分からないが、それが当たり前みたいに気にした様子さえ無かった。


「よしっ」


滑り台から降りて彼女が向かった方へ動き出す。

気になって仕方がなかった。

不思議なことだらけだったが、単純にあの綺麗な少女の顔が頭から離れない。

深夜帯のおかげで車もいない空の道路は走りやすい。

一度追いかけようと思ったら、いつの間にか体は既に彼女の後を追いかけるように走り出していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



たどり着いたのはつい最近までゲームセンターやビリヤード、ボーリング等のアミューズメントが入っていた雑居ビル。

不況のあおりで客足が低迷し閉店。古い建物でテナントも入らず近いうちに取り壊し取り壊しが決まっている廃ビルだ。


なぜか何の根拠も無く、彼女がここに入ったような気がする。


入り口のシャッターは開いているものの、電気は当然止まっていてエレベーターは動いていない。

小窓から差し込む明かりが頼りの中、少しずつ階段を上っていく。

静かに歩いているつもりだが、何か彼女に関する音が聞こえてこないか耳を澄ませているとやけに自分の足音がうるさく感じた。


-コン、コン、コン-


コンクリート製の階段を上る自分だけの足音は聞いていて思考を冷静にさせる。


「さっきから不思議なことばかりだ」


彼女の存在が一番の謎だが、ちょっとした疑問が頭から離れない。

例えばここまでの道のり。

この廃ビル内ならまだ分かる。

しかし、いくら深夜とはいえ公園からこの廃ビルまでの軽く300メートル程はある距離、公園はもとよりこの廃ビルに来るまで人を見かけなかった。

公園からここまでの間にはマンションやアパートもあれば当然ここまで道路の上を来たのだから住民や車も通る。

それなのに、人はおろか走る車も普段は数台止まっている路上駐車の一台も見ていない。



ポケットから携帯電話を取り出して、壁側に向けて開く。

携帯の画面のライトで照らされた所には、3Fと書かれている。


「三階はたしかボーリング場だったよな」


考えを続けるほど色々と引っかかる。


ここに彼女を追ってくる原因にもなった窓ガラス。

いくらテナント募集でビルに人がいなかったとしても、あれだけの音がしたのに誰も現れなかった。

手の平で存在をアピールしている画面を見ると見事に”圏外”と表示されている。

いくらコンクリートに囲まれていてもここは街中で地下でも無い上に、閉店する前に以前来た時は間違いなく電波が通じていたハズだ。


最近世間では連続通り魔事件がこの街を騒がしていた。

通り魔事件にはいくつか共通点がある。


1、狙われているのはいずれも学生


2、被害現場は人通りが無い路地や廃ビル


3、目撃者は皆無で悲鳴の一つも聞かれていない


4、何か鋭利な凶器による犯行


それらから警察は同一犯による連続通り魔と断定。

おそらく犯人は被害者達と同年代もしくは近い年齢と予想して捜査している。

つまり自分と同じくらいの年齢ということ。

皮肉にも事件の起きてきた現場状況と被害者の条件、そして犯人と予想される全ての条件を今の状況はほぼ完璧に満たしていた。


「ははっまさかな・・・」


━━━━っ━━━━!


「っ!?」


聞こえたのは紛れもなく悲鳴。

それもおそらく若い男性で丁度今いる階から聞こえた。


足音を限りなく立てないようにしながら、室内へと足を進めていく。

ここのボーリング場は電気を消してレーンだけ光らせて投げさせる事もしていたせいか、窓も存在しない。室内は通路からの明かりが塞がれたら完全な暗闇となる。


ゆっくりと暗闇に眼と耳を向けながら足を進めていく。


我ながら軽率だったのかもしれない。

特に携帯電話が圏外なのはまずかった。

悲鳴が聞こえたという事は、襲われる者と襲う者がいる可能性が高い。

もしもの場合、緊急車両を呼ぶことも出来なければ連絡も取る事が出来ないからだ。


それに、襲撃者が通り魔事件の犯人だった場合鋭利な凶器を持っている可能性が高く、おまけにいくら腕っ節に少なからず自信があるにしても素手が不利なのは確かだ。

何はともあれ悲鳴を聞いてしまったからにはそのままにはしておけない。

当初の目的はとりあえず後回しにして、今するべきことは先ほど聞こえた声の主の確認が最優先事項だろう。


フロアにはかつてのボーリング場だった面影はほとんど無く、カウンターと10あるレーンが残されているだけだった。

わずかに残された休憩スペースの名残のベンチ、カウンター裏、眼をこらして見渡す限り、この室内には誰もいない。

あと考えられるのはトイレと、自分が入ってきた通路の対面側にあるもう一つの通路。非常階段はまあ外しても良いだろう。


ここには友人や妹と遊びに来た事があるから分かる。

この先のうっすら明るい通路の先には軽食を楽しむレストランがあったはずだ。

そう思っていた矢先、現状は急変した。

通路の先が緑に光る


-ドンッ!ドンッ!!ガガガンッッ!-


車のパッシングのように緑色に激しく光、それに車が衝突したような轟音と何かがなぎ倒し崩れる音。

その急激な事態の変化に体が勝手に通路の先へ急行する。


「・・・・ばっばけもの・・・た、助け・・・」


-今度こそ間違いない!-


走る通路に聞こえたのは紛れも無く先ほどの悲鳴と同じ声。

今度は銀色の光、そして何かが倒れた音。

その音に嫌な予感がして、先程の発光や轟音、悲鳴に混じる単語の意味も考えずに室内へと飛び込む。


開いたままだったガラスのドアを潜ると嗅いだ事のある鉄の臭いがした。

窓から差し込む月明かりのみが照らす薄暗い店内では、テーブルやイスなどレストランの名残が積み重ねられていてちょっとしたホールのようだった。


そして、中央に彼女は一人立っていた。


よく見れば椅子やテーブルが乱雑に散らばっていて、白いコートを着て一人立つ少女の姿は幽霊のようで先程見た少女とまるで印象が変わっていた。


所々破けた白いコートには沢山の赤黒い染み、陶器に塗った染料のように頬に付いた赤いモノは紛れも無い血。

彼女の足元にうつ伏せに横たわっている物言わぬモノは間違いなく悲鳴の持ち主。

顔は見えないが倒れているのはどこかで見覚えのある学生服着た少年。

少女の細い指には、凶器は握られていないがぽたぽたと血が滴っている。

少年の背中を見ているだろう横顔は黒い横髪に隠れて見えない。


鮮血にまみれた少女は独り言のように言う。


「やはり・・・来たのね」


ゆっくりと向けられた顔は、少年がこの場に現れた事にもどこまでも冷静な無表情で青い瞳は氷のように冷たい眼をしていた。


「ソイツはアンタがやったのか」


紛れも無く、倒れた少年をやったのは彼女しか考えられない状況だった。


「質問に答えるつもりは無いわ。

あなたが見たものが全てであり、それはあなただけの記憶」


10メートル程の先から彼女は顔の血を拭う事もせずにゆっくりと近づいてくる。

不思議とその姿に恐怖は感じなかった。


「世界は尊く儚く脆い。

あなたが今見ている世界はそんな世界」


それは機械的な喋り方でその言葉を全ての人に聞かせるのが決まってるような、そんな喋り方だった。

だから否定する。


「違う」


その時、彼女は初めて違った表情を見せた。


「オレが見ている世界は、どこまでも鮮やかで眩しく、どこまでも優しい、大切な居場所だ」


手が届くほどの距離に近づいていた少女は僅かに目を大きくして確かに驚いた表情をしたのだ。

しかし、また直ぐ元の無表情に戻ってしまう


「なら、私はあなたの世界を保つために・・・」


そう言って血で濡れた右手を少年の顔に向ける。


「今ここにいる、あなたの事を消し去るわ・・・」


動かなかった訳じゃない、眼が離すことが出来なくて動けない。

浸み込むような澄んだ声はどこか懺悔のような寂しさで、目の前には血で濡れた小さな手の平。

血にまみれながらもこんな事をしている白銀の髪の少女。

その姿があまりにも鮮烈で儚い小さい少女に感じたから


「儚く脆いのは、今オレが見ているキミの事じゃ無いのか」


焼きつくのは視界を手と銀色の光で蔽われる瞬間に見えた僅かな記憶。

青い瞳は悲しげに揺れて泣いているようだった。



-そして意識は、光の中へと消えていった。



『ヒトというナの』『精霊騎士物語』

二つの世界の物語をどうぞよろしくお願いします。



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